第9話 俺は人間をやめてたぞォー!
「魔石化…」
人が己の力を高めるために重宝している…
そして、俺たち仕入部隊が命を懸けて集めている…魔石。
それが"人間からモンスター力を守るため"の産物だったというのなら、大変な事実だ。
『さて、"コアとは何か"…という質問の答えだが、ズバリ"生物の力そのもの"だ。昔は、人間はモンスターの、モンスターは人間のコアを
「…」
古今東西あらゆるファンタジーで、人間はモンスターに食われてきた。
この世界でもモンスターは人間を食うと教えられてきたし、実際にそういうモンスターを見たことがある。
ダンジョン葬なんてものがあるのがいい例だ。
だがクレイエンテさんの話によると、昔は人間も普通にモンスターを食っていたというのだ。厳密にはコアをだが。
腹を膨らませる目的ではないにせよ、己の血肉にするという点では大差ないと思う。
まさか人間がモンスターを直接取り込むなんてなぁ…。
弱肉強食の世界では当然かもしれないけど、ファンタジーやゲームなんかではちょっと珍しい。
特に最初に魔石の話を聞いていた俺にとっては。
内心驚いている俺に、クレイエンテさんはなおも説明を続ける。
『そんな食って食われての関係だった人間とモンスターだが、ある代の魔王がとんでもない魔法を開発した。それが"全モンスターの魔石化"だ。その魔法はモンスターが死ぬと発動し、コアを分解して魔石の形に変換する。そしてさっきも言ったように、それを取り込んでも大した経験値もスキルも得られない。しいて利点を上げるとすれば、気軽に携行できるくらいかな。つまり人間が従来通りの力を得るには"生きている内にモンスターからコアを取り出さないといけなくなった"ってわけだ』
「それは…ハードモードですね」
『そうだろう。今までは殺してからゆっくりと解体して取り出せばよかったのが、生きている内に速やかに、だからな。コアの場所が分かるスキルのない人間ではほぼ不可能になっちまった…』
クレイエンテさん曰く、その魔法を機に人間と魔族の戦力差はどんどん開いていったのだという。
魔族側はこれまで通り人間から力を取り込み順調にレベルアップしていくが、人間が得られる力は従来の100~200分の1となり成長速度が遅くなっていった。
だが魔族も当然人間が弱くなっていくにつれ得られる力が減っていき、次第に成長し辛くなってしまう。
そこにきて、"今の魔王"が新しく就任したことでさらに世界の勢力図が変わった。
今の"平和主義者"な魔王になった事で、表立った侵略行為が無くなったのだ。
人は力不足で魔族の領地を侵すことなく、魔族は魔王の命令で人間の領地を侵すことなく、世界は膠着状態が続くようになった。
『ま、そんな状況でも過激派ってのは一定数居るもんでな。水面下で爪を研いでいる連中があちこち潜んでいるのさ。魔族にも、人にも、な…』
「ナルホド…」
人側の心当たりはありすぎている。
何故なら俺のやらされている魔石集めが戦力強化以外の何物でもないからだ。
以前、
半分は他国への売却・贈答に使われ、もう半分は自国の戦力強化だ。
その戦力が向けられる先は、もちろん人間同士の争いもあるだろう。だがメインはやはり魔族に対する物であることは、俺が受けた講習内容から見ても明らかだ。
『とまあ長くなってしまったが、これがオレが少年に与えたコアの仕組みについてだ。他に何か聞きたい事はあるか?』
「……えーと…そうだ。クレイエンテさんは、さっきここがダンジョンの67層って言ってましね?」
『ん?ああ、そうだな』
「どうやったら、地上に戻れますかね…?」
『あー…いくつか方法はある』
「あ、良かった」
転移が無いと駄目なんてことになったら泣ける。
『まずはシンプルに、歩いて帰る方法だ。一層ずつ階段や坂を登っていくワケだな』
「うへぇ…」
瞬間、部活の体力トレーニングを思い出す。段差や階段の昇り降りをやったなぁ…
でもこの層を見る限り、一層あたりの高さも一定じゃないよな。
それを67層って…人類が遭遇したことのないモンスターだってウジャウジャ居るんだろうし。
とても現実的とは思えない。
『まあこの手段は面倒だよな。時間もかかるし』
「そうですね…というか、殺されちゃいますよ」
『ん?誰に殺されるんだ?』
「誰って…モンスターにですよ。人間がこのダンジョンに足を踏み入れることができたのだって、せいぜい40層だと聞いてますよ。それが67層から地道に帰るって…」
俺は自嘲気味に笑う。
そりゃあクレイエンテさんのコアを貰って、それでベヒーモスは倒せたけれども。
ベヒーモスは結構ボロボロだったし、タイマンだった。
モンスターひしめく通常の階層とはワケが違う。
『…まあ、口で説明するより実際に見てもらった方が早いか……。少年、ステータスを見てみろ』
「え?」
『自分のステータスだよ。見られるだろ?』
「あ、えと…。鏡とか水とか、反射するモノがないと確認できなくて」
『なんじゃそのオシャレなやり方は…』
大層呆れたように話すクレイエンテさん。
顔がないからわからないが、きっと口がへの字に曲がっているに違いない。
『あー…なら、オレの剣ならどうだ?』
地面に刺さっている剣を指さす。
先程少し借りたが、確かにあの磨かれた表面なら申し分ないな。
字が小さそうだけど。
『あれなら表面に映るだろ』
「やってみます」
俺は少し離れたところにある剣を引き抜くと、左手で柄を持ち右手の人差し指で表面に触れた。
刃の部分は鋭く、少し触れただけでも人間の指など落ちてしまいそうなほど研ぎ澄まされていた。
今なら分かる、これは凄い名剣だ。
『見えたかー?』
「ああ、はい。えーと…」
剣の鑑定(?)をしている俺をクレイエンテさんが引き戻す。
危うく主旨を忘れて『いい仕事してますねぇー』と言うところだった。
そして改めて念じてみると、ボンヤリと文字が浮かび上がってくる。俺のステータスだ。
「ステータスは…………え?」
浮かび上がってきた数字を見た俺はフリーズしてしまう。
信じられない…こんなことが……こんなステータスがあっていいのだろうか…と。
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Lv.754
体力:10,401
筋力:5,099
耐久力:6,327
魔力:4,857
魔耐性:7,347
スキル
紫炎(極)
土(特大)
霊馬召還
霊馬騎乗
核眼(極)
黒霧
霊魂抽出
霊魂隷属
収納(0/100)
…
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