第12話 どっからどう見ても囚われの姫でしょう!
「よし…これなら行ける……ハズ」
俺は剣に写りこんだ自身のステータスを見て、作戦が上手く行きそうなことを予感する。
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Lv.1
体力:150
筋力:91
耐久力:105
魔力:8
魔耐性:12
スキル
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映し出されたステータスは、レベル上げも満足にさせてもらえない仕入部隊のそれそのものである。
否。そう見えるよう俺がスキルで細工をしているのだ。
実際のステータスはこう。
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Lv.1,002
体力:15,088
筋力:9,164
耐久力:10,511
魔力:8,001
魔耐性:12,931
スキル
紫炎(極)
土(特大)
霊馬召還
霊馬騎乗
核眼(極)
黒霧
霊魂抽出
霊魂隷属
収納(25/100)
雑食
毒耐性(特大)
麻痺耐性(特大)
空歩
自己再生(小)
硬化
夜目
千里眼
保護色
…
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俺のステータスを映し出している剣の"隠したい部分”を【黒霧】で覆い、その霧に【保護色】を使い剣と同じ見た目を再現。
数値は下1~3桁を消し、スキルはそのままそっくり消去する事でレベル1の弱小ステータスに偽装したというワケである。
なぜこのような事をするのかと言うと、地上に行き仕入部隊に戻ったフリをするには必ずステータスチェックを行う事になるからだ。
普段から魔石をネコババしていないかを数値で確認するために、ダンジョンから戻ったら必ずチェックをする。(俺の場合なあなあで免除されることも多かったが)
今回なら『もしかしてコイツ、ある程度力を付けたから戻ってきたのでは…?』と疑われて確認されるだろうと踏んでいる。
その時に何の力も無い若者を演じる為の小細工だ。
細工がバレれば当然即戦闘あるいは呪印による処刑と言う流れになる。そうなったら最悪駆けつけた者全員を始末するくらいの覚悟と力は手に入れた。
ただそんなことにならないのがベストなので、確率を上げるために手土産の魔石もそこそこ用意している。(落ちていたのを必死に拾ったという設定)
あとはその時の流れと、俺のこれまでの素行や信頼度次第だなと思う。
「…うし。頑張るか」
ともかく、セカンドプランの条件をひとつクリアした。
あとは地上に戻るだけだ。
俺はステータスを隠している霧を消し剣を収納にしまうと、目の前の大きな扉を見上げた。
「しかしでけぇ…」
俺は今まで座っていた69層と70層を結ぶ階段から立ち上がり、70層フロアまで下りてきた。
そして改めて、辺りを見回してみる。
70層フロアはそれほど広くなく、階段を下りてすぐ高さ15メートルくらいの巨大な扉が目に入る。
あとは扉の両横に、台座に置かれたガーゴイル的石像が2体…。
このフロアはそれだけ。他に進めるような道は無かった。
近付いたら絶対襲ってくるよな…、アレ。
だがあの扉の向こうに行って転送装置の有無を確かめなければならない。
扉の向こうに地上への帰還方法が無ければ、俺は徒歩で帰ることが確定してしまう。だからどうか、ワープゾーンみたいなのがあって欲しい…!
そんな祈りを心の中で叫びながら扉へと近づいた。
「…」
「…」
「…」
いや、動かないんかい。
予想に反し、近付いても何の反応もしない石像。
いいんだけど、ここは襲ってくるのがお約束だろう。いいんだけど。
「…お。人間サイズのあんじゃん」
お約束が来ずモヤモヤを感じたまま近付くと、大きな扉の一部が普通の扉になっている事に気付いた。
『人間はここから出入りしてね』と言わんばかりのサイズ感だ。
確か…ここに辿り着いた人間は居ないって話だったよな…。あれも俺たち
「開かない…」
観音開きの扉を軽く押してみたが、どうやらロックされていてビクともしない。
パッと見、魔法的な封印と言う感じでも無さそうなので、俺は扉から手を離し右拳を振りかぶって思い切り殴った。
すると大きな音を立てて扉が吹き飛んでいき、中に入ることが出来るように。ステータス任せの力技でスマートとは程遠いが、今は容赦してほしい。
奥の部屋は体育館よりも少し小さいくらいの空間になっており、よく分からないパイプや魔法陣的な図柄、本棚、机などなどなど…
多分何かの研究施設なのだろう。自然発生ではなく人に作られた場所であることは明らかだ。
そしてこの場所で最も異彩を放っているのが…
「女の子…?」
大きな水槽の中に入っているマッパの女子だ。
長い銀色の髪と端正な顔立ち。細い手足…というか全体的に細い体躯。
口や頭、腕や足にパイプが取り付けられており、それが施設内の色々な所に伸びている。
よくよく辺りを観察してみると、この施設は彼女を中心に作られているようにも見えた。それほど重要な何かを彼女が担っているのか。
(あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんですけど…)
(っ!?)
この施設について考えを巡らせている俺の頭の中に、突如女の子の声が響いてきた。
声の主はもしかしなくても目の前の水槽の子なのだが、これは…
(テレパシー…?)
(そのとおりです。これが今の私に許された唯一のコミュニケーション手段です)
驚いた。
あるだろうなとは思っていたが、突然やられると違和感が凄い。
まるで頭の中に電話機を突っ込まれて―――
(もう、いくら私が可愛すぎるからって、見過ぎですよこのエッチ)
(は?)
(そうやって考えるフリをして、私のボデーを隅から隅まで堪能しようというんですね。困るわー…それくらいの年齢だとまだ溢れる情欲を押さえきれていないかー。本能の赴くままに動きがちかー)
…なんかすごくイラっとする。
勝手に人をけだもの扱いしてきやがって…。
何らかの実験動物にされているのかと心配したのだが、どうやら俺の勘違いだったようだ。
(…ジロジロ見て悪かったな。引き続き入浴を楽しんでくれ。それじゃ)
俺はリラックスタイムの少女を置いて、地上への帰還方法を探すべく施設内の探索を再開する事に。
すると…
(いやいやいや!)
と、少女が俺を引き留めてきた。
(なに?俺、探し物あるから忙しいんだけど)
(いやいや、探し物の前にわたし!)
(…が、どうかした?)
(どうもこうも、どう見ても囚われの儚く可憐なお姫様でしょう!?助けてくださいよ!)
(? てっきり公開入浴中の変態かと)
(いやいやいやいやいやいや!)
(いやいやいやいやいやいや)
(マネしないで!)
テレパシーで叫ばれると耳ではなく頭がキーンとする。
慣れてないせいもあるだろうが、繰り返されるとしんどいな。
だがどうやら最初の目論見通り、彼女がここにいるのは不本意であることに間違いない様だ。
(おふざけはいいから早く助けてくださいよ。乙女の柔肌を拝んだ見物料を払ってくださいよ)
(公開入浴は冗談だが、助ける助けないは別だ。いきなり『囚われてます』と言われて『はいそうですか』と信じるほどボケちゃいない。助けた瞬間襲われたらたまらないしな)
(う…)
実は強力な魔物で、その力を軍事利用するための施設…ということもなくはない。
嘘の話を見抜けるほどの感覚は俺には無いかもだが、ここに至るまでの経緯を聞いて、開放するかしないかはその時決める。
(そこから出してほしいなら、手短に理由を話して)
俺は水槽の中で目を閉じたままの少女に話すよう促した。
すると頭の中に、ポツポツと声が届き始める。
(…私は)
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