第18話:課題を与えられました!
「おいおい……いくらなんでもそれは無茶だ。今のところ、一つの素材に複数の精霊……つまり違う属性同士を融合させる実験は成功していない。四属性を使いたいなら、精霊鉄は四種類必要となる」
師匠がそうラギオさんの依頼を否定する。それは師匠の言うとおりで、実は一度、属性の異なる二体の精霊を使った精霊錬金を試したことがある。結果、両者が喧嘩して失敗に終わった。
「そうなのか……だが携行できる武器の数も限度がある。出来れば俺が普段使っているこの二本の剣だけで扱えたら理想なんだが」
ラギオさんが腰に差していた二本の剣を外し、カウンターの上に置いた。よく使い込まれたロングソードで、刀身が綺麗に研がれている。
「ほう……帝都でも五本指に入る剣士様なら、てっきり名工の手による業物でも装備しているのかと思いきや……まさかその辺りの店売りのロングソードとは」
師匠が感心したような声を上げた。言われてみれば確かに良く手入れはされているけど、そこらの武具店で売っている剣と同じだ。
「今のところこの剣で困るようなことがないから使っているだけだ。量産品の方が
「とはいえ……流石に剣二つで属性四つは無理ですって」
私はそう言うしかなかった。しかし師匠がラギオさんの言葉を聞いて、何やら考え込みはじめた。
ラギオさんは諦めの表情を浮かべる。
「……そうか。ならば、とりあえず二属性で構わない。そうだな……汎用性の高い火属性と、厄介な火属性の魔物を倒す為の水属性の二つがいいだろう。あとの属性は違う手でカバーするしかない」
「分かりました。それなら、問題かと思います。ちなみに素材にこだわりは?」
精霊と融合させる金属の選択も重要だ。例えば銀は見栄えがいいけど柔らかく、武器素材としての適性はイマイチだ。ただし他の金属より、〝祝福〟が付与されやすく、更に効果を増幅させる特性があるため、アンデッド専用の武器素材として使われる場合もある。
「素材は任せる。ただし、最低限武器として酷使できる強度は必要だ。二、三回振っただけで欠けるようでは話にならないからな」
「分かりました。それであれば……二、三日で出来ると思いますよ。ね? 師匠」
私がそう話を振るも、師匠は上の空だ。
「ん? ああ……いや、一週間は欲しいな」
「え? 何ですか? 炎と水の精霊鉄ならすぐにでも作れますけど」
しかし師匠はラギオさんへと、なぜか自信満々な笑みと共にこう言い放ったのだった。
「いや。ラギオ、あんたが最初に言った、剣二本で四属性というその無茶な依頼――
ええええ!? なんでそっちを!?
私と同じようにラギオさんも驚く。
「時間も金も構わないが……やれるのか?」
「……ま、エリス次第だな。きっと何か素晴らしい方法を思い付いてくれるさ」
師匠がポンと手を私の肩に置いた。
それ、師匠は何も考えるつもりがないってことですよね!?
「いや、無理ですって!」
「錬金術に不可能はそんなにない――って俺の師匠が昔言っていたよ。つまりそういうことだ」
師匠がドヤ顔でそんなことを言うけど、考えるのも作るのも私なんですけど!?
私が助けを求めるようにラギオさんへと視線を送るも――
「ふっ……今度こそ、君を信じてみよう。期待しているぞ、エリス。では、一週間後に」
ああ、なんかラギオさんがカッコ良くそんなこと言って、帰っちゃったよ!
扉が閉まり、カランカランと鈴が鳴った。
それからしばらくの沈黙。
「……腹減ったな」
なんて師匠が言い出すので、私は師匠に食ってかかった。
「ど、どどどどういうつもりですか師匠! 絶対に無理ですってば!」
「だから、決めつけるなって。何か方法を考えるといい。ま、俺からエリスに与える課題だと思え」
「ええ……無理ですって」
私が膨れながらそう言うと、頭を軽くはたかれた。
「錬金術師になろうとする奴がそんなつまらんことを言うな。最初から無理なんて決めつけていたら、新しいものは何も創造できないぞ。既存品しか作れない凡百な錬金術師になるつもりか?」
「……それはそうですけどお」
「お前は誰にも教わることなく、精霊錬金を生みだしたんだ。少しは自信を持て」
「……むー」
そうやって私が唸っていると、師匠が煙草を吸いながら椅子に座ってだらけはじめた。
「というわけでそのガチガチに固まった頭をほぐす意味でも、自分の昼飯でも作ってくるといい」
「今日、師匠がご飯当番なんですけど!」
「そうだっけ? 俺はちとヤボ用が出来たから、これを吸い終わったら行ってくる」
「お昼ご飯は?」
「いらん。エリスは少し頭を冷やして、考えてみるといい。案外すぐ近くに……ヒントはあるかもしれないぞ」
師匠はそう言って、作業場へとチラリと視線を向けた。
「……ふぁーい」
私は力無くそう返事するしかなかった。とはいえ、お腹が空いているのは事実だ。
結局、師匠はその後すぐにどこかへと出掛けた。
「はあ……流石に今回は無理だって……」
私はブツブツ言いながらも、お昼ご飯を作って――早速、この師匠に与えられた課題に取り組むことにしたのだった。
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