第19話 下種の極み男
「よぉ…、そっちも元気そうだな、タツヤ」
男の名は【
俺と同じくこの世界に転移してきたのだが、"スキル持ち"ということで部隊入りを免れた生徒の一人だ。何のスキルかまでは知らないが。
来ている制服が国王軍のものであるところを見ると、貴重なスキルを得て良いポジションに就いたのだろうな。羨ましいことで。
「今そこでダリトン殿下から聞いたぜぇ。お前、俳優デビューするそうじゃないか」
「そうだな」
先に到着した
きっとどんな催し物に出て、どのような末路を辿るのかも聞いていて尚、いやらしく口角を上げ愉快そうに話しているのだろう。
昔から底意地の悪いやつだったな、コイツは。
「でも気をつけろよ。危ない役割だって言うし、怪我をするかもしれないんだろ?」
「らしいな」
「なんだったら俺がかけあって、代役を立ててもらうようにするけど…?」
「え、それって…」
「遠慮しておく」
タツヤの提案に一瞬希望を見出す王女だったが、俺がそれをあっさりと跳ね返す。
するとタツヤはニヤケ顔から一転、ムッとした表情を見せた。
「はぁ…? お前このままじゃ死ぬんだぞ。その辺ちゃんと分かってんの?」
「お前にそんな権限がないのは分かっている。どうせ俺がみっともなく懇願する姿が見たいだけだろ?」
「…」
「それに、お前に助けられるくらいなら死んだほうがマシだ」
「っ…ああそうかよ! だったらさっさとくたばっちまえ!!」
俺の売り言葉に大きな反応を見せるタツヤ。
そしてそのまま王都へ戻ろうとすると、それと入れ替わるようにもう一人の人物が馬車の近くにやってきたのだった。
「…日南くん」
「マネージャーじゃん。いたんだ」
「うん…」
話しかけてきたのは【
タツヤと同じくスキルが発現しており部隊入りを免れたひとりだ。
元の世界ではサッカー部のマネージャーをしており、俺やタツヤやシュンとも関係している。
そんな彼女が、俺の前に半年ぶりに姿を現した。
不安そうな瞳に、もうすぐ殺される(事になっている)俺を映して。
「…聞いたよ。周年記念の行事に出るって」
「君らがその話を聞いたことをさっき聞いたよ」
「どうして、加茂くんの助けを断るの…?」
「アイツに助ける気なんて無いよ。マネージャーも知ってるだろう? アイツがキャプテンになってから俺やシュンにしてきた事を」
「それは…」
「この半年間、アイツが少しでも悲しむ素振りを見せた事があった?」
「…」
俺の知る加茂タツヤ像を言い聞かせると、マネージャーは黙ってしまう。
アイツは、俺が仕入部隊に入ったことを内心喜び、中々死なないことに苛つき、そしてほぼ生き残る術の無い舞台に上げられることで浮かれていることだろう。
そういうヤツなんだ。
だから出来もしないことをいかにも出来そうに言った。その方が俺に与える精神的ダメージが大きいからな。
ダンジョン下層に飛ばされ、クレイエンテさんに力を託され、生き残るための算段を立てるようになったから気付くことのできた悪意かも知れない。
本当に命の危機に瀕していたら、俺は甘言に乗せられヤツの思う壺だっただろう。
「じゃあ私が、その…上に掛け合って……」
「いいよ、無理しないで。誰に掛け合って、どうやって助けるのさ?」
「それは…」
「とにかく、俺なんか気にしないで自分の任務を全うしなよ」
「気にするよ!」
俺がさっさと帰るよう促すと、マネージャーは大きな声を上げる。
今まで部活等で一緒に過ごした中でも一番の声量だっただけに、一瞬言葉に詰まってしまった。
「日南くんが死んじゃうかもしれないんだよ! 気にするに決まってるよ!」
「そりゃあ…」
なんでまた…と続けようとしたところ
「おい翔子! 早く行くぞ!!」
と、タツヤが離れた所で呼んでおり、会話が中断されてしまった。
「…諦めないから」
「……そうか」
彼女はそれだけ言い残し、行ってしまう。
元の世界ではあまり主張するようなタイプではなく、いつも同じサッカー部マネージャーのミレイの影に隠れているようなヤツだったから少し驚いた。
怒るところも、怒鳴るところも初めてだ。
「今の二人は、キミと同じ故郷の仲間だよね?」
「え、ええ…まあ」
一連のやり取りを馬車の中で聞いていたスーリエが質問してくる。
「仲悪いの?」
「んー…まあそうですね。ちょっと色々とありまして」
「なになに? 色々って」
俺とタツヤたちの関係に興味を持ったスーリエが更に深堀りしてきた。
まあ別に隠すようなものでもないので、話してあげる事に。
「彼らとは、元居た世界で同じ運動競技の集まりに所属していたんです。男の方は同じ競技者で、女の方はサポーターでした」
「ふむふむ…」
「技術では俺やシュン…一緒に仕入部隊に配属になった友人の方が上だったんですけど、さっきの男は上の立場の人間に取り入るのが上手でして。途中で集まりのリーダーになったんです。どうやら裏では自分の事は上げて、俺や友人の事は下げるよう話をしていたらしいんですけどね」
「うわー…いるよね、そういうタイプの人間」
この世界にもいるのか、タツヤみたいなのが…。ということはどこにでもいそうだな。
「俺としてはそのリーダーの仕事は面倒だから、やってくれて助かるなと思ってました。競技に集中できるぞって…。ところがアイツはリーダーなのをいいことに、俺と友人に面倒事を押しつけたり、邪魔をするようになったんです」
「サイテー…」
「おそらくずっと俺や友人の事は邪魔な存在だと思っていたんでしょうね。でも競技じゃ敵わないから、搦め手を使ってきたと」
「そんな中でキミらはこの世界に転移されて、あっちは王都、キミらはダンジョンに行く事になりましたとさ…って?」
「はは。そうなりますね」
ヤツの
贔屓も何もないここで自分が選ばれ、俺とシュンは選ばれない。その事実がどれほどヤツを浮かれさせたかは想像に易しい。
「女の子の方もそんな感じ? パッと見そうは見えなかったけど」
「そっちは…悪意はないと思います。でも正直大声を出した時は驚きましたけどね。あんな声出るんだって」
「あんま仲良くないの?」
「ほとんど喋ったことなかったですしね」
部活中にも一言二言話すくらいかな。
マネージャーとして頑張ってることは知っていたけど、特別仲が良かった感じでもない。
「…まあ、彼らとの関係性は分かったよ。ありがとね」
「いえいえ」
「…」
俺とスーリエが話をしている間、王女は一言も口を挟まなかった。
何か思う所があるのか、単に興味がないだけなのかは不明だが、ずっと下を向いていた
そして、そうこうしている内に外から再び俺を呼ぶ男の声が聞こえる。
タツヤとは別の男の声だ。
「ホクトヒナミ。準備が整ったので、これからキサマを収監する」
「あーはいはい」
男は俺を牢屋へと案内する役を担っているらしく、出てくるように促した。
俺は馬車から降りると、素直に従い男の後ろについた。
そして…
「ありがとうございました。王女、スーリエさん。どうかお元気で」
と最期の言葉をかけお辞儀をすると、周年祭までの間一時的に過ごすことになる牢屋へと歩みを進めたのだった。
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