第2話 再会
彼女と再び会ったのはゴールデンウイーク前の日曜参観だった。いつから父親参観でなく日曜参観と呼ぶようになったのだろうか。昨今の色んな事情の子供がいることを鑑みてのことなのだろうか。そうはいっても日曜参観にはやはり父親の姿が目立ち平常の倍の保護者たちで小さな園庭は埋め尽くされている。
保護者の平均年齢が若干高めの40才前後となるこの幼稚園では落ち着いたスタイルのママが多く、デコラティブで大きめのイヤリングに流行のサルエルパンツの彼女は目立った。
この日を待って私に話しかける準備をしていたのだろうかと訝るほどの自然さで彼女は私を見つけるや否や駆け寄ってきた。「あの、洋(よう)くんママですよね?ライン交換してもらえませんか?」と少し上ずった声で話しかけてきた。
初対面でブランコの前で話した日には子供同士が同じクラスという認識はあっただろうが私が田口洋の母親だとは知らなかったはずだ。この数週間の間に何らかの形で私の名前を知ったのだろうか。
どうやら私は自分の物語に潜む膿を吐き出したくてたまらない女にとって最適の対象であるようだ。迷える女達の駆け込み寺のような存在になりつつある自分のことを恨めしく思わずにはいられない。
ここ20年でうち明けられた彼女たちの物語は実に多様だ。男のこと、母との確執、親からの虐待、親の介護を巡る兄弟の諍い、夫からの暴力、裏切り、子供の病気、不登校。私はもう何を聞いても驚かない。さすがに「実は私、昔人を殺したことあります。」くらいの話なら一瞬目を大きく見開くくらいのことはするだろうがもしかしたら静かに肯きその後の物語を紐解いてしまうような気もして私はそんな自分に慄く。
もしかしたら若い頃に囓った心理学やカウンセリング、当時読み耽ったフロイトやユングの本などからの影響が少なからずあるのだろうか。そんなことを反芻していた時にやはり思いのほか早いタイミングで彼女からお茶でも飲みませんか?との誘いがきたのだった。
独白する女たち バルセロナ @katsutsu0103
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