第11話 セカンドプラン
「グルルルル…」
ダンジョンの69層。
少し開けた空間で、目の前には虎のようなモンスターがこちらを威嚇するように唸り声を上げている。
頭にはツノ、背中には翼が生えており、元の世界は当然のことながらこちらの世界の書物でも見たことが無いフォルムの敵だった。
まあこの階層までたどり着いた人間が居ないというのだから、それも仕方のない事なんだけど…。
改めて敵を見る。
槍のように尖った2本ヅノ、1本1本がナイフのように鋭利な牙と爪、撫でられただけで肉が削がれそうな翼…
全身のあらゆる部位が敵を殺す武器となりうる凶悪なモンスターが、今にも跳びかからんとこちらを睨みつけている。
そして―――
「ゴアアアァァァァ!!」
咆哮と共に突進してきた。
「っと…!」
虎は凄まじい突進からのツノ攻撃を繰り出してくるが、俺はそのツノを手で掴み踏ん張った。
少しだけ後ずさりはしたものの、やがて俺も虎もビクとも動かなくなる。パワーでは完全にこちらの方が上を行っている状態だ。
ツノの先端が俺のみぞおちの数十センチ手前で完全に停止したところで、そのまま右手に力を入れツノを外側に折り取った。
「ゴガアアアアアァァァァ…!!!」
根本から折れたツノを脳天に突き刺すと、虎の苦しみ悶える声が辺りに響く。俺からしたら威嚇の声と大差ないように思えるが、ジタバタと頭を振って抵抗しているあたり、かなり苦しいと見える。
しかし左手でツノをガッチリ固定しているので、虎は逃げる事も爪で攻撃する事も出来ないでいた。
そして段々と力が弱まり死ぬ少し手前のタイミングでツノから手を離すと、素早く回り込み人間でいう"うなじ”の部分に手を突っ込み、虎から"コア"を取り出す。
「頂きます」
採れたて新鮮なコアを口から取り込むと、全身に虎のパワーが入って来るのを感じる。
対する虎は致命傷を負ったことで霧散し、あとには何も残らなかった。
ツノや牙、毛、そして魔石も何もかも、跡形もなく消えてしまう。
クレイエンテさんが教えてくれた、何代か前の魔王が施した同族を人間から守るための魔法。それにより、死ぬと人間に利するモンスターの痕跡は何も残らなくなる。
武器や防具になりうるモンスターの素材や、スキル・経験値が詰まったコア…それらが消滅し、手元に残るのは僅かばかりの経験値が詰まった魔石のみだ。
今俺がやったみたいに生きている内にコアを取り込めば、石すら残らなくなる。
良くできた仕掛けだ。
「えースキルは…っと…。やっぱ特になさそうだな…」
クレイエンテさんから受け取った、綺麗に磨かれ刃の表面がピカピカの剣でステータスを確認するも、俺のスキルは特に増えていなかった。
既に6体も取り込んで成果ゼロなのだから、コイツから得られるスキルは無いのだろうな。
俺はクレイエンテさんと別れてから(多分)約半日…"ファーストプラン"達成に必要なスキルを獲得する為、60層から69層のモンスターを狩りまくっていたのだ。
ひとつは転移系スキルの入手。
これがあればシンプルに地上へと帰還出来る。しかし俺の場合これだけでは不十分だった。
何故なら、俺の首には【牢獄の呪印】があるからだ。コイツがある限り、ただ地上に戻っただけでは100%助かったとは言えない。
未だに俺は地上では、規則違反をした"いつ死んでも構わない”仕入担当の一人なのだから。
なので転移系と合わせて欲しかったのが【解呪系スキル】だった。
この牢獄の呪印を解くことのできるスキルがあれば、わざわざ元の宿舎に戻る事も無く、そのままどこかへオサラバ出来る。
地上では死んだ者扱いにしてもらって、いずれ忘れてくれるだろうと、そう思った。
だが現実はそう甘くなく、既に100体くらいモンスターのコアを取り込んだが、未だに転移スキルも解呪スキルも入手できていなかった。
現状ファーストプランに必要な条件をひとつも達成できていないのだ。
幸いにも序盤でカラスのような見た目のモンスターから【雑食】のスキルを獲得できたおかげで、生きたまま敵の肉を美味しく食えるようになり、空腹問題がクリアできたのは助かった。焼肉にしたくても、死んでから捌いたのでは消滅してしまうしな。
飲み水も63層に川があり、そこの水が飲むのに適している。
ダンジョンに飛ばされる前からかなりの空腹だったが、飢え死にの心配はなくなって良かった。
とは言え、ノンビリとスキル獲得までここで0円生活を続けるわけにもいかない…。
上の連中がいつ気まぐれに俺の呪印を発動させるか分からない以上、準備に多く時間をかけるのは得策ではない。
そこで俺は"セカンドプラン"を実行することにした。
それは、【一時の気の迷いで愚行に走った人間が改心して、手土産を持って許してもらいに来た】作戦だ。
まあ要するに、地上に戻って連中と和解するフリをして、隙を見て解呪させて逃亡しようという事だ。
呪印にはそれぞれに対応するアミュレットがあり、発動や解除はそれを使って行う。
そして全てのアミュレットはダンジョン担当の兵士が管理していて、俺たちの出番表と一緒にキッチリ出し入れされる。
今の俺なら普通にヤツラの詰所に突入して無理矢理奪う事も出来るし、出番の時にアミュレットが出されたタイミングを狙う事も出来る。
だが自分に対応するアミュレットが分からないから、より簡単なのは出番の時を狙うことだ。
このプランなら解呪スキルは要らない。
その代わりに"あるスキル"の入手がマストになってくるのだが…
「いたいた…」
虎を倒してからしばらく階層をウロウロしていたところ、一体のモンスターを発見する。
コイツがきっと、セカンドプラン達成に必要なスキルを持っているはず。
「覚悟しろよ…カメレオン」
俺は【迷彩】スキル獲得のため、カメレオンのモンスターを狩ることに。
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