【捨て石上等】~ドキっ☆クズだらけの異世界転移!俺のスキル欄、空白なんですけど!?~

金木犀

第1話 今日も労働、お疲れ様でした!

「ふぅ…」


 何とかダンジョンから地上へと戻ることが出来た俺は、"魔石"がパンパンにつまった麻の袋を地面にドカっと置き、自分も腰をおろす。

『今日もなんとか生き残ることが出来た』

 夕日で赤く染まった空を見るたびに、そんなことを想う。

 服はボロボロ、体にはあちこち擦り傷があるが、生きているだけマシ…手足があるだけマシな部類だと言える。


「よぉ、今日も無事に戻れたのか」

「…どうも」


 座って一息ついている俺に話しかけてくるのは、この地下ダンジョンを管理している【ミストリア王国】の兵士だ。

 兵士と言ってもダンジョンで魔物と戦うワケではなく、俺たち"仕入担当"を見張り悪さをしないよう管理している、所謂いわゆるお目付け役を担っていた。

 俺は彼らと、首にあるこの【牢獄の呪印】がある限り、この過酷な環境から逃げ出すことが出来ない。

 開放されるときは、死ぬときだろうな。


「おめぇ、魔石はネコババしてねぇだろうなぁ?」

「はは…。してたらダンジョンの浅いところでこんな満身創痍になりませんよ……」

「ハッ…ちげえねぇ。ホレ、顔汚れてるぞ。拭けよ」

「どもっす」


 いつもの軽口。

 向こうも本気で俺がネコババするとは思っていないが、職務上聞く必要があるから聞いているだけ。

 俺が半年間でこの兵士と築いた関係性の結果だ。


 駆け出しの仕入担当ではこうはいかない。

 ダンジョン帰還後は入念なボディチェックに厳しい叱咤が待っている。

 同じ時間を過ごしてもここまでの関係にはならないだろう。

 俺は元々人と話すのが好きだったし、"弟体質"とでもいうのだろうか?兄貴が家に連れてきた兄貴の友達ともすぐに仲良くなったりした。


 この兵士とも、キッカケは『ある日付けてきた装飾品を褒めた』ところからよく他愛もない話をするようになったんだっけか。

 恋人からのプレゼントだとかなんとか。


 とはいえ、彼と俺とには『管理する側とされる側』という明確な立場の違いが存在する。

 兵士の雇用主が俺を殺せと命じれば、助かることは無いだろう。

 他の仕入担当との違いがあるとすれば、呪印開放処分の際に数秒くらいは躊躇ちゅうちょしてくれるとか、そんな程度だ。


 俺は今、そんな立場に置かれている。



「しかしおめえも勿体ねえよなぁ」


 俺が借りたタオルで顔を拭いていると、兵士が唐突にそんなことを言う。

 何のことかと俺が聞き返すと、話を続けた。


「この過密ローテーションをこなせるくらい体力があって、体も丈夫。今日まで精神がイカれる事も無く、今も俺と談笑できるくらい余裕がある。魔物の勉強もしてるから生存率が高いし、なにより稼ぎもいいときたもんだ」

「…なんすか急に」

「いやなに、お前に一個でも【スキル】がありゃあ、"捨て石"じゃなく"原石"として磨いてもらえたのにな、って話だ」

「………」


 スキル


 この世界ではなによりも大事なモノ。

 スキルの練度・種類の多寡は個人の身体能力を軽く凌駕する。

 それほどに貴重な要素である事はこの世界の住人なら誰でも知っているし、俺みたいな【異世界組】も真っ先に教わる事だ。


 でも、そんな大事なモノを俺はひとつも持っていない。

 だから仕入担当なんていう、いつ死んでもおかしくない、誰が死んでも困らない仕事をしているのだ。


「そんなタラレバを話したところで、虚しくなるから止めましょうよ」

「だな。それに後天的にスキルが身に付く例もない事は無いしな。あ、タオルはそこ置いておけばいいぞ」

「あざっす」


 多少体力が回復した俺は立ち上がると、借りたタオルをカゴに入れ、袋いっぱいの魔石を納品する。

 今日もノルマはゆうに越せたので良かった。


「じゃあ、また」

「おう」


 俺は急いでダンジョンのある場所をあとにすると、自分たちの宿舎へと帰っていく。

 部屋ではお腹をすかして待っているヤツがいるからな。











 _______











「ただいまー」

「…おかえり」


 宿舎に戻った俺が帰宅の挨拶をすると、同室であり同じクラスの友人が出迎えてくれた。

 ソイツは3段ベッドの1番下の段から上半身だけを起こし俺の方を見ると、元気のない表情ではあるが笑顔で対応してくれる。両足を骨折しているので、座ったまま…。

 この8畳ほどの空間に3段ベッドが2台とちょっとした収納があるだけの、プライベートもクソも無い粗雑な六人部屋が、今の俺たちの全てだった。


「ホレ、夕飯持って来てやったぞ。シュン」

「いつもありがとうね…北斗」


 クラスメートの【吉野よしの しゅん】は、俺から夕飯のプレートを受け取ると、礼を言う。

 プレートと言えば聞こえは良いが、パサパサのパンが少しと干し肉2切れが乗っただけの寂しい食事だ。

 王宮に居るヤツらの贅沢三昧・奢侈しゃしを尽くす豪華なディナーに比べれば、必要最低限でしかない。


 いや、必要最低限、体力を維持する量もないかもな。一応三食は出ているが。

 歯車ではなく、王国を維持する"燃料"でしかない俺たち仕入担当捨て石を生かしておくための、必要経費だ。


北斗ほくとは、ご飯は?」

「ん?ああ、俺は食堂で食べたよ。原則持ち出し禁止らしいからね」

「……そっか」

「それより今日は、2組のハヤシダが亡くなったってさ」

「え?彼は結構強かったよね?どうして?」

「たまたま1層に迷い込んだ蠍蜘蛛さそりぐもの毒にやられたんだと。まあ"スライムおぼれ"じゃないだけマシな最期かもしれないけどな…」

「はは…」


 話の流れでサラッと、また一人同じ転移組のヤツが死んだ事を伝える。

 2クラス:80人居たメンバーは、今日で残すところあと15人になった。

 もう途中からは感覚がマヒして、いちいち悲しむこともなくなってしまった。

 死ねば代わりが色んな世界からどんどん補充されてくるし、またソイツらも死ぬ。


 そして、いずれ自分もそうなる事が分かっている。

 だからせめて最期は…なるべく苦しまずに死にたいなとか、そんなことくらいしか思わない。


「ちょっと水浴びしてくるわ」

「あ、うん」

「戻ったら食器は片しに行くから、置いておいてくれよ」


 俺は防御力のほとんどないボロの防具と、切断能力などとっくの昔に無くなった鉄の剣鈍器を自分のベッドに置いて、近くの川に体の汚れを落としに行くことにした。









___






溜まってしまった異世界ゲージを開放するために作りました。

ベタ中のベタ


ゲージが溜まったら更新します!

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