良いじゃんか。
-ゴゴゴン! ゴゴンッ!
いや、ホントうるさい…………。
「…………いや、あのさぁ。音の主さん、そろそろ諦めてよ」
なんなんだよ。ほっといてくれよ。
自暴自棄になってる僕は、なんだかイライラしてきて、ついに文句を言ってしまう。
そして一回口に出すと、溢れ出す不満が止まらなくなる。
「良いじゃんか。こんな死んだ孤児が寝転がるくらいさ。少しくらい労ってよ。僕、初恋の相手の命救って死んだんだよ。初恋して速攻死んだんだよ。死に別れだよ。悲恋だよ。泣くくらい許してよ。もう目も開けたくないんだ。死に別れって普通は生き残った側が泣くんじゃないの? なんで僕死んでまで失恋して泣いてんの? 意味分かんない。地獄辛すぎ。これが地獄の刑罰なのか。なんか背中ジャリジャリ痛いし、地獄の地面って酷過ぎない? これで更に目を開けたら天使さんと死に別れた現実が待ってるんでしょ? 死ねるよ。その事実だけで死ぬ」
止まらない。止まってくれない。
「天使さんが居ない世界とか、死んだ先でまた死ぬよ。即死だよ。もっと一緒に居たかったよ。天使と仲良くなりたかったよ。天使さんのコックピットにもっとちゃんと乗りたかったよ。あんな数十秒で終わるとか酷過ぎるよ。僕が何したって言うんだよ。こんなに悲しい想いをするほど悪い事したのかよ。十年しか生きてないのに、そんなに罪深いのかよ。僕はこんな想いに苦しむほど悪い事をしたのかよ」
そこまで口にして…………。
「…………………ああ、したなぁ」
うん。だから地獄に来たんだもんな。
「僕ってもう何年も、天使さんのお仲間の遺品漁って生活してたんだもんな。そうだよな。存分に苦しめよバーカって感じだよな。むしろ足りないよな。もっと苦しむべきだよね。そうだよね。天使さんは古代文明の人が乗る為に生まれたバイオマシンなのに、きっとずっと、何年も何年もずっとずっと古代文明の人達を待ってるのに、やって来たのが墓荒らしの現代人だもんね。しかも薄汚れた孤児だもんね。最悪だよね。それで天使さんをバラそうとするわ、状況をダシにして天使さんのコックピットに乗るわ、勝手に飛び出して勝手に怪我して勝手に死んだんだもんな。いやもう笑える。ほんとクソみたいな人生だった。納得して死ねたのに、報われて死んだのに、幸せに死ねたのに、死んだ先で初恋で苦しむとか、マジなんなんだよ僕の人生」
ほんと、なんなんだよ。
「なんなんだよ…………。なんなんだよォッ! 僕の人生はよぉッ!」
納得したのに。納得したかったのに。
納得した分、幸せだった分、報われた分、楽しかった分、全部が反転して涙になる。後悔になる。最後の最後までゴミクソの人生だ。
「足りねぇーよバァァァァアカッッッ! 僕はなぁ! まだ、まだ十歳なんだよぉ! ホントだったら、明日の事なんて考えないでもっと遊んで! 笑って! 幸せで良いはずだろッッ!」
明日も生きる為の小銭を数えて、拾えない鉄クズを夢見て陽射しに焼かれて、無くなる水に怯えて……!
「十歳ってもっとバカで良いはずだろ! アホで良いはずだろ! 人の顔色見て! 邪険にされないように! 難しい話しが分からないと途端に面倒くさがられるから! 難しい言葉も覚えて! 子供が気にしなくても良い習慣も慣例も全部覚えて! 気を使って! 何でだよ! こんなガキに! こんな小賢しい頭なんて要らないはずだろ! 何でだよ! 僕が何したってんだよ! もっと幸せななりたかった! もっと報われたかった! 天使さんに乗りたかった! 遊びたかった! 難しい事なんて全部大人に任せて! ただ天使さんと幸せになりたかった! そんなに難しい事かよ! こんな薄汚れたガキが幸せになるのが、そんなに悪い事かよ! 何でだよっ! なんでだよォッッ!」
瞼が重い。目を開けたくない。死んだんなら、死なせて欲しい。
もう苦しみたくない。本当に、もう止めてくれ。最後の、あの幸せな瞬間を最後に、僕を終わらせてくれ。
納得したんだ。小賢しい孤児のガキが、自分の人生に納得して、幸せに死んだじゃんか。良いじゃんか。もうそれで良いじゃんか。
こんなにジャブジャブ涙を流して、砂漠に居たままだったら確実に干からびてる。渇いて死んでる。
いや、それで良い。死なせてくれよ。苦しくていいからさ、終わらせてくれよ。それくらいは良いじゃんか。死後に
「もう終わらせてくれよ! 死んだんなら終わりにしろよ! 終われよッ! 幸せな夢くらい見させてくれよ! 夢の中で天使さんのコックピットに乗って何処までも行きたいんだよ! 父親に置き去りにされたクソガキにしては上等な死に様だっただろッ!? 優しい天使さん助けて死ねたんだよ! 幸せだったんだよ! あれで報われたんだよ! それを最後にしてくれよ! 頼むから! 頼むからさぁぁあッッ!」
もう死後の世界って概念から辛くなって来た。死んでまで苦しんで、誰が得するんだよ。呼んでこいよソイツを。何がなんでもぶっ殺してやる。
「しょうが無いじゃん! 好きになっちゃったんだもん! オカシイよ! 分かってるよ! 僕だって生きてるとは言え機械に恋するなんて思わなかったよ! 仕方ないじゃん! 幸せだったんだ! あれが人生最高の幸せって思えるくらい人生がゴミクズだったんだよ! 僕のせいじゃない! もう良いじゃん! 良い最後だったなって自分を褒めるくらい! そんな事も許されないのかッ!? なんでだっ!? 僕の何がそんなにダメだったんだッ!? 頑張ったじゃん! 親も居ないのに頑張って生きたじゃん! 孤児だけど! 盗みなんてしてない! 詐欺も! 物乞いも! 悪い大人の言う事聞いたり! 落ちてる小銭拾ったり! そんなの何もしてない! 僕は何もしてない! 悪い事したら楽だって思っても! 我慢した! 頑張った! 僕は凄く頑張った! 凄く頑張って生きたよ! クソ親父が死んでから四年も! 一人で! 僕は頑張った! 薄汚いクソガキなりに! 必死で生きて良い感じで死ねたッッ!」
それとも、アレか。クソ親父をクソ親父と呼ぶのがダメなのか?
でもクソ親父じゃん。子供を一人置いて戦争行って、あっさり死んだクソ親父じゃん。あれがクソ親父じゃなかったらなんなのさ。
「もぅ! ……もぅ、ゆるしでぐでよぉッ! 僕はもう、苦しみたくないんだよぉ……!」
ああ、ダメだ。ついに喉も震え始めた。
子供の嗚咽が気に入らないって怖い大人も居たから、泣いてもちゃんと喋れるように練習したんだ。
これでもダメ? 何がダメ? それともあれ? クソ親父が戦争で沢山殺した分が僕にも来てたりするの? 血族みんなで負債を抱えるシステムなの? だとしたらやっぱりアイツはクソ親父じゃん。
「もぅ、おわっでよぉ……。ぎれいにっ、しねだじゃんっ。でんじざん、だずげだじゃん……」
それとも、それとも、それとも。
色んな理由が浮かんでくる。苦しむ理由が思い付く。だとしたら、やっぱり僕の人生はゴミだったのか。思い付くんだから、これらもやっぱり罪なのか。
ああ、そうだ。とびっきりの罪を見付けてしまった。そうか、そうだよね。
分不相応にも、親無しのクソガキが、天使に恋しちゃダメだよな。
だとしたら、もうその罪を丸っと、全部、一撃で片付けて欲しい。その分濃縮したり、上乗せして良いから、一気にやって欲しい。
その分苦しむから。もう、終わらない地獄は嫌なんだ。もう十分、人生は地獄だったよ。死んだ後まで地獄なのは、あんまりだ。
「ごんなに、ごんなにずぎになるならっ、ごんなづらいならッ……」
出逢わなければ。
「ぞんなごどっ、おもいだぐないッ……!」
この想い出を汚すくらいなら、もっと重い別の罪と罰を持って来て欲しい。
だから…………。
-ッッッッッゴゴン……!
「--いや熱っづッ!?」
ビックリして飛び上がった。
目もパッチリ開けてしまって、驚きで涙も引っ込んだ。
え、なに? 陽射し? あっつ…………。
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