悩む。



 僕は孤児だ。町に戻って人手を集めたとして、この鉄塊の権利を大きく主張出来る訳が無い。


 そう言うのは信用がある人が信用してる人に対してやる物だ。孤児が適当にそんな事をすれば、手に入るはずだった利益の殆どを持って行かれてしまう。


「さて、どうしようか……?」


 幸い、コックピットのキャノピーが割れて、中に入れそうだ。なら、自分で動かして町まで持って行く?


 長く乗る訳じゃない。町まで持てばそれで良い。


 もしかしたら、こんな瀕死でもコックピットからの操作なら動くかも知れない。


 陽電子脳ブレインボックスを積み替えてないバイオマシンは、気に入らないパイロットの操作を拒否する事も有るそうだけど、この子はどっちにしろ、この場に残ってても死ぬのだ。


 どっちにしても死ぬなら、有意義な死に方を選んでくれる可能性も…………。


「いやいや、ダメだろ。そんな運び方して、他の元気なバイオマシンに目を付けられて襲われたら、そのまま死んじゃう……」


 此処ここまでコソコソと、バイオマシンに遭遇しないように気を付けて来たのに、ろくに抵抗も出来ない瀕死のデザリアに乗って移動とか、やっぱり自殺と変わらない。


 デザリアに限らず、バイオマシンは同種の仲間にも大して仲間意識を持たない。そしてバイオマシンの主食は生体金属ジオメタルだ。バイオマシンは生体金属ジオメタルで出来てる。


 瀕死のデザリアなんて、どのバイオマシンから見てもノーリスクで食える美味しい餌だ。


 ボロボロで瀕死のデザリアなんか乗ってたら、同じデザリアに見付かるだけで食い殺される。コックピットに乗ってる人間なんて考慮しない。


 と言うか基本的に現代人は殺されるから、ついでにグシャッとされるに決まってる。


 つまり、乗って帰るのは控え目で大胆な自殺だ。ナシだ。


「……どうしようかなぁ。諦める手は無いもんなぁ」


 それだけは無い。これだけの量の生体金属ジオメタルだ。人生が変えられる程の幸運と言っても良い。なのに、諦めるなんて有り得ない。


 砂漠の生活は大変なのだ。水も塩も、生きる為に必要な物資は当たり前に高額で、金の稼げない孤児はあっと言う間に渇いて死に絶える。


 民間レーションにミネラルは入ってるから塩は除外出来るとしても、砂漠で人間が一人、一日に生きる為に必要な水がボトル三本。一本七シギルだから、二一シギル。子供だと二本で済むから一四シギル。


 そこに一日二食、出来れば三食分の民間レーションで三シギル。計一七シギルあれば、砂漠の孤児はギリギリ生きて行ける。


 僕がこうやって危険な砂漠を彷徨うのも、それがお金になるからだ。

 バイオマシンの残骸、生体金属ジオメタルは高く売れる。


 具体的に言うと、僕みたいな子供が背負える粗末な背嚢を、生体金属ジオメタルでパンパンにして帰れば、七○シギルで売れる。まぁパンパンになるまで拾えた事なんて無いんだけど。


 普通の大人が普通の給料で普通に働いた場合、月に一五○○シギルから三○○○シギルくらい。


 つまり、僕みたいな孤児でも、背嚢を生体金属ジオメタルで毎回パンパンにして帰れるなら、二十一日程度で普通の大人並に稼げるのだ。それくらい生体金属ジオメタルは高く売れる。


 もっと言うと、砂漠に転がって品質ガタガタの、文字通りに「鉄クズ」の状態の生体金属ジオメタルでそれだけ稼げる。


 だからこそ、僕みたいな子供が運べる程度の量でも、砂漠で生きて行ける。きっと、こんなに水が高く無い場所だったなら、もっと楽に生きて行けた。


 僕はそんな風に、毎日必死で生体金属ジオメタルを漁っている。なので目の前の生体金属ジオメタルを諦めるのはナシだ。と言うか不可能だ。


 ろくに生体金属ジオメタルが拾えない日がちょっと続くだけで渇いて死ぬ様な綱渡りで生きてるのに、こんなチャンスを逃すとか、それもやっぱり自殺みたいなもんだと思う。


 僕だって出来るなら、何時いつバイオマシンに見付かって殺されるか分からないこんな場所で、必死に鉄クズを探したくなんか無いんだ。


「……一旦隠して、町に戻ってから何か考えようか?」


 此処で日に当たりながら長考しても、意味が無いように思えて来た。


 ターバンの中が蒸れるし、このまま陽射しに晒され続けるのも正直、普通に命が危ない。いくらナノテクノロジー由来の服だって、限度がある。


 この場所が瓦礫の陰とは言っても、その影を殆ど占有しているのは瀕死のデザリアだし、日陰でも気温はバカみたいに高いし。


「いやでも、町に戻ってる間にこのデザリアが死んだら、陽電子脳ブレインボックスがダメになるかもだし……、生体金属心臓ジェネレータだって悪くなるかも知れないし……」


 僕は、どうすれば良いんだろう…………。


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