割れろ!
エネルギー残量が3%。脚も足りなくて、この機体は踏ん張れない。だからまずは、相手にも踏ん張れない状態になって貰う。
此処は砂漠と遺跡と荒野の境目。遺跡と荒野のエリアならしっかりと踏み締める地面が有るけど、砂漠には無い。
すぐそこに踏ん張れない砂地があって、なら元気な相手をそこまで押し出さなければならない。
「オラオラオラオラァー!」
相手は押し出して、砂地に追いやって、こっちは遺跡の地面を踏み締め、向こうは踏ん張れない砂地でサソリの脚で四苦八苦させる。
これでやっとギリギリ一瞬だけイーブンだ。側面に貼り付けたのもデカい。正面からだと欠損したシザーアームの分だけ不利だし、やっぱり
正面向かれたらアームが足りてても負けるだろう。
「トリガー!」
アクショングリップを操作して武装を起動。トリガースティックで照準して、引き金を引く。
僕とこの子が持ってる二つの勝算。その一つ、武装使用権限の有無。
バイオマシンは生きている。自分で考えて自分で動ける。だから武器の使用まで自由にしてると、事故が起きる。
少なくとも古代人はそう思ったらしく、バイオマシンは装備されてる武装を自分では使用出来ないらしい。僕を残して死んだパッパが何度だって僕にそう言ってた。
「狙いは、キャノピー!」
コックピットに乗った人間の操作でしか武装は起動出来ない。
どんなに強力なキャノンがくっ付いていても、大層なブレードが付いてても、搭乗者がレバーを引いて、トリガーを絞って、ボタンを押し込まないと、武器は使えないのだ。
「割れろぉぉおッッ……!」
つまり、元気なデザリアくんは武装を使えない丸腰で、瀕死のデザリアちゃんは武器が使える。
出力もエネルギー残量も機体ダメージも、何もかもがクソだけど、たった二つだけ残ってる、僕とこの子のクソデカアドバンテージ。
デザリアはサソリ型で、サソリの尻尾にはニードルカノンが標準装備されている。
確かデザートシザーリアは工作機で、ニードルカノンは採掘や廃機の装甲粉砕に使う工業用パイルバンカー。戦闘時には近接格闘に使う武装だ。
なんのカスタムもして無い素のデザリアが唯一持ってるこの武器で、僕は元気なデザリアくんのコックピットを狙う。
でもこれは、デザリアくんを殺す為の攻撃じゃない。
デザリアくんを殺すには、この元気で万全な状態の彼もしくは彼女の装甲をぶち抜いて、
もちろんそれも、狙えるなら狙うべきだろう。
でも、戦闘用じゃないとしても、パイルバンカーも立派な武装だ。当然使うには相応のエネルギーが要る。
ほら、たった一回使っただけなのに、残りエネルギー残量が1%…………、いや1%ッ!?
うわ、突撃で1%使って、ニードルカノンでもう1%使ったのッ!? ボロ過ぎてエネルギーバカ食いしちゃうのッ!?
こ、こんな有様だから、装甲をぶち抜いてから急所まで潰すとか、無理。そんなエネルギー残って無い。
だから、僕はもうこうするしかない。
「うぉぉらあぁぁぁぁぁあああッッ!?」
ニードルカノンが放つ、けたたましい衝撃音を聞いて。
そしてほぼ同時に響く、元気なデザリアくんのキャノピーがぶち割れた破砕音を聞いて。
そして僕は、コックピットを飛び出した。
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