新人デザイナー?



 僕はデザインを描き上げて、おじさんを見た。すると視線に気が付いたおじさんが僕を見て、状況を察して口を開く。

 

「お、出来たか? なら依頼人に完成予想図を送って見積もりを確定するからコッチ寄越せ」


 言われた通りに、僕はシリアスと受けた初のデザイナーワークをおじさんの端末に送る。

 

 おじさんは機体を弄りながら器用に端末を操ってそれを処理して、依頼人さんに見積もり書とサンプルデザインを送ったらしい。


「それ、デザインだけ持って行かれて別の場所で使われたりしないの?」

 

「んなのロック掛けるに決まってるだろうが。自分のガレージで自分の手で、デザインのホロを見ながら機材も使わずに手作業で塗装するなら出来なくも無いが、サンプルデータは他じゃ使えない様にロックされてるから心配は要らんぞ。この時点で著作権も発生してるから、手作業で塗装しても都市管理システムに問い合わせたら一発で捕まる。流石にリスクが高過ぎるから普通は誰もやらん」

 

「そうなんだ…………」

 

「おう。…………お、見積もり通ったな。依頼人もこれで良いってよ。へへ、毎度あり。これで俺の仕事も確定したぜ」


 おおう、マジか。本当に僕とシリアスのデザインが、売れたって事?


 うわ、なんか嬉しい。凄い嬉しい。


「へっ、新進気鋭のマシンカラーデザイナー、ラディアのデビューか?」

 

「そ、そんな大した物じゃ…………」

 

「いやいや、なんならお前、女装モードで顔出しやるか? 依頼人も大半は男だから、やっぱ可愛い女の作品って方が喜ぶ場合も多いぞ。お前の女装クオリティならすーぐ人気出るさ」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」


 止めてよ。変な事言わないでよ。せっかく週に一回までって決めたのに、シリアスがその気になっちゃうじゃん。

 

 ほら、シリアスが『探しても見付からない、画像でしか見れない謎の美少女デザイナー・ラディアちゃん。…………シリアスは良いと思う』とか言ってるじゃん。


 本当に止めてって。僕はシリアスからお願いされると本当に断れないんだ。出来れば止めてってお願いするしか無いんだ。その結果が週一の女装なんだよ。

 

 今週はまだ女装してないし。まだシリアスは今週分の『ラディア女装させ権』持ってるんだよ。


「そうか? 人気出ると思うがなぁ。謎の美少女アイドルデザイナー・ラディアちゃん。いや、名前も変えるか? ディアちゃんなんてどうだ?」

 

『シリアスは良いと思う。女装時のディアはディアと名乗るべき』

 

「ディアーラとか、ナディアとか、案は色々あるぞ?」

 

「止めてってばー!」


 最終的に、アイドル化するなら『ディアラにゃん』が芸名と決まった。『にゃん』までが正式な呼び名だそうです。…………アイドルとか絶対やらんからな。

 

 でも女装時は本当にディアラと名乗る事になった。ちくしょう、おじさんの馬鹿野郎。


「もう、なんでだよ。僕は男なのに。ほら見てよ、この傭兵ジャケット、カッコイイでしょ? 男らしいでしょ?」

 

「…………ラディア、お前鏡は見てるか?」

 

『ラディアは頑張っても、血の滲む様な努力の果てに「カッコイイ」までが限界。「男らしい」は不可能』

 

「そんな馬鹿なッ!? そこまで言う!?」


 こ、こんなにビシッと傭兵ルックで決めてるのに、男らしく無いだと……!?

 

 カッコイイまでは行けるけど、男らしくは無理って、それもう僕が現時点でも『カッコイイ服の女の子』って事じゃないの?

 

 嘘だ嘘だ嘘だ! 僕が女装しない時から女の子判定を受けるなんて嘘だ嘘だ!


「ラディア、知ってるか? 巷ではお前みたいな奴を『男の娘』って言うらしい。男の子じゃねぇぞ。『オトコノムスメ』と書いて『オトコノコ』と読む『男の娘』だ」

 

『シリアスは、女装男子と男の娘は混ぜるべきでは無いと主張する。ラディアが男の娘なのは非女装時のみ』

 

「つまり女装して無くてもどっちにしろ女の子扱い確定だとッ!?」


 も、もしかして、タクトグループの女の子達が妙に僕への当たりが強いのって、マジで女の子ポジション扱いされてた……? タクト争奪戦の準参加者扱いされてた?

 

 う、嘘だ…………。知りたくなかったそんな事実……。


『ラディア。通信要求が来てる』


 僕が新事実に打ちのめされてると、シリアスがそう言った。見ると確かに、手に持った僕の端末が反応してた。


「誰だろ。…………カルボルトさん?」


 通信を受けると、今回はホロ通信らしくてカルボルトさんの姿が端末からホログラムで浮かび上がる。


『よっ! 久しいな!』

 

「お久しぶりです! 先日はオスシ、ご馳走様でした!」

 

『良いって事よ! また行こうな? 今度はお前の稼ぎで』

 

「はい! 頑張って稼ぎます!」


 ぶっちゃけ、カルボルトさん一人にだけご馳走するなら、今の稼ぎでもそう難しい事は無い。一回の食事の代金が狩ったデザリア一機分の売却額と同額なのヤバ過ぎるけど、無理では無い。

 

 むしろ、カルボルトさんも良く僕達に奢ってくれたよね。八一○万だっけ? 正規品のデザリアが三機買えちゃう額だぞ。


「それで、何か御用ですか?」

 

『おう。ほれ、うちの団長に会って欲しいって言ってただろ? その件だ。それと、俺がまたシリアスに会いたいってのもあるな。ムービー撮らせて貰うの忘れてたしよ』

 

「…………なるほど。えっと、女装少年が大好きな団長さんでしたっけ?」


 正直に言おう。めっちゃ嫌だ。


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