いつか海洋都市で。



 充分な話し合いの結果、シリアスが折れてくれた。


『…………妥協。此処ここはシリアスが譲る』

 

「ごめんね! でも、コックピットさえ弄ったらもう、後は稼ぐだけだし、他のカスタムはシリアスの希望通り進めるからさ」

 

『そも、ワガママを最初に提案したのはシリアス。なのでラディアは悪くない。しかし、自身を蔑ろにするのは止めて欲しい。非推奨行動』

 

「うん、わかった。でも、蔑ろにはして無いよ? 充分前の生活よりは楽なんだし」

 

「まぁ、水の心配が要らないだけで天国だよな」

 

「ホントにね。それに、仮に寝る場所さえ無くなっても、シリアスのコックピットに居れば暑さも寒さも大丈夫だしさ」


 結局は僕の意見が通り、カスタム計画は固まった。その頃にはみんなもお腹がいっぱいになって、ふにゃふにゃだ。


「さて、良い時間だし、そろそろ締めるか」

 

「はい。ご馳走様でした!」

 

「さまでしたー!」

 

「おいしかったー!」

 

「楽しかったぁ〜!」


 みんな口々にお礼を言う。最年少の幼い子なんかは、カルボルトさんにヒシッと抱き着いてた。

 

 歳を重ねた僕らみたいな孤児じゃ無くて、まだ孤児の流儀に染まり切ってない様な歳の子は、もうカルボルトさんが無償で助けてくれた親戚のお兄さんみたいに思えてる。


「おにいしゃんしゅきー!」

 

「かっこいい〜!」

 

「おう、ちびっ子達も元気でな。お前ら、今回はラディアとタクトのお陰でこうなったが、何時いつかは自分の稼ぎで食える様になれよ。もしお前らが傭兵になって、もし仕事を一緒にする事があったら、その時はまた一緒に飯でも食おうぜ。…………流石にまたガーランドでスシって訳にゃ行かねぇけどよ」


 これに対しては大体みんな、「傭兵を目指します!」で声が揃う。小さい子は「なうー!」って可愛い。

 

 えんもたけなわ、楽しい時間は延々に続かなくて、僕らはそろそろ輝かしい時間からスラムに帰らなくては成らない。

 

 皆が帰り支度を初めて、帽子博覧会が再開される様子を見ながら、僕は改めてカルボルトさんにお礼を言う。


「今日はありがとうございました。今度は、何時いつかは、僕が稼いでご馳走様出来る様に頑張りますね」

 

「へっ、期待しとくぜ? そん時ゃぁ、ウチの団長も誘ってやってくれよ」

 

「女装無しで良いなら」

 

「ははは、そいつァ残念がるだろうな。坊主は本当にソレ似合ってるしよう」


 うるさいやい。女装が似合ってても嬉しくない。

 

 僕だってちゃんとすれば、タクトみたいなシュッとしたカッコ良さとか、カルボルトさんみたいなキラッとしたカッコ良さも出せるんだい。決してふわっとした可愛さだけの生き物じゃない。

 

 これは偶然なのだ。ちょっと変な化学反応を起こして似合っちゃっただけで、本当の僕はシリアスに相応しい男らしい傭兵のはずだ。


「シリアスのお願いじゃなきゃ着ませーん!」

 

『ならば毎日お願いしたい』

 

「だめー! 本当に心の底から、僕が女装しないと陽電子脳ブレインボックスがストレスで破損するって言うなら毎日着るけど、そうじゃ無いなら制限を設けます! お願い! 設けさせて!」


 具体的には週に一回とか二回とか。シリアスのお願いは無条件で全部受け入れたいけど、僕が生き物で在る以上は限度が有るんだ。女装自体は受け入れたのだから頻度は僕が指定したい。じゃないと僕の何かが壊れてしまう気がする。


『週五を希望』

 

「多い! 多いよシリアスッ! て言うかメンズの僕はそんなに見たくないッ!? そんなに似合ってない!?」

 

『…………否定。そう言われると、確かに男性用装束のラディアも見たいと思う。女装のクオリティが異常なだけで、普段のラディアも可愛らしい。ならば、週三から週四希望。週の半分を女の子、半分を男の子で過ごすべき』


 …………あ、僕ってメンズ着てても判定が『可愛らしい』なんだ。そっか。マジか。

 

 僕はもしかして、『カッコイイ』には成れない生き物なのか。


「…………週一か、多くても週二で。普段から性別を偽ってたら感性が壊れそう」

 

『……妥協。あえて頻度を下げる事で、女装時の希少価値を底上げすると思えば、それもまた良い。しかし、週一から週二で手を打つ場合、ラディアには更なるクオリティ向上に務めてもらう。具体的には声と仕草を意識して欲しい』

 

「し、シリアス。君はいったい何処に向かってるの……? いや、僕を何処に向かわせたいの……?」


 そして交渉の結果、週一に決まりました。その代わり全力で女の子しなさいって決まりました。僕が何をしたって言うんだ……。

 

 ワイワイ騒いで、ガヤガヤしながらお店を辞する。帽子博覧会しながら、タタミやフスマと言う独特な内装を使う店内を歩いて外へ向かう。

 

 会計はもう済んでいて、カルボルトさんに総額を訊ねてみた。

 

 一人当たり約三○万シギルだそうだ。変な声出た。

 

 三○万を、二七人分…………? 八一○万シギルじゃん。


「一人でもバイオマシンのカスタムパーツ並みってヤバく無いですか……?」

 

「だから最初嫌がっただろうが。天然物の鮮魚はガーランドだと本当に高いんだぞ。しかもこの店の『天然物』って、本来の意味の『天然物』だからな。余計に高いんだ」


 あ、そう言う事か。養殖管理された食材じゃなくて、海で捕獲した野生の食材を使ってるのか。そりゃぁ高いはずだ……。

 

 しかもガーランドまでの輸送費まで追加したなら、バイオマシンのカスタム代並のお値段でも当然か。保存技術はもう極まってるから問題無いはずだけど、距離に応じて護衛を雇う回数も増えるんだし、その分輸送費は嵩む。

 

 警戒領域を通れば通る程に輸送費は跳ね上がって行く。それに保存に問題が無くても、その技術にはお金がかかるのだ。

 

 も、もしかしたら魚を生きたまま連れて来てる可能性だってあるし…………。


「まっ、何時いつか奢ってくれるの、期待してるぜ?」

 

「…………か、海洋都市で食べませんか?」

 

「そん時ゃぁ旅費は坊主持ちな?」

 

「ちくしょう」


 ちゃっかりしてるカルボルトさんに、流石ベテランだなと思いながら、僕らはスラムへと帰る。

 

 楽しい夢の時間は終わり、でも何時いつかきっと、もっと楽しくなるかも知れない毎日に帰るのだ。


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