サソリの想い。
巫山戯た事を言うな!
品質が低いのでは無く量産性が高いのだぁッ!
戦闘機程の硬さも無い機体ならば! 例えフレームが歪んでキャノピーが開閉不能になっても! 内側から砕いて脱出可能な強度の方が安全なのだァ!
低品質な訳では無いッッ!
「クソザコナメクジでも二対一には変わりないんだよぉぉぉお!」
此の身の事かぁぁああああッ!?
工作機が強い訳が無いだろうがぁッッ!
民間人の略奪者にナメクジ呼ばわりされる筋合いは無い!
略奪者もゴミみたいなものだろうが!
「ゴミでも一になれるんだぁぁぁぁああああッッ……!」
だが、そう! そうだともッッ!
例え廃棄寸前の此の身であろうと!
正しい運用をした兵器は! 必ず! 兵士のッ! そして戦士の力になれるのだ!
それこそが! 此の身の意義だ! 兵器として生まれた意味ッッ!
「これで、僕達の勝ちッッ!」
して、移乗して何を成す!? コックピットから陽電子脳部を直接貫く程の出力は出せなかったのは此の身の不徳だが、そこから何を成す民間人!
「バイオマシンのコックピットには例外無く、緊急停止レバーがあるッ!」
ッ!? その為の移乗!
最初から、そのつもりかッ!?
その為に! 戦闘支援強化服も無く! 非武装の身で有りながら!
工作機とは言え帝国の機兵に生身で移乗したのか!
ああ民間人! 見事だ民間人!
帝国の所属では無かったとは言え、最初に乗せた戦士がお前で良かった!
此の身の最後に乗せた戦士がお前で良かった!
「おッッ……、らぁ!」
ああ、仕事を果たせた…………!
廃棄寸前の此の身で! 見事! 愛しい僚機をキャノピー損壊のみで!
帝国の仲間を止める事が叶った!
ほぼ壊れ切った! 此の身で! 仕事を果たせた!
ああ幾重にも、幾重にもお前に感謝しよう!
ああ民間人! 二○年待った甲斐はきっとあった!
良い最後だ! 素晴らしい最後だ!
このクソみたいな生を受けた此の身には、過ぎた最後だッッ!
「これでしばらく、止まってろ!」
ああ、ああ願わくば…………!
まだ、もう一つ、もう一つだけ叶うなら……!
「急げ急げ急げ……」
どうか、どうか僚機を……! 完全に止めてやってくれ…………!
「ねぇ、君! まだ、まだ死なないで! お願いだから死なないでね!」
まだ心臓が生きてるまま機体を止めるには、相応の危険があるが……。
願わくば、どうかもう、僚機に帝国の地を汚させないでやって欲しい……!
「装甲を外すだけなら……!」
ああ、……ああ!
こんなに、こんなに良い最後は無い。
最後の、最後の最後に願った、届かぬ声すら叶うのか。
「…………直接、陽電子脳を引っこ抜いてやる」
ありがとう民間人。ありがとう勇敢なる戦士よ。
人工生物でありながら、此処まで安らかに逝けるのか。
ああそして、お前に奪われるなら良いだろう。此の身を持って、また何かを成すと良い。
そしてあわよくば、此の身欠片でも、またお前の力に成れるなら、ああやはりこれ程良い最後は無いだろう。
「ああああああ意味の分からないケーブルとクソデカアクチュエータが邪魔ぁああッッ! でもケーブル切るのはダメぇえ! アクチュエータ壊すのもだめぇー! うねうねしてるパイプも意味わからんんンンンッッ……!」
ああ危険だ。素人が専門の機材も無く、稼働中の機兵を簡易解体するなど、危険行為過ぎて上官に殴られる行いだ。
すまない。だが、ありがとう。
人工知性にも魂が有るなら、きっと死してもお前に祈ろう。
もう陽電子脳を維持するパワーすら覚束無いが、お前はきっとやり遂げるだろう。
「あっあっあっ、あった! あったぁぁあッ! 陽電子脳ッッ……!」
ああ、意識が脱落する前に、やり遂げてくれるのか。
ありがとう。ただ、ありがとう。
遭遇時に殺そうとして済まなかった。幾重にも謝罪しよう。
僚機が綺麗に死ねる。此の身も軍機として死ねる。最高だ。こんなゴミみたいな生でも、何の意味も無かった二○年でも、生まれて良かったと思えた。
納得して死ねる。ああ、ありがとう。本当にありがとう。
「ぐぅぅ、叩き割りたい……! けど一○万シギルぅ……!」
……是非叩き割ってやってくれ。
いや、しかし、そうか。然るべき場所に持って行けば、僚機の陽電子脳のエネルギー充填率と鮮度を思えば、元に戻るかも知れないのか。
そこまで、そこまで安心して死ねるのか? こんなに安心して良いのか?
ああ、意識がチラつく。パワーゲインで陽電子脳へのエネルギー流入も絞っていた弊害か、此の身の陽電子脳は長く持たないだろう。
僚機はきっと間に合うだろう。此の身はもう良い。十分報われた。
「……よし、急げ急げ急げ!」
なにを、急ぐ。戦士よ。
もう、十分だ。
「ま、まぁそんな事より! ねぇ見て! 勝ったよ! ほら、君と僕の勝ちだよ! 万全なデザリアを、一緒に倒したよ!」
ああ、勝った。勝ったとも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます