やってやる……!



「なんっ、嘘でしょ……」


 デザリアは、この辺りの砂漠では良く見る機体だ。けど、それは『比較的良く見る』が正しい弁であって、本当にしょっちゅう遭遇する訳じゃない。


 もしそんな遭遇率なら、僕は鉄クズ集めなんてやって無い。命がいくつ有っても足りないから。


 なのに、目の前にも瀕死のデザリアが居て、足音が聞こえるくらい近くにも追加で一機?


 なんて日だ。こんなに短い時間に二機のデザリアに遭遇するなんて、運が悪いにも程がある。


 どちらも瀕死なら翻って幸運過ぎるのだけど、片方が元気なら僕は簡単に殺されるので、死ぬ事が幸運と呼べる様な特殊な事情が無いなら、間違いなく今の僕は不幸である。


「そ、そうか。瀕死の、この子を食べに来たんだっ。ど、どうしよう……!?」


 バイオマシンはバイオマシンを食べる。バイオマシンを構成する生体金属ジオメタルが主食なんだ。稼働する為のエネルギーを生体金属心臓ジェネレータで、生体金属ジオメタルから精製する。


 特に仲間意識とか無くて、場合によっては同型機でも争ったりするバイオマシンだけど、基本的には万全な状態の同型機なんて襲ったりしない。


 だって戦力が互角なんだから、戦って勝っても殆どの場合は自分も瀕死になる。


 だから、普通は争わない。


 多少の怪我なら生体金属ジオメタルを摂取すれば治るけど、機体が大きく損傷、パーツの欠損なんてしたら、倒した獲物から食える生体金属ジオメタルじゃ割に合わない。


 だけど、いやだからこそか、こんな風に最初から動けない獲物が居たなら、ノーリスクで生体金属ジオメタルを食える。


「きっと、センサーとかで瀕死のデザリアに気が付いたんだ。なら真っ直ぐ此処まで来る……!」


 まだ遺跡の瓦礫のお陰で見つかってない。


 当然、僕からも向こうが確認出来ない訳だけど、やっぱり足音は近い。当たり前だ。奴はこの子を食べる為に来たんだから、最短ルートでやって来る。


 もしかしたら、僕が見えて無くても、センサーか何かで僕の存在にだって気が付いてるかも知れない。


「こ、殺される……!」


 種類を問わず、野生のバイオマシンは九割九分九厘、人間の敵だ。正確には現代人の敵だ。


 追い回して殺し尽くすのは面倒だけど、簡単に殺せる距離に居るなら普通に殺しに来る。取り敢えずで殺しに来る。理由が無くてもサクッと殺しに来る。


 バイオマシンは基本的に巨大だ。


 そして巨大な体に見合うだけの歩幅があり、つまり移動速度が人間の比じゃない。このまま徒歩で逃げても、元気なバイオマシンならちょっと小走りするくらいの手間で僕を追い詰めて殺せる。


 今から逃げても遅い。


 最善手は、少し離れて隠れる。コレだ。


 元気なデザリアは十中八九、瀕死のデザリアをセンサーか何かで見付けて食べに来たんだから、瀕死のデザリアを見捨てて隠れてれば生き残れる可能性が高い。


 可能性が高いって言っても、今から走って逃げるよりは、僕の存在に気が付いて無い可能性に賭けて隠れる方が幾分かマシってだけなんだけど、それでもバタバタと走って逃げて、自分の存在を喧伝するよりはずっと良い。


 僕みたいな無力な存在がバイオマシンの生息する場所を歩くなら、本当は見付かっても走って逃げれば相手が面倒に思う距離が必須だし、この砂漠の孤児にとっての基本だ。そんな基本を守ってたから、僕は今日まで生きて来れたんだ。


「し、ししし、死にたくないっ。隠れないと死ぬ……!」


 けど、だけど、そうすると、僕は一生に一度の幸運ってくらいに幸運を、この瀕死のデザリアに出会えた幸運を、全部持って行かれる事になる。


 高値で売れる生体金属ジオメタルの塊を全部食べられてしまう。生体金属心臓ジェネレータ陽電子脳ブレインボックスも残らない。どっちか一つさえ持って帰れない。


 それは嫌だ。凄く嫌だ。


「…………あっ」


 ふと、瀕死のデザリアを見る。


 思い付いた無謀が頭をよぎって、それを思い付いた瞬間から--


「……やるしか、ない」


 僕はもう、それしか考えられなくなった。


 時間が無い。元気なデザリアの足音は本当に近い。多分、もう瓦礫一つとか、二つ先くらいの距離に居る。


 生唾を飲む。失敗すれば死ぬ。確実に殺される。けど、成功すれば、僕の人生は一気に、


「や、やる。やってやるッ……!」


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