第2話 ステータスチェック!

「ふぃー…」


宿舎の近くの川で、俺は今日の労働による体の汚れを落とすため水浴びをしていた。

あちこちについた細かい傷が染みるが、川のせせらぎと森の木々のざわめきをBGMにする水浴びは一日の疲れを幾分か和らげてくれる。

川の比較的深い場所で水につかりながらふと、温かい風呂なんて久しく入っていない事を思い出した。


日本に居た頃は当たり前にあったモノが、ここでは当たり前に無い。

温かい風呂、美味しい食事、綺麗なトイレ、などなどなど…

そして、人としての尊厳…

これまで自分が如何に恵まれた環境におり、ここには何もないかを痛感した。


「さて…と」


悪い考えもそこそこに、俺は水につかりながら川原の石を集めて"囲い"を作り、そこに手で水を注いでいく。

そして少しすると、ちょっとした水溜りが出来上がる。

川と違い水の流れが無いので、水面は比較的綺麗に夜空と月を映し出していた。


これが、この世界でステータスを確認する手段だ。


ガラスや鏡など光の反射率が一定以上ある状態の物に体の一部を付け念じると、そこにステータスが映し出されるという仕組みだ。

夜の月明かりが強い状態でなら、こんな水溜りにもステータスを映し出すことが可能である。

若干見づらいのが難点だが、誰にも見られずに済むので好んで使っている。





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日南ひなみ 北斗ほくと


Lv.1


体力:208

筋力:89

耐久力:105

魔力:0

魔耐性:12


スキル




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「はぁ…」


水面に人差し指を付けながら、思わずため息。

相変わらず悲しいステータスとスキルだ。

そして同時に、ここに召還された直後に受けた座学の内容を思い出す。


人が訓練した程度で伸びるステータスはたかが知れている。

ステータスが大きく上がるのは『レベルが上がった時』だ。


じゃあそのレベルはどうやって上げるのかというと、俺たちが普段集めさせられている【魔石】である。


魔物を倒すことで入手できる魔石は、念じながら砕くと一定量の経験値が砕いた者に入りレベルが上がる。

しかも魔石は、自分で取らなくても良い。魔石でも、レベルは上がるのだ。


そう―――

つまり俺は、人のレベル上げのために、命を削っているのだ―――


取った魔石は全て王国に収め、その代わりに衣食住を約束される。

魔石は『魔族と戦争をしている』王国兵士のレベル上げに使われる他、然るべきところに売却すれば結構な値が付く。

魔導具の触媒や宝飾品としての需要もあるからだ。


仕入担当俺たちが無断で魔石を使用したり、くすねているのがバレれば、厳罰の対象だ。というか、普通に殺される。

召還と同時に付けられた"牢獄の呪印"は俺たち異世界組をいつでも殺すことが出来るし、場所も探知できるらしい。


逃げも隠れも出来ない…生殺与奪を握られている。

俺たちは…終わっている。



「あ~…腹減った……」


ステータス確認と状況確認を終えた俺は仰向けになり、川の浮力に身を任せ空を見上げた。

そして込み上げてくる空腹を紛らわせるため、たまにうつ伏せになり川の水を飲んだりしてみる。


先ほど同室のシュンに言った『夕飯は食堂で済ませた』というのは嘘である。

本当は、夕飯は俺の分をいつもそのまま渡しているのだ。

だって、そうしないとから…。


約1か月前の仕入で、シュンは両足を骨折してしまった。

全治3か月とのことで、それまで休みが貰えるんだなと最初は少し羨んだりもした…

しかし国が下した判断は、シュンの処分だった。


歯車はメンテナンスしてもらえるが、燃料は燃え尽きたらおしまい。

治療術を施してもらえるはずもなく、間もなく呪印開放で殺されるところだった。


そこで俺が、シュンの代わりにシフトに入ると名乗り出た。


今まで2日に1回だったシフトが毎日になり、食事はシュンの分は停止。

その条件でいいならということで、シュンは生かせて貰えている。


朝飯は俺とシュンで半々にし、昼飯も弁当を半分。

夕飯はそのままあげて、俺はそのへんの木の実とか食えそうな草や水で飢えを凌いでいた。

シュンには、量が少し減らされたとか言って誤魔化してある。


この1ヶ月は本当に辛かったが、それでも仲の良い友人が生きてくれているだけで俺は嬉しかった。


シュン以外の仲の良かった連中は、もう皆死んでいる。

生きているのは"スキル持ち"で早々に王都に行った五人と、あいさつ程度しかしない同級生のみだ。

だから、ケガなんかで殺させるわけにはいかない…!

栄養不足なので完治にはもっと時間がかかるかもしれないが、まだ行ける…。

頑張れ俺。


「そろそろ戻るかな…」


水浴びを終え宿舎に戻ると、シュンの口から今日シフトに入っていた俺以外の同室三人が亡くなったと伝えられ、六人部屋を三人で使い眠りについた。

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