アドバンテージ。



 これが僕たちにある二つ目の勝算。無視出来ないアドバンテージ!


「工作機のキャノピーは低品質ぅぅううう!」


 これもバイオマシン狂いのクソ親父が酔ってリピートしてた!


 今思うとお父さん意外と役に立ってる…………? いや戦争で死なないでくれたら僕が今こんな無謀な事せずに済んでたはずだし、やっぱりダメだよギルティだ。

 

 ほんの数分一緒に戦った親友マブダチのコックピットから飛び出して、僕は相手のコックピットを、ぶち割ったキャノピーの中を目指して走る。


生身の人間クソザコナメクジでも二対一には変わりないんだよぉぉぉお!」


 そう、戦友が瀕死でも、僕は元気だ。

 

 友が切り開いてくれた道を、友が走れないなら、僕が走る。

 

 二対一。僕と戦友は別々に行動出来る。戦友がデザリアくんを一瞬止めて、僕が仕留めに行く。分業出来る。分担出来る。戦略が組める。

 クソデカ過ぎるアドバンテージだ。

 

 デザリアくんにとって非武装の人間ゴミなんて戦力に数える意味が無くても……!


 エネルギーが無くなるまでの一瞬だけでも、立派な戦力である親友がお前を抑えてくれるなら……!


孤児ゴミでもになれるんだぁぁぁぁああああッッ……!」


 吶喊とっかん

 

 組み合う二機のデザリア。その装甲うえを走って辿り着く。ほんの数メートル。だけど無限の数メートルを駆け抜けて、僕は砕けた透明なキャノピーに蹴りを入れる。

 

 内側に蹴り割り、完全にヒト一人を通せる大きさの穴を開けたら、怪我なんか恐れずにコックピットに飛び込む。

 

 ボロボロの友に見切りを付けて乗り換えた訳じゃない。

 

 裏切った訳じゃない。

 

 と言うか、基本的にコイツら現代人の操縦なんて受け付けないから。一時的にでも従ってくれた親友の方が普通じゃないんだ。

 

 凄い嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。僕もうあの子めっちゃ好きになったからバラせない。もう頭の中であの子をどうにか延命出来ないかと考えてる。

 

 もう二度と乗れないとしても、一度きりの共闘だとしても、僕はもうあの子に死んで欲しくない。


 一生この砂漠で元気に過ごして欲しい。この先もまた出会うことがあったら、拾った生体金属ジオメタルとかおすそ分けしちゃうかも知れない。


「これで、僕達の勝ちッッ!」


 だから、今は取り敢えず、コイツを殺す! 友の事はその後考える。


「バイオマシンのコックピットには例外無く、緊急停止レバーがあるッ!」


 二つの勝算を通して走り抜けた勝ち筋。

 

 一つ、パイロットの権限で武装を使って貧弱なキャノピーを叩き割る。

 

 二つ、友が抑えて僕が攻める。別々に攻めれる利点を活かして、緊急停止レバーを狙う。


「おッッ……、らぁ!」


 場所は知ってる。クソ親父にも聞いた事あるし、友に乗ってすぐササッと確かめた。

 

 右側のコンソールパネルをスライドさせて、カバーを跳ね上げる。するとそこに、黄色と黒の虎柄で塗られたレバーがあって、僕は思いっきり、容赦無くそれを引く。

 

 事故で止めたりしないように、かなり重く作られてるレバーだけど、命懸けのこの瞬間、この程度の重さなんて屁でもない。


「これでしばらく、止まってろ!」


 すぐに効果は現れ、まずデザリアくんの興奮に合わせてブン回っていた生体金属心臓ジェネレータの駆動音が静かになった。完全に止まりはしないけど、メインシステムがダウンして生体金属心臓ジェネレータがスタンバイモードに移行したのだ。

 

 次に、今にも親友をぶっ殺そうとしてたデザリアくんも力が抜けて、砂地にズドンと座り込む。……サソリの腹が地に着くのって、「座る」で良いのかな?

 

 そして最後に、エネルギーを最後の最後まで使い切った親友も、共にダウンして崩れ落ちた。ありがとう親友。もう少し待っててほしい。まだトドメ刺してないから、しっかり僕達の勝利を見てて欲しい。


「急げ急げ急げ……」


 デザリアくんが一時的にダウンしてる間に、僕はまた忙しなくコックピットから這い出す。


 当たり前だけどダウンしたデザリアくんはキャノピーを開放してくれないので、僕は割れたキャノピーに手を掛けて穴から這い出ないとダメなのだ。お陰で両手がズタズタになった。凄く痛い。

 

 バイオマシンのコックピットって、ハッチ式とキャノピー式が有るけど、キャノピー式の場合ってこれ、ガラスに見えるけどガラスじゃ無いんだよね。

 

 これは限り無くガラスに近い性質を持って透明化した生体金属ジオメタルだそうで、つまり鉄なのだ。ガラスみたいな鉄なのだ。


 何が言いたいかって、めっちゃ手が切れた。


 と言うか手以外も擦って体もあちこち切れた。超痛い。血がぶわーって出て辛い。孤児は怪我の治療が難しいから怪我は厳禁なのに……。


「ねぇ、君! まだ、まだ死なないで! お願いだから死なないでね!」


 血塗れになりながらキャノピーから這い出た僕は、親友に声を上げる。


 エネルギー使い切ったけど、即座に陽電子脳ブレインボックスが死ぬ訳じゃない。めっちゃ瀕死だったからヤバいくらい不安だけど、どうにか生きて欲しい。

 

 はやく、はやくトドメを刺さなくちゃ。コイツはまだ死んでない。

 

 バイオマシンは生きてる。自分で考えて自分で動ける。だから、嫌な事があった時に人間が暴れるなら、バイオマシンだって嫌な事があったら暴れるのだ。緊急停止レバーとはそんな時に使う為の物で、バイオマシンを永続的に黙らせる装置じゃない。

 

 物凄く乱暴に言うと、不機嫌になったバイオマシンを一回気絶させて感情をリセットする装置だ。つまりデザリアくんは今、寝てるだけ。起きたらまた暴れる。


「装甲を外すだけなら……!」


 だから僕は、デザリアくんがグースカ寝てる間に、素早く、完全に、完璧に、コイツを無力化する必要がある。

 

 ただ僕が自分だけ助かりたいなら、今のうちに逃げたら良い。流石にこのデザリアくんも一分やそこらじゃ目覚めない。コイツは最低でも十分ほど寝てる。

 

 だけど、そうするとデザリアくんが目覚めた時に親友が死ぬ。確定で死ぬ。食われて死ぬ。

 

 それは嫌だ。凄く嫌だ。

 

 なので、僕はコイツにきっちりトドメを刺すため、コックピットから飛び降りて、古びた粗末な工具を腰の雑嚢から取り出す。


「…………直接、陽電子脳ブレインボックスを引っこ抜いてやる!」


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