第10話 スタート地点
「これって…ウソだろ…」
自身のステータスを見て、俺は最初見間違いかと思った。
前確認した時はレベルが1で、一番高い体力値でも200ちょっと。魔力に関しては0だったハズ…。
それがどうだ。レベルななひゃくごじゅうよん?体力に関してはまさかの1万超え。
他人のステータスなんて見せてもらう機会はそれほどないし、見られるとしても同じ仕入部隊の弱いステータスだけだから、数値が5ケタも行くなんて想像もしなかった。
伝説級のモンスターの力を取り込むとここまで力を得られるものなのか。
『うーん…けっこうなスキルが継承されてないな…』
ステータス値に驚いている俺を尻目に、クレイエンテさんは何やら頭を悩ませている様子だ。頭はないけど。
「えと…どうかしたんですか?」
『ん?ああ…。オレが持っていたスキルが結構継承されずに消えちまったなって…。でも、押さえるべきところは押さえてあるし、大抵の敵はフィジカルだけで十分だろうがな』
「はあ…」
どうやら俺には、クレイエンテさんが持っていたスキルがちゃんと引き継げていなかったらしい。
そもそもコアの存在を知らなかった俺に原因など分かりようもないが、相性とか運とかそういう要素が絡んでいるんだろうか。
『ま、いいや。それより、持っているスキルの説明をしようか』
「あ、はい。お願いします」
俺はその後、引き継げたスキルについての説明を受けた。
■紫炎(極) 炎属性の技を、出力・温度を最上位まで高めて放てる。紫は炎の色で、威力に影響はない。位は小<中<大<特大<極 の順。
■土(特大) 土属性の技を出力・硬度を上から2番目の位で放てる。
■霊馬召還 馬の幽霊を召還することが出来る。幽霊ゆえに死ぬことは無い。
■霊馬騎乗 幽霊の馬に乗り操ることが出来る。生きている馬は対象外。
■核眼(極) 生物のコアの位置を特定することが出来るスキルの最上位。
■黒霧 黒い霧を出し、辺りを覆うことが出来る。
■霊魂抽出 死んだ生物の魂を取り出すことが出来る。
■霊魂隷属 死んだ生物の魂を服従させることができる。組み合わせると、死者を使役する事も可能。
■収納(0/100) アイテムボックスのこと。数字は最大数のうちの使用数。
『とまあ、いま少年が使えるのはこんなところだな』
「なるほど…」
中々にデュラハンっぽいスキルを継承しているな…という感想だ。
なお俺が先ほどベヒーモスに止めを刺した技は、炎を最高威力で収束して放ったという。無意識だったが、とんでもない威力だったな。
「そういえば、一番下の『…』っていうのは何ですか?」
『ああ、そりゃあ何らかの理由で"発動条件"を満たせずに無効化されているスキルだな』
「発動条件?」
『ああ。例えば"鋭利な羽ばたき"というスキルがある。これは羽をナイフのようにして敵に飛ばすことができるというものだが、翼の無い少年では当然発動は出来ない』
「ああ、そういう…」
『そんな風に、性質上特定の種族にしか使えないようなスキルは、継承はしても表示される事は無いんだ』
「なるほど」
色んな種族が混在するこの世界で、人間が使えるスキルは意外と多くないのかもしれない。
『中にはレベルやステータスが発動条件に関係するスキルもあるが、そのステータスで発動できないスキルは無いハズだ』
「他に発動条件はあるんですか?」
『そうだなぁ…。あ!あったあった』
少し考えたあと、大切な事を思い出した様子のクレイエンテさん。
『特定のスキルを二つ以上組み合わせて生み出したスキルは、その元となるスキルがないと表示されないんだった』
「組み合わせ…?」
『そうだ。例えば水と炎のスキルを組み合わせると"水蒸気爆発"というスキルができるように、この世界では一定のスキルと条件で新たなスキルが誕生するようになっている。そして魔石化を行った魔王が最も恐れたのが、この組み合わせだ』
「魔王が恐れるって…一体どうしてですか?」
強大な力を持つとされる魔王が恐れるという事は、余程の事だ。
しかしスキル組み合わせがそれほどの脅威であるというのが、いまいちピンと来ていなかった。
『具体的にどのスキル…という事ではないが、魔王は人間の"叡智"と"可能性"を恐れたのだ。それは知性の低い多くの魔族には不可能な未知のスキルの開発を、ヒトという"種"全体が行える可能性を秘めていたからだ』
「可能性…」
『そうだ。魔王はヒトが生み出すかもしれない未知のスキルを恐れ、その材料となりうる
さっき話していたように、現在人間側はかなりの劣勢だ。
今の魔王も本気を出していたら、とっくに滅ぼされていたかもしれない。
経験値の減少以上にスキル獲得無効という効果が今の状況を作っているとしたら、魔石化を施した魔王の功績は甚だ大きいと言えるな。
『まあそんなワケで、見えていないスキルは気にするな。多分使えるようになる事は無いし、そう思っていた方が楽だぞ』
「分かりました」
『で、話は大分戻るが…地上に戻るために必要だった"中以上"の空間転移は継承されていないようだから』
そうだ。地上に戻る方法の話をして、スキルの確認になったんだった。
そしてどうやら、お目当てのスキルは得られなかったようだ。
『少年はこのまま最下層を目指そう』
「最下層…70層ですか?」
『ああ。オレも行った事は無いが、何かしらの帰還方法はあるだろう』
「んないい加減な…」
『いいんだよ。どうせあと3層なんだから』
「そりゃあそうですけど…」
『道中にトラベルバードっていう鳥系のモンスターが居たら、ソイツのコアを取り込めば空間転移が得られるかもしれないしな。捕まえるのは至難の業だが、模索しながら気楽に行けよ』
命の危機は去ったんだからな、と話すクレイエンテさん。
食料に関しては適当なモンスターを捕まえて食ってみろ、なんて笑いながら言う。
でもまあ、そうする他ないもんな。なるようにしかならない。
『少年』
俺が気持ちの整理を付けると、クレイエンテさんから呼ばれる。
「どうしましたか?」
『最後に大事な確認があった。これは、まあお節介みたいなもんだが』
「はぁ…」
『少年は、これからどうしたい?』
それは、俺の意思確認だった。
地上に戻るとかそういう"とりあえず"のものではなく、今後の方針の話だ。
全てを捨ててシュンを追ってきた俺。
見張りの制止を振り切ってダンジョンに侵入した時点で、俺の帰る場所はこの世界にも無くなった。このまま手ぶらで帰っても、呪印を解放されて死ぬだけだ。
そんなヤツがこれからどうしたいかと聞かれると…
「……俺は」
『うむ』
「元の世界に帰りたい…」
『それで?』
「シュンの遺体を、ちゃんとした所に埋葬してやりたいです」
『後は?』
「後は……俺やシュンがこんなことになったミストリア王国の人間が憎い。できることなら、シュンの仇を取りたい。殺されていった他のクラスメートの無念を晴らしたい…!」
『そうか…』
質問され、思わず口から出たのはそんな願望だった。
ひどい状況になってから久しく忘れていた感情。
元の世界への帰還と、俺たちを転移させて奴隷のように扱ってきたヤツらへの憎悪。
それが再び腹の底から顔を出した。
俺の願望を聞いたクレイエンテさんは少しの間考え、そしてゆっくりと話しだす。
『…少年は力を得た。その力は、多くの願いを掴み取るだけの強さを持っている。だがそんなヤツにも、選択の瞬間てのは来るもんだ。しかもそんな時に限って、のんびり選んでいる時間なんて無かったりする』
まるで自分がそうだったかのように語るクレイエンテさん。
『そんな時、瞬間的に選択できる様、優先順位だけは決めておけよ』
「優先順位…」
『そうだ。これから少年が道を進む上で、さっき話した願望以外にも大切なモノが出来るかもしれない。そんな中でも、一番大切なモノを迷わず選んで他を切り捨てられるようにしないと、全部失ってしまうかもしれないぞ…っていう話だ』
選択・切り捨て…
ここに来てから失ってばかりの俺が、何かを得られるだけの力を手に入れた。
それでも何かを失う時、何を手放さないようにするのか…
「…クレイエンテさん」
『なんだ、少年』
「俺は…どうしても帰りたい。元居た世界に」
『そうか。なら、迷うなよ。勿論全部手放さないようにする前提で動くが、それでも手から零れそうなとき、一番だけは手放すなよ!』
「…はい!」
誰も面と向かっては教えてくれない事。
それをハッキリと伝えてくれるクレイエンテさん。
本当に、出会えてよかった…。彼の事は、帰ってからも忘れない。
『さて、そろそろお別れだな。必要な事は多分伝えたと思う』
「ありがとうございます。あとは自分で、何とかしてみます」
『その意気だ。あと、オレの身に付けていた装備は使ってくれ。剣はそのまま使えるだろうが、鎧は"物を小さくするスキル"でも見つけたら自分のサイズにして使ってくれや』
そんなスキルもあるのか。
「はい。大事に使います!」
『それじゃ、達者でな』
明るく手を振りながら、デュラハンの幽霊はどこかへと消えていった。
俺に力と生き方を教えてくれた恩人は、最後まで笑顔だった。
顔は無いけど、そんな気がした。
「さて…」
俺はクレイエンテさんの言葉に従い、装備品を一通り回収する。
現状すぐ使えるのは剣くらいなもんだが、これも常に手に持っているのは邪魔なので、一旦袋にしまっておくことにした。
それと…シュンの遺体だ。これもあとで埋葬してやれるように収納する。
なんでも収納の中は状態の変化や劣化がおきない様になっているらしく、元の世界に戻るまで腐らないで保管しておける。
「落ち着いたら、お墓を作るからな…」
安らかに眠るシュンにそう呟く。
本当は霊魂抽出スキルで、クレイエンテさんみたいにもう一度話をしたかったのだが、既にシュンの魂は残っていなかった。
時間制限があるのか、それとも未練とかそういう話なのかは分からない。
ともかく魂が残っていなかったので、もう話をすることはできなかった。
「後は…」
少し離れた所にある、ベヒーモスの魔石を見る。
ここからでも分かる、強い力が内包されているであろう紫の宝石。
俺が1層で集めている石とは比べ物にならないオーラを放っている。
「…」
俺はそれを手に取ると、使わずにしまっておいた。
砕けばいくらか力を得ることが出来るのだろうが、それよりももっと価値のある使い方がある…かもしれない。
俺は自分の首を指でなぞりながら、もっと"交渉材料"を集めないと…と思った。
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