遭遇。



 陽電子脳ブレインボックスは生きてるので、バイオマシンが死んでから放置してると陽電子脳ブレインボックスも死ぬ。


 と言うか、バイオマシンの本体はどっちかって言うと陽電子脳ブレインボックスの方だと聞いた。陽電子脳ブレインボックスが無事なら機体に積み替えるだけで復活出来るらしい。


 元気な機体から引っこ抜いた陽電子脳ブレインボックスなら、むき出しのままでも最長で二日くらい生きてるらしいけど、こんなに瀕死な機体の陽電子脳ブレインボックスとか、もう既に一緒に弱ってそうだ。一日すら持つか分からない。


 

 悩ましい。瀕死だろうと、腐ってもバイオマシンなんだ。古代文明の超技術で生み出された兵器なんだから、こんな状態でも簡単には死なないかも、知れない……。でも死ぬかも知れない。


 と言うか、バイオマシンはバイオマシンを食べる。生体金属ジオメタルを摂取する為に、他のバイオマシンを食べて補い、エネルギーを補給する。


 バイオマシンとはそう言う生き物だ。


 なので、放置したら他のバイオマシンに見付かって食べられるかも知れない。


 もしそうなったら、生体金属ジオメタル生体金属心臓ジェネレータ陽電子脳ブレインボックスも、全部消えて無くなるし、なんなら意気揚々と戻って来た僕がお食事中の元気なバイオマシンにぶっ殺されるかも知れない。


 いや怖過ぎる。一回帰る選択がナシ過ぎる。帰ったら戻って来た時に確殺デストラップが待ち構えてるとか嫌過ぎる。ナシだナシ。


 このデザリアも、そうやって他の子に食べられるのが嫌だから、こんな所に隠れてるのだろうか? 


 そこを僕なんかに見つかってしまったのは可哀想だけど、君が死にたくない様に、僕も死にたくない。明日も明後日も、生きて居たい。


「ごめんね。君がもし元気なデザリアだったら、仲良くなりたかったけど……、と言うかそれで君に乗れたら、最高だったんだけど……」


 でも、本当にこの瀕死のデザリアが元気だった場合、僕が乗るとか乗らないとか以前に、普通に僕が一方的にぶっ殺されたはずなので、やっぱり瀕死で良かったわ。


 ごめんねデザリアくん。もしくはデザリアちゃん。


「うーん、せめて生体金属心臓ジェネレータ陽電子脳ブレインボックスか、どっちかだけでも持って帰りたいな」


 この全身分の生体金属ジオメタルでも相当な額になるけど、でもそれは運べたらの話しだ。


 現実的な話しをするなら、まぁ持てる分だけ持って帰って、残りは半ば諦めつつ、次きた時に残ってたらめっちゃ嬉しい。


 そんな所だろうか。確殺デストラップの可能性は依然として解決してないけど。


 生体金属心臓ジェネレータ陽電子脳ブレインボックス、そしてバイオマシン一機分の生体金属ジオメタルを全部運ぶ。それも元気なバイオマシンに見付からず。


 うん、無理だな。諦めるのは不可能に近いけど、無理な物は無理だ。デストラップを覚悟して往復が精々か。


 デカくて重くても、生体金属心臓ジェネレータ陽電子脳ブレインボックスのどちらか一つをどうにか運ぶ。そうすれば一○万シギル。品質がダメでも数万シギルは貰えるだろう。


 それだけでも十分に大金だ。それで諦めるべきかな?


「……全部運べたら多分、三○万シギル、いや四○万シギルはするかなぁ? あぁ、諦めるの嫌だなぁ」


 羨んでも、出来ない事は出来ないし、時間も勿体無い。


 僕は溜め息を吐きながら、腰に挿した粗末な工具を手に取って、ろくに動けないデザリアに近付く。


 半端に固まっている鉄塊をバラす為に持ち歩いてる工具だけど、こんな所で役に立つとは思わなかった。


 バイオマシンを分解出来る正規の工具じゃ無いけど、瀕死のバイオマシンを無理やり、少しずつ分解するくらいならコレでも用は足りるはずだ。


 この砂漠ではサソリ型のバイオマシンを良く見るし、サソリ型に乗ってる傭兵も良く居る。だから鉄クズを売りに行く町の整備屋でも良く見るし、気の良いオジサンが色々と教えてくれた事もある。


 そのお陰で、僕はデザリアに限って陽電子脳ブレインボックスの取り外しまでは出来るんだ。乱暴に外すまでしか出来ないけど。


 整備士の技術なんて無いし、外した装甲を正しく付け直す事も出来ないけど、それでも砂漠に転がるデザリアの残骸を上手くバラすくらいは出来る。


 僕の数少ない自慢の一つだ。


「さて。……ごめんね。君も生きたいんだろうけど、僕も生きたいんだ」


 そうして、目の前のデザリアに近付いて、シザーアームが届く場所に踏み入る--…………、寸前。


 -ガション……、ガション……。


「あ、足音……」


 血の気が引く。


 足音だ。デザリアの。


 それも、目の前のコイツじゃなくて、別の、今も元気に動き回れる個体が発してる足音で、しかも結構音が近い気がする。


 つまり、僕にとっての「死」が、すぐ側に居る。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る