生きてた。



「………………………………は? え、はっ?」


 目を開けて、周囲を見て、混乱する僕。


 随分と、見覚えのある地獄だね…………?


「…………いや、………………はぁ?」


 グリップと、ハンドルレバーと、フットペダルと、計器とか、ボタンとか、コンソールとか、なんか色々。

 

 陽射し暑っづ……!? いや、え?

 

 キャノピー全開、て言うか全損してない? 根元からなんも無いんだけど。

 

 え、なに、は? どゆこと? ごめんなさい誰か僕に説明してくれたりする人って居ませんか?

 

 いやホント、ジャブジャブのビシャビシャにギャン泣きしてたのに、ピッチリ涙が止まっちゃった。本当にビックリしてる。


「…………は? え、なに、コックピット? 背中のジャリジャリ…………、キャノピーの破片? ……緊急停止レバーのカバーコンソールがスライドしたまま。……って事はデザリアくんの機体? いや、え? いやいや、デザリアくんの体には天使さんの陽電子脳ブレインボックスを突っ込んだから、じゃぁ今は此処ここ、天使さんのコックピット?」


 …………なに? ごめんなさい。えっと、なに? 分かんない。


「…………は? え、移植しても天使さん間に合わなかった? 天使さんも死んだ? いや、でも、外が砂漠じゃん。随分過酷な地獄だな…………。いや待とうよ僕、天使さんが地獄行きな訳無いじゃん。じゃぁどゆこと? …………あぁっ、あれか! 天使さんが実は本当に天使さんで、僕は今から天使さんに乗って天国行きなのかッ!? 今から飛び立つとこ!? え、じゃぁ僕って実は天国行きッ!? 地獄じゃなかった!? クソ親父の負債は僕無罪ッ!? いよっしゃぁ! やったぜクソ親父の馬鹿野郎ッ! 一人で返済してろバーカッ!」


 -ガチンッ、ガチンッ。


「……なんか、天使さんが左のハサミをガチガチしてる。可愛い。…………うわ、これで可愛いとか思うの僕、もう重傷じゃん。どうしようも…………、いやいやいやいやいや待って待ってッ!? じゃぁなにッ!? 僕って天使さんのコックピットの中で天使さんに聞かれながら天使さんへのガチ告白ぶっ放してたのッ!?」


 うわ死ねるッ! 死ねる程恥ずかしい! ヤバい、人生で経験した事の無いムズムズ感が身体中を駆け巡ってる!

 

 死にたい! 今凄く死にたい! 殺して! 終われせてとか最後にしてとかそう言うんじゃ無くて切実に死にたい! 物理的に死にたい!


 -ガチンッ、ガチンッ。


「こ、今度は右のハサミでガチガチ可愛い。いや違くて、え、嘘でしょッ!? 僕のギャン泣き告白がノーカットでご本人直送!?」


 -ガチガチ。


「あ、次はまた右なんだ。交互じゃ無いんだね。なんだろ可愛いなえへへ…………。じゃなくて! うわ、ごめんね天使さん本当にごめんなさい気持ち悪かったよね本当ちょっと古代文明人ならまだしも現代人の分際でって言うか薄汚い有機生物の分際で天使さんに初恋とか本当もうごめんなさい死ぬので許して下さい埋まります砂漠に埋まって日に焼かれます本当にありがとうございました」


 僕、ふらいあうぇーい。

 

 ダメでした。コックピットから出ようとしたら天使のシザーアームで優しく摘まれて優しくコックピットに戻されてちゃった。めっちゃ優しかった。全然痛くなかった。天使さん超優しい。

 

 あと次いでに左のハサミをガチガチしてる。


「えと、あの、本当にごめんなさいでした。人間がバイオマシンに恋とか気持ち悪かったと思います。二度と口にしませんので許してください……」


 左をガチガチ。


「あの、えっと、あれ? そう言えばなんでさっきまで陽射しが痛く無かった…………、ああ、天使さんが廃装甲で日陰作ってくれてたんだ。……天使さん優しいえへへ」


 僕が疑問を口にすると、天使さんはコックピットから見えるように、何処どこかに退けてた装甲を左のシザーアームで挟んで持ち上げてくれた。そしてそのまま装甲でまた日陰を作ってくれて、それから右のシザーアームでガチガチ。


「ああ、じゃぁさっきまでゴンゴンしてたのも天使さんなの?」


 右をガチガチ。


「………………え、もしかしてハサミをガチガチしてるの、可愛い行動じゃなくて、僕へのお返事?」


 右をガチガチ。


「わぁ、可愛いだけじゃ無かった。さすが天使さん。僕を天国に連れてってくれるし、天使さんが凄い天使さんだ」


 装甲を持ち替えて、左でガチガチ。

 

 …………なんでわざわざ持ち替えた? 右と左で、何か意味が違う?


「……はわっ、えっ、もしかして右と左で、否定と肯定?」


 持ち替えて右ガチガチ。


「えと、今のを肯定だとすると、右が肯定で左が否定。……つまり天使さんが天使さんじゃないと? 天使さんは天使さんだよッ!」


 思わず反論したら、天使さんは右か左か迷う仕草のあと、サソリの丸まった尻尾をコックピットの前まで持って来てフリフリ。尻尾フリフリ可愛い。

 

 ああダメだ僕もう重症だ。多分治らない奴だこれ。


「んーと、右が肯定で左が否定だから、尻尾フリフリはどちらでも無い、もしくは分からない、とか?」


 右ガチガチ。あってるらしい。

 

 天使さんが天使である事には異論の余地は無いから、分からなく無いよ。天使さんは凄い優しい天使さんだよ。


「…………えと、ああそっか。僕が一言に幾つも言葉を入れると、どれに応えて良いか分からないだ」


 右ガチガチ。


「なるほど。じゃぁさっきのは天使さんが天使さんである事を否定したかった訳じゃないのかな。そうだよね。天使さんは優しい天使さんだもん」


 右ガチガチ。


「うんうん。やっぱり天使さんは天使さんだ」


 持ち替えて左ガチガチ。


 ……あれ?


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