第11話 かわいい すてきな おじょうさま1

 ぽつぽつ、廊下を歩く可愛らしい足音が聞こえます。真っ直ぐ廊下を歩いていくあれは何でしょう? そう、お嬢様です。真っ白で手入れされた髪にぐるぐるとした形を与えていて、小さいお嬢様の姿には小さいながらも素敵なドレスが着せられていますね。なんと可愛らしいのでしょう。


 お嬢様はとっても嬉しそうに歩いています。何と言っても今日は日曜日。待ちに待った日曜日なのです。


「ようやくお父様と遊べる日曜日ですわ。」

 お嬢様は喜んでいます。きっと、とてもとっても嬉しいのでしょう。なんと言っても最後にお父様と遊んだのは2ヶ月も前のことなのですから。

 

 パタンと扉を開けるとそこにはお父様の姿があります。けれどとっても忙しそう。紙がいっぱい机に並んでいます。

「……お父様…今日は日曜日ですの…。」

「ああ。そうだったな、すまないなメア。遊ぶのはまた今度だ」 

 さっきまで楽しそうだったお嬢様は少し悲しい気持ちになりました。

 お嬢様の名前はメア・カシミア。この家の娘です。カシミア家はとってもお金持ち。大きなお家にメイドもたくさん。メア様のお父様は服を作る工場のいちばんえらい人。服を作るのはとっても大変なことなのです。お父様に無茶を言ってはいけません。前に無茶を言ってしまって遊ぶ回数を減らされてしまったのですから。


「そうですか…おしごと頑張って下さいまし…。」

 小さいお嬢様はお父様と遊べないことを考えるともっと悲しい気持ちになってしまいました。

 メア様はそっとお父様の部屋から出ると、ゆっくりとお部屋に戻っていきました。遊んでもらえなくて悲しいメア様。しかし、メア様は涙を流しません。


「いつものことですわ!」

 そう、メア様にとってはいつものことなのです。毎週日曜日に遊ぶ約束はいつも無くなってしまうのです。昔はよく遊んでくれたのに、だんだんとお父様は遊んでくれなくなりました。2日に一回から3日に一回、1週間に一回。どんどん遊んでもらえなくなって今回は2ヶ月が経ってしまいました。

 

 メア様の一番の楽しみはお父様と遊ぶことです。ですが、それとは別に一つ楽しみがありました。


「ネリーナ、さっさと準備をしてくださいまし。街へ行きますわ!」

 メア様はよくお掃除メイドのネリーナを連れて家の外にある街へ遊びに行っていたのです。メア様のお世話係のメイドは他にいますが、怠け者で使えないババアなのでメア様は好きではなく、お母様はあんまり構ってくれないからです。かわいそうなメア様。


「メア様待ってくださーい!」

 おっと。メア様、メイドを置いて行っては行けませんよ。街では何が起こるかわからないのですから。

「はぁ…おっせえですわ。つっかえないメイドですわね。」

「えへへ。すみません。なんだかマリアンヌ様に怒られている気分です…」

「早く行きますわよ」


 メア様はなんとかメイドと一緒に街へ向かいました。2人が屋敷の外へ出るとき、メア様はとっても豪華な服を着ます。「周りに舐められてはいけませんわ」という母の教えを健気に守っているのです。

「メア様、今日はどこに行きますか?」

「やっぱり最初はチョコレートを食べに行きたいですわ!」

 メア様はチョコレートが大好きです。しかし、お屋敷では最近お母様とお父様がいっぱいチョコを持っててメア様はあんまり食べれません。ひどいことです。

「わかりました! チョコレート美味しいですもんね~」


 2人で馬車に乗ってしばらく経つとチョコレート屋さんに着きました。このチョコレート屋さんはだいぶ前にお父様とのお出かけで来た、とっても美味しいチョコレート屋さんです。メア様は楽しかった思い出が忘れられず、最近のお出かけでは必ず来る場所の一つになっていたのでした。


「これはこれは、カシミア様よく来てくださいました」

 お父様と来たときと同じおじさんが出てきました。とっても嬉しそうです。

「こんなちっちぇーお店に私が来てやったんです。感謝しろですわ。」

「全く、本当にカシミア様には頭が上がりません。どうぞどうぞ、奥へお進みください」

 メア様はとっても楽しいです。人気店であるため人がたくさんいます。しかしメア様は彼らを追い越して中に入ってチョコレートを食べるのですから。

「最高級のチョコレートが食べたいんですの。用意をお願いしますわ。」


 お屋敷よりは広くはありませんが客をもてなすのには十分な広さの部屋に案内されたメア様とネリーナ。メア様はチョコを食べるのがとっても楽しみ。

「他の店のまっずいチョコはザラザラしてますけど、ここのチョコはなんだかとっても美味しいんですの。」

「やっぱりここのチョコは美味しいですもんねー。やっぱり作り方が違うんでしょうかねー? 私ここのチョコなら毎日食べても飽きない自信があります」

「使えないメイドのクセに味はわかるんですわね。」

「えへへ。それほどでも」

 

「カシミア様。お待たせしました。こちらが当店最高のチョコレートでございます」

 箱に入ったチョコレートがやってきました。リボンが付けられていてとっても素敵です。でもメア様は箱には興味が無いみたい。

「おっせえですわね。美味しいチョコレートは作れても、店にいるのは客を上手にもてなすこともできないグズたちですわね。」

「申し訳ございません。お詫びとして、こちらのチョコレートも用意させて頂きました。お食べ下さい。新作のチョコレートで、来週より発売予定になっております。」 

 やったねメア様。新作のチョコレートが食べられるみたい。よく来ているだけあってまだ売られていない新しいチョコレートを食べることができるようです。メア様はとっても嬉しいです。

「準備だけはいいんですのね。勘弁してやりますわ」 

「滅相もございません。カシミア様にはいつもお世話になっておりますので」 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る