独白する女たち

バルセロナ

第1話 美保38才


息子の幼稚園で出会った年下のママ。

彼女と出会ったのはある年の春。

幼稚園での恒例行事。担任の先生からクラス役員を決める前に30人程の保護者が一人ずつ自己紹介を促され彼女の番になった。「あのう、、私すっごい人見知りで今日もすっごい緊張しています。だから朝から少し呑んできました。」クスクスと笑う声も聞こえたようだが私は笑えなかった。彼女の声色からそれがウケを狙い計算して話してるというのではないと察知したからだ。私は子供の頃から多くの人が気付かないで通り過ぎるちょっとした人の感情の波や本人も無意識に抱え持ってきた心の痼りに敏感に反応してしまう。そして私はそれを望んでいないにも関わらず受容してしまうのだ。


帰り際、園庭のブランコに乗る女児の傍で所在なげに立っている彼女に会釈をして前を通り過ぎようとしたとき「桃組のママさんですよね?私、今日変じゃなかったですか?ヤバイ人って思われてないですか?」と畳みかけるように一気に話しかけられ一瞬たじろいだものの「いや、大丈夫だと思いますよ。初対面だし、緊張するのも分かります。」と私はいつもの調子で無意識に少し微笑みかけていたかもしれない。それを彼女はこちらが意図せぬ了承ととったようだ。なぜならその日をきっかけに私は彼女の演じる結末のない舞台の観覧席に座ることになるのだから。




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