お友達じゃ無かった。



「…………ねぇシリアス。やっぱり、シリアスの僚機も、暴走してるの?」


 右ガチ、からのフリフリ。


「多分そうだけど、よく分からない?」


 右ガチガチ。


「なるほど。……どうしてシリアスは、平気だったの?」


 フリフリ。分からないのか。……うん、バカな事聞いたな。分かってたら、シリアスだってシートの後ろに居る子も、正気に戻してたはずだよ。

 

 あー、僕はなんてデリカシーが無いんだろう。シリアスはこんなに素敵なのに、僕が釣り合ってない。申し訳ない。


「……シリアス、どうする? 僚機さんは、売る? それとも、壊す? この辺で売ると多分、自我の低減措置が入るから、僚機さんの自我が消し飛ぶ訳じゃないけど、でも確実に低減措置かは分からない。僕には約束が出来ない。もしかしたら自我破壊措置とかかも知れない」


 シリアスは悩んでるみたいだった。

 

 お友達の事だもんね。どんなお友達だったのかな。聞いても良いのかな。思い出させたら、ダメかな。

 

 うん、止めとこう。デリカシーが無いにしても、限度がある。


「…………あ、そうだ。シリアスがこのまま保存してあげられるなら、ずっとコックピットに置いておく?」


 左ガチガチ。何かダメらしい。


「保存が出来ない?」


 右ガチガチ。


「今は出来てて、でも無理? つまり長期的な保存は出来なくて、今は応急処置的な?」


 右ガチガチ。


「…………そっかぁ。適当な提案して、ごめんね」


 頭撫で撫で。

 

 悩んでるのはシリアスなのに、優しい。


「……………………ねぇシリアス、物凄く無責任な事言って良い?」


 右ガチガチ。


「僕は、売った方が良いかなって、思うんだ」


 フリフリ。理由が分からないって事かな。


「もちろん、お金が欲しいって気持ちはあるから、そこは嘘を付けないよ。でもね、なんて言うか、シリアス達の時代の技術力に比べたら、僕から見ると現代って何段も落ちるクソザコナメクジだと思うんだよ。現代人はクソザコナメクジ」


 右をガチガチさせかけて、止まる。肯定すると僕もクソザコナメクジって事になるから、気を使ってくれたのかな。優しい好き。


「だからね、今僕が語った陽電子脳ブレインボックスの処理も、現代人がそうした気になってるだけで、もしかしたら全部、自我が無事かも知れないなって思ったんだ。…………いや、本当にぶっ壊されてたり消されてたりしたら、不謹慎この上ないんだけどさ」


 頭撫で撫で。気にするなって事かな。嬉しい好き。


「僕ら現代人がマジでクソザコナメクジな事に期待して、何時いつか、陽電子脳ブレインボックスの暴走をちゃんと止める方法と、沈静化処理された陽電子脳ブレインボックスに残った自我をサルベージ出来る方法、この二つが見付かるまでは、何処どこかで生きててくれたらなって、そう思うんだ」


 もしそうなったら、本当に僕ら現代人が陽電子脳ブレインボックスの自我を壊したり消した気になってるイタいザコだった場合、現存する陽電子脳ブレインボックスは皆、元通りに生き返れる。


「……本当に壊れたり消されてる場合は、無責任過ぎる提案なんだけどさ。もしそうなったら、この先にもし本当にそんな未来が来たらさ、シリアスがシリアスの判断で、僚機の陽電子脳ブレインボックスを壊したら、後悔するかなって」


 めっちゃ頭を撫でられた。えっと、このタイミングでこれはどう受け取れば良いんだろうか。


「えと、そんな感じ。僕の提案は以上です」


 右ガチガチ。


「……それで、どうする? 売る?」


 ……………………………………右ガチガチ。


 悩んだ。凄く悩んだ後の、右だった。


「本当に、良い?」


 右ガチガチ。

 

 決意は硬い、のかな?


「…………うん。分かった。売ろうね。それで、僕だけの取り引きなら買い叩かれてもボッタくられても良いけど、今回はシリアスのお友達を送るんだもんね。絶対に変な値段では……」


 左ガチガチ。………………ん? え、今のタイミングって何を否定された?


「……あ、僕ならボッタくられてもってとこ?」


 左ガチガチから右ガチガチの左ガチガチ。なになになに。


「えと、否定肯定否定、だから、違うけど、それもそう。でも違う?」


 右ガチガチ。合ってるらしい。つまり?


「…………僕の取り引きも大事だけどそれは置いといて、………………もしかして、この僚機さん、お友達じゃ、無い?」


 右ガチガチ。マジかよ!


「お友達じゃ無かったのッ!? こんなに真剣に悩んでたのにッ!?」


 右ガチガチ。


「えと、ただの知り合い?」


 左ガチガチ。知り合いですら無いッ!?


「同僚? 面識無いけど職場一緒だし、的な?」


 右ガチガチの、右ガチガチ。大正解。

 うぉおぉおおっ……!? し、シリアスが天使過ぎるっ!


「顔見知りですら無い同僚の為に、そんなに真剣に悩んでたのッ!? シリアスが天使ぃ……!」


 左ガチガチガチガチガチガチ。これは分かる。照り隠しだ!


「シリアスは天使だよ! 僕の天使様! 違くないの! 天使なの! 砂漠の天使! ほら、死にかけの僕を助けてくれたし!」


 左ガチガチガチガチガチガチ。凄い拒否して来る。照れてるの可愛い。どうしよう、胸がキュンキュンする。脳みそが女の子になりそう。


「ふふ、どれだけ左をガチガチさせても、シリアスは天使だからね。これは譲らないよ。あ、ほら、だからそんなにガチガチさせても譲らないってば。僕の大好きなシリアスは天使なの!」


 こんな感じで、僕はずっと天使天使言ってて、シリアスも町までずっと左のシザーアームをガチガチさせてた。可愛い。


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