今だけ。



「こ、これ食べて! 急いで! 君だって、お仲間に食べられたくないだろっ!? トドメを刺そうとしといてムシが良いけどさ、一緒に生き残ろうよ!」


 意を決した僕は、今日集めた少しばかりの生体金属ジオメタルを差し出して、瀕死のデザリアの口へと運ぶ。


 子供が持ち運べる量なんてタカが知れてるけど、無いよりはずっと良い。


 バイオマシンは生体金属ジオメタルを燃料に生きる金属生物なんだから、これから少しでも動いて貰うなら、少しでもエネルギーが必要なのだ。


「あと、悪いけど、簡単に剥がれそうな装甲も剥がしちゃうから、食べてね! 自分の体を食べるとか、気分悪いと思うけど、他の子に食べられるよりはマシだろっ!?」


 僕は焦りながら、ピクピクギシギシと動く瀕死のデザリアから、手早く剥がせそうな脱落気味の装甲を選んで剥がす。死ぬ程急いで剥がす。時間が無い。


 当然、剥いだ装甲は死ぬほど重い。


 下手すると潰されそうな重さだけど、最初から覚悟してた分、何とかなった。きっと火事場のナントカってやつだ。


「食べて。それで、僕が君を動かして、近寄って来る別のデザリアを倒す。僕は一応、君たちを動かせる知識がある。人が乗らないと出来ない事もあるだろう? だから、その、今だけで良いから、君に、僕の操縦を受け入れて欲しい」


 このデザリアは、コックピットのキャノピーがほぼ全部割れてるので、デザリアの意思に関係無く乗り込める。


 けど、デザリアはバイオマシンであり、生き物だ。本当に気に入らなかったら、操縦をある程度拒否出来る。


 バイオマシンは古代の凄い人達が作った、人が乗る為の兵器だけど、それは古代の人達を乗せる為であって、僕ら現代人を乗せる為じゃない。


 と言うか敵対判定を受けているし。敵だから見付かるだけで殺されるんだし。


 だから、僕が二機目のデザリアを撃退したくてこの子に乗っても、この子が嫌がったら操縦どころじゃない。


 まともに動けない所を元気なデザリアに見付かって、僕もこの子も仲良く死ぬ。


「今、今だけだ! 今だけで良いから。ずっと僕の乗機で居ろとか言わないから!」


 僕は瀕死のデザリアに念押し、とにかく今を凌ごうと意志を共有する。


 この子も近付いてくる元気なデザリアの存在には気が付いてるだろうし、生き残る意思が有るなら、今だけは従ってくれるはず。


 ………………従ってくれると、良いなぁ。

 

 でも、此処ここで尻込みしても仕方ない。元気なデザリアが来たら仲良く死ぬだけなんだから。


 僕は再び意を決して、デザリアに近付く。動けるならシザーアームが動くだけで僕を殺せる圏内に入る。


 入れた。これは、受け入れてくれたのだろうか? それとも、僕を殺すだけの元気も無いのだろうか?


 いや、その元気があったなら、さっきバラそうとした時に僕は死んでるんだけど、今はそのくらいの元気が無いと困る。どっちだろうか。


 と、とにかく、割れたキャノピーの隙間からコックピットに侵入する。


「うわぁ、すごい……」


 狭く、比較的簡素なコックピットに見える。


 合成皮革製に見えるシートに朽ちたキャノピーの破片が散らばってて、汚く見える。


 コックピットの右手側にスロットルレバー兼任のトリガースティックがあり、左手側にはアクショングリップがある。


 フットレバーも右と左に三つずつ見えて、後は細々した計器やスイッチ類が配置されてる。


 父が乗っていたオオカミ型のバイオマシンとは違うタイプのコックピットだ。けど、このくらいの違いなら問題無い。


 一応、クソ親父様から聞いては居たけど、念の為にササッとコックピット内を確かめる。


 うん、これなら大丈夫。


 これでも僕は、必勝とかうたってた傭兵の息子だ。


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