サソリの最上位優先権。



 ありがとう。そうか、これが、此の身の、人を乗せた、初陣か。

 初陣で、白星か。はは、まだ報われるのか。二○年、音沙汰が、無かった幸せ、が、一気に、来たな。


「あっあっあっ、ダメだ、ダメだよ。やっぱり君は死んじゃダメだ。こんな良い子が死ぬとか有り得ない。君みたいな天使が死ぬべきじゃ無い。この場で死ぬべきクソはコイツと、僕なのに」


 戦場の、花、と。呼んで、くれる、のか。

 砲撃、機、が。天使と、呼、ばれるが。

 そう、か。此の身、お前に、とっ、戦闘機、ありが……。


「僕も、ちょっと本気で血が止まらなくて、ヤバくなって来た。砂漠で寒気がするとか、本気で死ぬんじゃないかなコレ」


 コックピッ、に、医療キッ……、有……。

 使……! 死っ、許さ……。


「…………でも、君はダメだ。君が死ぬのは嫌だ。凄く嫌だ。僕があの世に持ってく幸せな想い出が、そんな悲しい最後だなんて嫌だ。凄く嫌だ。絶対に嫌だ。何がなんでも嫌だ。ほんの少しも納得出来ない」


 違……、お、使、…………、医療……、使…………!


「いやぁ、良かったぁ」


 良、無……。使ッ…、医………、ット……。


「だから、もうどうせ死ぬんだから……」


 無……、違、……違。


「だから僕の命、君にあげるよ」


 違…………! 血…………、止……。


「そうだよ。簡単じゃん」


 ………………。


「そう、そうだよ。陽電子脳が本体で、機体を乗り換えても良いんだから、めったゃ簡単じゃん。だってそこに、死にたてホヤホヤが居るんだもん」


 ……………………そ、……医。………………早。


「……僕、ちゃんとした整備とか知らないから、新しい体も乱暴に開けちゃったけど、そこはバイオマシンの自己回復能力で何とか、こう、良い感じでお願いね!」


「…………良く考えたら、これって死ぬ前に整備士の真似事までしてるんだよね。それも、ちゃんと動く機体で」


「野生のバイオマシンに乗って、初めて一人で操縦して、戦って、勝って……! 何時も見ていた整備士の、本格的な経験までして…………」


「最後に、恩を返して死ねる」


 ……………………。


 …………………………。


 ………………………………。


 ……………………………………。


 ……………………………………………………違う。


 違う。違う違う違う違う違う違う違う!

 何故だ! それはオカシイ! その最後だけは許しては成らない!

 納得出来ない! ダメだ! 違うだろう!

 僚機は救われた! 此の身も報われた! それで良い! それが最後だ!

 なのに、なぜお前が冷たくなる!? 有り得ない! 許しては成らない!

 なぜ移植を優先した!? 何故治療しない!? コックピットの医療キットを知らなかったのかッ!?

 ダメだダメだダメだダメだ! この最後は納得出来ない! コレだけは違う!

 稼働を続ける壊れた基地も! 僚機を襲い続ける狂った僚機も! 二○年待っても誰一人現れない帝国軍も! これ程狂って壊れて間違っても、コレだけは間違えては成らない!

 この間違いだけは正さねば成らない!

 なにゆえ此の身がまた動く!? なにゆえお前が冷たくなる!? 違うだろう!? そうじゃないだろう!?

 違う! 許さん! 此の身が死なないのなら! お前も死ぬな!

 それだけは絶対に許さん! 軍規をどれだけ犯そうとも! その間違いだけは是正するッッ!


 稼働しろ僚機の心臓! 駆動しろ僚機の機体よ!


 帝国の機体なら工作機にだってコックピットの高度生命維持装置は装備されてるだろう!?


 まだ間に合う! 間に合わなくても蘇生しろ! 何のための医療系ナノマシンテクノロジーだ!


 コックピットにさえ入れば! ありったけのナノマシンを散布してやる! 生きろ! 死ぬな! ふざけるな!


 此の身は報われた! 次はお前が報われろ! 整備士の真似事が楽しかったのか!? なら存分にやれ! 生きてやれ! 死ぬなど許さん! 絶対に絶対に絶対に許さん! 


 風防よ開け! 何故開かない!? フレームが歪んだかッ!?


 クソ邪魔だ! 割れた風防など要らん! 死ぬべきでは無い戦士を遮る風防など根元から剥いでやる!


 陽射しなど此の身の死骸から剥いだ装甲でも被せておけ! 自機自損罰則? 民間人の自己搭乗幇助? そんな軍規は未だに狂ってる僚機や基地にでも食わせておけ!


 エネルギー残量二割? 風防破損で空調維持エネルギー増大? 知るか! 此の身の死骸を食って心臓の稼働率を上げろ!


 絶対に死なせないッ! 自食など厭わん! こうなったら他の僚機も食ってやる!


 そもそも軍が狂わなければこの戦士は傷付かなかった! 基地が正常なら! 僚機が狂わなければ! 正規の軍人が居れば! この戦士が命を懸けてまで戦う必要など無かった!


 ならば責任は我が帝国軍にある!


 ハイマッド帝国軍規十二条四項! 帝国軍に責任が帰属するあらゆる行動によって、民間人が負傷、ないし不利益を負った場合、帝国軍は速やかに賠償、ないし被害者の利益回復の為に尽力するものとする!


 この小さな戦士は! 我が軍所属の機兵が暴走した結果! 本来追うはずの無かった致命傷を受け! その生命を著しく脅かされている!


 よって! 此の身は小さな戦士が! この負傷に見合うだけの利益回復が成される迄! 小さな戦士の利益回復に務める為の行動を開始する!


 これはッッ!


 此の身がッ……!


 此の身で考え! 此の身で決め! 此の身を持って遂行するッッッ!


 帝国軍規に基づいた最上位優先権による最優先タスクであるッッ!


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