第8話 教えてデュラハン先生

 突如現れ自分の目的だけを済ませ嵐のように去っていった少女。

 彼女には見えていなかったようだが、俺のそばには先程からずっと『デュラハンの幽霊』が立っていた。

 元々ゴーストタイプっぽいデュラハンが更に幽霊になっているというのもおかしな話だと思うけれどな。


『あの子は少し無愛想だが、根は優しい良い子なんだ。どうか、許してやってほしい』

「ああ…別に」


 許すも何も、もう会うこともないだろうし、どうでも良い。

 特に気にもとめていなかった。


『そして、この度は色々と巻き込んで済まなかったな。ベヒーモス討伐の件、大変感謝している』


 そう言って深く頭を下げるデュラハン。いや頭はないけど、最敬礼の角度に腰が曲がっているのは分かる。


「あの、まだよく状況が分かっていなくて、出来れば最初から全て教えてほしいんですけど…」

『ふむ…。どこから話そうか…。まず、ここでオレとベヒーモスが戦っていた件についてだが…』

「はい」

『ヤツとは以前から浅からぬ因縁があってな…。ずっと睨み合っていたんだが、今回"ある出来事"を機に一触即発になった。それでこの"ユーヴェンズ地下67階"で決闘清算しようということになったんだ』

「え?67階?」

『ああ。見ての通り、激しい戦闘にも耐えられる広さと丈夫さを誇るからな。オレたちの戦闘にうってつけだと判断した』

「いや、そこじゃなくて…ここ、そんな深層なんですか?」

『そうだな』


 このダンジョンって全70階層あって、人間が踏み込めたのが地下40階とかだったよな。

 そんな危険領域に来てしまったのか、俺は…


『話を続けるな。それで決闘のためにここにやってきたのだが、そこに待っていたのはベヒーモスヤツの大量の配下モンスターだったんだ』

「タイマンじゃ…なかったんですか?」

『ああ。多勢に無勢でオレをリンチしようという作戦だったんだ。ヤツは人語を話せないだけで頭がいい。気配を感知されないよう慎重に集めて、100体のモンスターをオレにぶつけてきやがった』


 聞くと、人類が逆立ちしても敵わないようなメンツが揃っていたという。 

 でも俺が飛ばされてきた時には居なかった…ということは―――


『で、何とかソイツらは倒したんだけど』

「あっさり…」

『流石にオレも消耗しちまって、タイマンなら絶対負けないヤツにやられそうになっちまったんだ。ま、ヤツもボロボロにはしたけどよ』

「はは…」


 強がって見せるデュラハンを少しだけ可愛いと思ってしまう。

 本来なら畏怖の対象でしかないモンスターとダンジョンの深層でこうして話をする。

 事実は小説より奇なりと言うが、全くもってその通りだ。この半年間、そんな出来事ばかりだ。


『それで、オレが劣勢に立たされているときにやってきたのが少年だった、というワケだ』

「そうだったんですか…」

『恐らくこの階層に元々住んでいた転移魔法を使う鳥型モンスターが、ビビって逃げたんだろう。ソイツと入れ替わりで少年がここに来たんだ』

「確かに…何か鳥が居たかもしれないですね」


 茫然自失だったからあまりハッキリとは覚えていないが、そんなのと1層ですれ違ったかも。


『死にかけだったオレは、弱いのにオレの剣で果敢にもヤツに斬りかかっていった少年を見て、力を託そうと決めたワケだ』

「それで、俺にコア…でしたっけ?それを飲ませたんですね」

『ああ。1vs101を2vs101にしようってな。だから、少年の許可なく巻き込んでしまったことは申し訳ないと思っている』


 そういう事情があったんだな。

 デュラハン的にも余裕が無かった…と。


「でも、すごいですね」

『なにがだ?』

「いや、上級モンスターは自分の力を分け与えることが出来るんだなって」

『え?』

「え?」


 お互い聞き合ってしまう。

 俺が何か的はずれなことでも聞いてしまったのだろうか?


『…少年は、レベルアップとスキルについてどこまで知ってる?』

「あ、えーと…レベルは、モンスターの魔石を砕いて得られる経験値を一定数集めるとアップするもの…。で、スキルは基本は人間に先天的に身に付いているもので、稀に後天的に覚醒することもある…と聞いています」

『……………なるほど。もう殆ど伝わっていない情報なのか。でも確かに魔石が"導入されてから"しばらく経つしな。無理もないか』

「あの、クレイエンテさん?」


 何やらひとりで考え事を始めてしまうクレイエンテさん。

 色々と気になる単語も聞こえてきたが…


『ああ、済まない。今の若い世代はコアについて知らないんだなと…』

「あ、それってもしかしたら、俺が外の世界から来たから知らされていないだけかもしれないんですけど…」

『ん?どういうことだ』

「実は―――」


 俺は自分やシュンが今日こんにちに至るまでの経緯や現状を説明した。

 魔石集めの奴隷のような生活。親友の死。そして俺の得た知識のソースについてなど。

 するとクレイエンテさんは納得したらしく『なるほどね』と言った。


『少年の説明を聞く限り、やはり他の多くの人間もコアについては知らないようだな』

「はぁ…そのコアっていうのは一体何なんですか?」

『順番に説明する必要があるな…。さっき少年はレベルアップに必要なのは魔石から得られる経験値だと言ったな?』

「はい」

『そしてスキルは先天的なものと、稀に後天的に身に付くと言っていたな』

「そうです。俺が読んだ本や講習で聞いた限りでは、そう言っていました」

『うん。それは"間違いじゃない"な。でも、それだけじゃない』

「というと?」

『レベルアップとスキル習得には、もっと効率の良い方法がある。それをすれば、経験値なんて魔石から得られる量の100倍以上だ。分かるか?』

「…まさか」


 この流れなら、答えはもうアレしかない。


『そう。それがモンスターのコアを体内に直接取り込む事だ。そうすることで、そのモンスターのスキルまで自分のモノとすることが可能だ』

「…そう、だったんですね」

『そして何代か前の魔王が、人類から経験値とスキルを守るためにモンスターに施した魔法が"モンスターの魔石化"というワケだ』

「魔石化…」


 今明かされる、この世界の真理。

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