古代文明の名前。



 ゆったりした歩みで往く砂漠を眺めながら、僕はお話しを続ける。


「それで、あーえっと、これも今更だけど、シリアス達を作った国とかって、もう全部の国が、ものすんごく昔に無くなってて、だから現代人はその頃の文明の名残を纏めて、古代文明って呼ぶんだ。シリアスの国も、シリアスの国の敵だった国も、全部纏めて古代文明。だから、現代人って、基本的に古代文明同士の事とか気にしないから、もしシリアスが戦わないといけない敵対国の機体とか見付けても、出来れば攻撃しないで欲しいんだ。乗ってる人も敵対国の所属じゃ無いし」


 右ガチガチ。良かった。

 

 うん、凄い。本当に凄い。シリアスって凄い。お話しを全部、ちゃんと聞いてくれる。

 

 全部のバイオマシンがシリアスみたいなら良かったのに。でもそうしたら、僕がシリアスに出会えなかったか。じゃぁ今のままで良いや。


「えーっと、なんだっけ。そう、シリアスの国って確か、虫型のバイオマシンを作ってた古代文明は…………、えっと、ハイマッド帝国、だっけ?」


 右ガチガチガチガチガチガチガチガチ。


 おおおお、凄いガチガチだ。今までで一番のガチガチだ。

 

 やっぱり、自分が所属してた国の名前が残ってるって、嬉しいのかな。シリアスが嬉しいなら僕も嬉しいな。ちゃんと古代文明の名前を知ってた僕、偉い! 凄い偉い!


「そう、ハイマッド帝国と仲悪かった国の機体とか、入り乱れてるのが現代なんだ。それで、多分シリアスが作られた場所もそうだと思うんだけど、基本的に今も稼働してるバイオマシンの生産施設って、一つ残らず暴走してるんだよね。……シリアスの作られた場所もそうじゃなかった?」


 右ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ。おお、もう、「そう! そうなんだよ!」って感じが凄い伝わって来る。

 

 そうだよね。シリアスってこんなに優しくて理性的だもん。問答無用で襲って来るバイオマシンを永遠に作ってる基地とか、怖かったよね。よしよし。コックピット撫でちゃう。

 

 そしたら頭ヨシヨシしてくれた。お返し貰っちゃった。えへへ。


「それで、此処ここが凄い大事なんだけど、良く聞いてね。現代人って、陽電子脳ブレインボックス生体金属ジオメタル、このどっちも、作れないんだ」


 ピタッと、シリアスのあらゆる挙動が止まった。移動してる景色も止まる。

 

 驚いた、のかな?


「ビックリした?」


 右ガチガチ。ふむ、シリアスは現代人の技術がもう少しマシだと思ってたみたいだ。現代人を代表してゴメンなさい。


「うん。作れないんだ。陽電子脳ブレインボックス生体金属ジオメタルも、古代文明のバイオマシン生産施設、僕ら現代人はやっぱり纏めて古代遺跡って呼んでるけど、その暴走した古代文明が産出してくれた暴走バイオマシンからしか、手に入らないんだ」


 何となく、シリアスが戸惑ってる気がする。

 

 ごめんね。現代人がしょぼくて。


此処ここで問題なのは、僕達現代人は陽電子脳ブレインボックスを作れない。でも古代遺跡から出て来るバイオマシンは基本的に暴走してる。シリアスみたいに理性的で優しくて頼りになって素敵なバイオマシンは、もう極々稀。クソ親父…………、ごめん。僕の父親曰く、シリアスみたいな分かり合えるバイオマシンって、御伽噺よりちょっとマシくらいの確率なんだって。要するに、伝説とまではいかないけど、一般人にしてみたらまぁ、ほぼ伝説の存在。国単位で見たら二、三機は居るみたいだけど、普通に暮らしてたらまずお目にかかれない」


 驚いて、時々歩行が止まるシリアスが可愛い。シートを撫で撫で。グリップも撫で撫で。コンソールも撫で撫で。


「話しが戻って、陽電子脳ブレインボックスは作れないのに入手した陽電子脳ブレインボックスも暴走してて使えない。使ったら起動したバイオマシンがそのまま周辺の現代人を襲うからね」


 右ガチ。「なるほど」みたいな感じかな。


「だから僕達現代人は、入手した陽電子脳ブレインボックスを沈静化処理してから使うんだ。この沈静化処理って言うのは色々あって、完全に自我を一旦壊してからわざとメチャクチャに組んだり、自我を極限まで薄くして鈍化したり、内包した知性を丸ごと完全にデリートしてから別の知性を入れちゃったりする。国によっても違うし、まず陽電子脳ブレインボックスが持ち込まれる企業によって違うかな。僕が町で売ると、多分、自我の鈍化かなぁ。確証は無いけど、確かそれが一番安い方法なんだって」


 心做しか、シリアスの速度が落ちた気がする。落ち込んだのかな。


「えっと、シリアス? もちろんシリアスが嫌なら、僕は陽電子脳ブレインボックスを売ったりしないから、嫌なら言ってね? 気を付かなわねいでね? 陽電子脳ブレインボックス売りたくないって決心したら、そうだな。両方のハサミをガチガチしてね」


 右ガチガチ。


「それでね、えーと、現代人はそう、陽電子脳ブレインボックスを作る技術が無いの。だから当然、陽電子脳ブレインボックスに干渉する技術も拙いの。普通に初期化して最初からにしてあげる事さえ出来なくて、自我を壊してから組み直してメチャクチャにするのとか、あれも陽電子脳ブレインボックスの技術が凄過ぎて現代人がどうにも出来なかった時に、たまたま壊した自我を適当に組み直した企業がそのまま機体を動かすのに成功しちゃったって感じなんだよ。それに、知性の入れ替えだって、拙い技術で作った拙い知性だから、殆ど人の命令を聞くだけの家畜みたいな感じになってる。個人的には、自我の鈍化が一番優しいかなって思うけど……」


 ぶっ壊したり入れ替えたりするより、ずっとマシだと思う。シリアス側から見たら例外無く鬼畜の所業だと思うけど。

 

 そう思うと、死肉を漁って脳をぶっこ抜き、人格ぶっ壊したり完全にデータ吹っ飛ばしてから新しいゴミ人格入れて奴隷にしたり、ドギツイ催眠術で自我を眠らせたりしてるんだよね。クズじゃん。現代人クズじゃん。

 

 ああバイオマシンに敵対されて当たり前のクズじゃん。なんかもう、そのまま襲われて滅びろよって思って来た。クソ親父が乗ってたオオカミちゃんもそうだったんだよね? うわクソ親父最低。死んで良かった。ざまぁみろ鬼畜ゴミ野郎。


「……後は、なんだっけ。んーと、生体金属ジオメタルの事か。現代人は生体金属ジオメタルも作れないんだ。だから古代遺跡から出て来る暴走バイオマシンを倒して、機体その物を鋼材として持ち帰るか、僕みたいに遺跡の傍で暴走バイオマシン同士が争って朽ちた鉄クズを回収して売るか、基本的にどっちかなんだ。だから僕みたいな子供でも、なんとか一人で生きて行ける。…………一人でって言っても、誰の助けも借りなかった訳じゃないんだけどさ」


 ポツポツと呟いたら、シリアスがまた撫で撫でしてくれた。


「だから許して、なんて言わないけどね。僕は他にお金の稼ぎ方なんて知らなかったけど、それでもシリアスの仲間の、僚機の、同じ国の家族の遺品を漁ってお金に替えて生きて来たんだ。古代遺跡でしか産出しない資源だから、僕みたいな信用の無い子供が持ち帰っても、ちゃんと値が着くから」


 正直なところ、ちょっとだけ買い叩かれてるけど。

 

 でも、薄汚い孤児が持ち込んだ生体金属ジオメタルをちょっと買い叩いても、まぁまぁのお金を払ってくれる整備屋のオジサンは、町では間違い無く良い人の分類だ。信用出来る人だ。

 

 と言うか、僕はあの人が居なかったら普通に死んでた。水買えなくて。枯れて死んだ。


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