第9話:ガイドを雇いました!
色々あったけども、私と師匠はウルちゃんを連れて山道を降りていた。
「ウルちゃん、地上に帰るつもりで山道上がってたんじゃないの?」
そう私が聞くと、ウルちゃんはふるふると首を横に振った。
「違う……なんか山の方で変な雰囲気がしたから見に行っただけ……そしたらウイングブルが……」
「変な雰囲気?」
「ウルはガイドだからな。そういう変化には敏感なんだ」
師匠がそう言うので、私は何となく聞きそびれていたことを口にした。
「ところでガイドってなんです?」
ウルちゃんは、ガイド専門の冒険者だと名乗ったが、それが何を意味するのかさっぱり分からなかった。というか彼女はどう見ても十代前半だし、戦闘能力もないように見える。なのに冒険者をやれているということは、何かしらの能力があるとは思うのだけども。
そんな私の疑問に、彼女が答えた。
「ガイドは……この
「案内? それだけ?」
私が思わずそう聞き返してしまった。
「それだけと言うけどな、大変な仕事なんだぞ。才能もいるしな。この歳でやれているのは大したもんだよ。表層は広い上に、〝大変動〟ほどではないにせよ日々少しずつ変わっているんだ。だから錬金術師のような、たまにしか来ない連中にとっては、ガイドは必須なんだよ。今回だって
「そ、そうなんですか! ごめんねウルちゃん!」
私がウルちゃんに平謝りするも、ウルちゃんは顔を赤面させて手をパタパタさせた。
「だ、大丈夫! でも、エリスお姉ちゃんもジオも錬金術師なんだね……あんなに強いのに」
ウルちゃんが私と師匠を感心するように見つめた。うーん、何だか照れる。
「えへへ~、まあ師匠の銀騎士があれだけ動けるのは意外でしたけど」
「飛んでいないウイングブルなら、対処できるさ。角さえ斬ればあいつらは大人しくなって逃げるからな」
「へー」
「へーって……お前も分かっていて角を斬ったんじゃないのか?」
「たまたま斬りやすそうなのが角だったから」
「……さよか」
師匠がなぜか呆れたような表情を浮かべている。結果としてウルちゃんを助けられたから、いいでしょ!
「それにウイングブルの角は……錬金術の素材になる。高く売れるんだよ、エリスお姉ちゃん」
「そうなの? ああ、だから師匠が一生懸命拾ってたんですね」
「地上で一本買おうと思うとかなり高いからな。拾うに決まっているさ」
「でも、変。ウイングブルは西にしか生息していないのに……なんでここまで来たんだろ」
ウルちゃんが難しそうな顔をする。
「飛ぶんだし、たまたまじゃない?」
「ここは魔素が薄いから、魔物は自分からは近付かないよ。ウイングブルを惹きつける何かがここにあったか……それとも――」
「――何かにあそこまで
師匠がウルちゃんの言葉の続きを口にした。
「うん。でも、やっぱり分からない」
「〝大変動〟後だしな。何が起こるか、あるいは起こっているかは中々に予測しづらい」
「今回は……特に。ガイドのみんなも戸惑ってる」
「そうか。なあ、ウル。これも何かの縁だ、俺達のガイドになってくれないか? とりあえず魔石とメディナ草だけでいいんだが」
師匠がそう言うと、ウルちゃんが小さく頷いた。
「お礼……したいから」
「おー! 改めてよろしくね、ウルちゃん!」
「うん!」
私は思わずフワフワの金髪を撫でてしまう。何というか小動物みたいで可愛い。
なぜか肩に止まっているクイナがそっぽを向いているが、どうしたんだろうか。
「さて。となると、冒険者街での準備もさほど必要はなくなったな。ガイドがいるなら地図もいらんし」
「地図は全然更新が進んでないから、今買っても無駄だよ。高いだけ」
「だろうな。だからウル、頼んだぞ」
「うん。任せて」
ウルが笑顔でそう力強く頷いた。
「よし、そろそろ冒険者街だ」
師匠が言うように、山道を降りた先にはあの中腹から見えていた集落があった。そこは何というか、荒々しい開拓地に出来た街のような雰囲気があり、活気と熱気に溢れていた。
そこかしこで露店が開いており、美味しいそうな匂いを漂わせる料理や、素材やアイテムを売っていた。
「うわー凄いですねえ!」
「ここは、歴代の冒険者達がコツコツと築き上げてきた街なんだよ。これから
「何だか楽しそうですね! 師匠、見て下さい! あの串焼き美味しそうですよ!」
屋台で串焼き肉を売っているのを見て、私は思わず声を上げてしまう。
「んなもんはあとだ。どうせ夜までには帰るからな」
「ええ~」
私が不服そうな顔をしていると、師匠がズンズン進んでいき、街の中央にある広場の一角にある建物の中へと入っていく。
そこには【冒険者の館】という看板が掲げてあった。
その中は一見すると酒場で師匠がウルちゃんを指さしながら、何やらカウンターの中にいる受付の女性と話している。
「あの子をガイドとして雇いたいんだが」
「あら、ジオじゃない。久しぶりなのに、相変わらず素っ気ないわね」
年齢不詳のその女性の親しげな様子を見るに、どうやら顔見知りのようだ。更に彼女は目敏く私を見付けて、目を丸くする。
「あら? あらあらあら? 可愛い精霊を連れているその子は……?」
「……俺の弟子だ」
師匠が面倒臭そうにそう紹介するので、私はその女性に笑顔を向け元気よく答えた。
「ジオさんの弟子のエリスです! 錬金術師見習いです!」
「あらあ! 私はこの館で受付嬢をやっているミリアよ。よろしくね、エリスちゃん」
そう言って、ミリアさんが私の手を握るとブンブンと縦に振った。なんというか豪快な女性だが、その両手には無数の傷跡がびっしりと残っており、見れば腰には使い込まれた剣が差してあった。
そりゃそうだ。ここは
「あのジオがこんな可愛い女の子を弟子に、ねえ……ふーん」
ニヤニヤするミリアさんを見て師匠が不服そうな表情を浮かべ、こう言い放った。
「何が受付嬢だよ。そんな歳でもねえだろ」
「……ぶっ殺すわよ」
師匠の余計な一言のせいで、私とウルちゃんが一瞬飛び上がってしまうほどの殺気がミリアさんから放たれた。
「冗談だよ。とりあえずウルとガイド契約するから、契約書をくれ。あとポーションを六本」
「はいはい。でも珍しいねえ。あのウルがガイドを受けるなんて」
師匠が何やら紙に記入している間、ミリアさんが私の背中の後ろに隠れているウルちゃんへと視線を向けた。
「その子、ガイドとしてはとっても優秀なんだけど、好き嫌いが激しいのよねえ。こないだもSランクギルドのガイド依頼断ったし」
ミリアさんの言葉を聞き、ウルちゃんが小さな声で謝罪する。
「ご、ごめんなさい……」
「ふふふ、いいのよ。ガイドには相手を選ぶ権利があるから。なんせガイドは基本的にその身の安全を依頼主の冒険者に託すことになるからね。その仲介をするのが、私の仕事なのよ」
ミリアさんがそう言って微笑む。どうやらここはそういう場所らしい。中を見れば、確かに冒険者達とガイドと思わしき人が何やら交渉を行っている。
「ウル、条件は後払いの出来高制でいいか? 不服なら変えるが」
「それで大丈夫だよ」
「なら、サインと魔力を」
師匠が契約書をウルちゃんに渡すと、彼女は慣れた手付きでスルスルとサインを書き、契約書に隅に推されていた魔法印へと魔力を込めた。師匠の分は既にされてあるので、彼女はそれをミリアさんへと渡す。
「はい、契約完了ね。ジオは良く知っていると思うけど、今回の探索は最長三日で、それ以上経過して帰還が確認できない場合は自動的に契約期間が延長、同時に捜索隊も出動させるから――気を付けてね」
「分かってるよ。メディナ草と魔石だけだから一日もかからないさ」
「だといいけど」
どうもガイドの契約期間を過ぎると延長料金が発生し、更に捜索隊が出動するのでその分の費用も掛かるのだとか。
「はい、これポーション」
「やはり買うと高いな」
「文句あるなら自分で作りなさい」
「それが出来ないからここにいるんだろうが」
ミリアさんからポーションを受け取ったジオさんが、二本ずつそれを私とウルちゃんへと渡した。当然タダではないのだが、ポーションなしで探索するのは自殺行為だ。
「よし、契約も交わしたし――」
「――早速行きまし……ってあれ?」
てっきり出発するのかと思ったら、近くのテーブルでウルちゃんが鞄から取り出した地図を広げだした。師匠もそれを見つめ、とある場所を指差した。
私も覗き込むと、その地図は白紙部分が多い未完成の地図だった。師匠が指しているのはこの集落から北にある白紙の部分だ。
「ここはどうなってる? 前は良質なメディナ草が採れたが」
「今は沼になっているって今朝情報があったよ。多分、西側の方が見付かる可能性は高いと思う。数日前から昆虫系の魔物が大量発生しているから、
「そうか。それに加え昆虫系が多いってことは可能性は十分にあるな。だが遭遇したら厄介だぞ。魔石の質はいいが、魔獣系よりも危険だ」
「大丈夫。僕なら見付からないルートを構築できるし、万が一接敵してもジオやエリスお姉ちゃんの感じなら問題ない」
「ほう、俺達の戦闘をちゃんと見てたのか」
「うん。あとは現地で説明する方が早いかな。気になることもあるし」
「素晴らしい」
私を置いてけぼりでどんどん話が進んでいく。ウルちゃんも堂々と喋っていて、なんだか凄い。どうやら優秀なガイドというミリアさんの言葉に偽りはないようだ。
「よし。エリス、ウル、行くぞ」
「はい!」
私は元気よく返事して、師匠とウルちゃんと共に、出発したのだった。
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