第13話 とにかく明るいマルクト
(私の故郷は、生まれつき優れた魔法適性を持つ一族の村でした。
(ふーん)
スキル以外に"魔法"という概念があるのはモンスターの魔石化のくだりで認識していたが、俺にはまだ違いがよく分からない。
そしてガッツリ出自から始まり、時間がかかりそうだなと悟った。
(その中でも私は"時空間魔法"という限られた者しか持たない特別な因子を持っていたのです)
(時空間魔法…)
(はい。そしてそこに目をつけたのが、この施設の管理者でした。ここにある設備は私の時空間魔法因子を増幅・変換し、大規模転送魔法を行う為のものなんです)
"大規模転送魔法"という単語を聞き、ひとつ思い当たるモノがあった…
俺たち、異世界からの来訪者だ。
修学旅行中に2クラス分の生徒がまるまるこちらの世界に飛ばされた。
そして大半がダンジョンでいつ死ぬかも分からない労働を強制されている。
この国のお家芸と言える、外部からの労働者調達。
その手段がここにあるというのか。
(……その大規模転送というのは、ダンジョンで魔石を集めさせる捨て石を呼び寄せるためのものだろ?)
(あ、ご存知でしたか)
(俺がその捨て石だからな)
(………そうでしたか)
水槽の中で表情が変わることはないが、少しの沈黙とテレパシーで伝わる声の抑揚から、彼女が申し訳なく思っていることが分かる。
(つまり、君が居なければ俺や友人たちが酷い目にあうことは無かった…ってことか)
(違います…!と言いたいところですが、責任の一端は私にあるかもしれませんね…。この設備のパーツとして、私は故郷の村から無理矢理ここに連れてこられたんですから)
(…)
(私が村で両親の仕事の手伝いをしていたところに王国兵がやってきて―――)
そうか。
この子も俺たちと同じように誰かの養分としての人生を強いられてきたのか…。
しかも、俺とこの子は真逆の理由だ。
この子は類まれなる才能のせいで、俺は何の才能も無いせいで、酷い生活を送ることを余儀なくされた。
(ちなみに、いつからここに?)
(前任の因子持ちの方が高齢で亡くなられたのが去年なんで、かれこれ1年くらいですかねー。あはは…)
俺の倍近くもこんな水槽に閉じ込められていながら、明るく笑う彼女。
俺は親友の存在があったからこそ気丈に振る舞うことができていたが、この子はたった一人でこんな身動き一つ取れない状態で…それでもなお正気を保っていられるのは凄い事だな。
ダンジョンの最深部にこんな施設を作ったということは、誰も助けに来ることが出来ないからだ。
先程この子が話した"先代"のように寿命まで縛り付けられる事が薄々分かっていただろうに。それでもふざけられるのか…
(でまあ、因子を持ってしまったばかりに研究者に捕まって、助けが来ないと思っていたらまさかの人がダンジョンの方から来るじゃありませんか。それで私は―――ってちょっと!?)
俺は続きを話す彼女を無視し収納から剣を取り出すと、それを手に取り水槽目がけて思い切り振った。
斬撃を数回受けた水槽は呆気なく壊れ、中に入っていた液体がそこいら中に零れ出る。
そして水槽から液体が全て出きったところで彼女に繋がれているパイプ類を切断し、およそ1年ぶりに支配から解き放ったのだった。
「大丈夫か?」
俺は床にへたり込む彼女に、近くにあった薬品棚を覆っていた大きい布を被せ無事を確認する。
勢いでぶった斬ってしまったが、生命維持装置の類などが無いとも限らない。
反応が薄いので、軽率な行動だったと反省した。
「…あ…りがと…ござ…います。喉から声を…出すのが…久しぶりだから…少しだけ、待っててください…」
「分かった」
俺は近くにあった椅子を2つ持ってくると、ひとつを彼女の方へ置き座らせる。もうひとつは自分で座る用に。
彼女は布をしっかりと体に巻きつけると、「あー」とか「うー」と発声をしながら体調を整え始めた。
そして数分もしないうちに、目の前の少女は先程よりも喋れるようになる。
「…助かりました。信じて…くれたんですね」
弱々しい声で、俺に礼を言う。
「……そう…かな。さっきの話は、この国の人間がやりそうな事ではあったから…。それに、作り話だとしても胸糞悪いし、聞いていられなかった」
「あはは…すみません。お聞き苦しい話を……」
「あと…」
「…?」
「人類未踏のダンジョン最下層に待ち伏せする敵はいないかなって」
強敵ひしめく魔境を乗り越えて、誰かが到達するのを見越して待ち伏せなんて…暇すぎるだろう。
それに水槽から出てそんな苦しそうにしてたら奇襲も何もない。
俺が状況からそう推察して伝えると、目の前で座って休んでいる彼女は目をパチクリさせて、その後満面の笑みで―――
「それもそうですね!」
と答えた。
この子は少し抜けているところもあるが、底抜けに明るく、裏表が無さそうなところに好感が持てる。
「ところで、お兄さんは名前、何ていうんですか?」
「俺?」
「はい!恩人の名前を聞いておきたいなと思って。いつまでもお兄さんとか貴方じゃ失礼でしょうから」
「ああ…。俺は日南 北斗。好きに呼んで」
「名前がヒナミで名字がホクトですか?」
「いや、逆だね」
「じゃあホクトで!私は【マルィス マルクト】と言います。村の仲良しの子たちは私を"マルー"って呼びます!」
「そうなんだ。宜しく、マルクトさん」
「遠距離!?」
遅ればせながら自己紹介を済ませる俺たち。
俺は彼女をマルクト、マルクトは俺を北斗と呼ぶことで落ち着いたのだが、ずっと『マルー』と呼べとしつこかった。
そして呼び方のくだりが一段落したところで、マルクトが話を切り出してくる。
「ホクトはどうやってこんなところに来たんですか?さっき自分で言ってましたけど、人間があの扉の外から現れるなんて本来ありえないことですから、驚きましたよ」
「そりゃそうだな」
「研究者はあそこにある転送ゲートを使って王城の地下深くと行き来していますが、実質アレが唯一の交通手段だと思ってました。ホクトが来たのはまさしく魔窟から、ですよ」
マルクトが指さした先にある図形を見る。あれが転送ゲートか。
そしてアレの行き先は王城…支配者の住まう場所の地下深く。
彼女の言うように、関係者でない人間がここに来ることは普通なら不可能だな。
普通なら。
「あ、別に言いたくないなら無理に言わなくていいですよ。恩人なのに代わりはありませんから。困らせたくないですし…」
「え、聞きたくないの?」
「……ちょっとだけ」
遠慮するマルクトに少しだけイジワルしてみる。
反応がいちいち面白いな。周りには居ないタイプだ。
俺が振るとちゃんと困ってくれる。
だがイジワルばかりもしていられない。
彼女の力を借りなくてはならないかもしれないからな。
「教えるよ。俺のこと。その上で協力をお願いしたい」
俺は彼女にここまでのいきさつを話すことにしたのだった。
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