第26話 赤城莉桜
「よぉ、古詠。少しいいか?」
制御室を出て階段を上がっていると、待ち構えていた暁先生に捕まり、食堂へと案内され座る様に言われた。
暁先生はお茶を持って来て、それは差し出してきた。
俺はそれを受け取り、一口飲んでから切り出した。
「それで?何の用ですか?」
「たいした事じゃないさ。莉桜と上手い事話があっている様で何よりだ」
「そう見えますか?来る度にお土産を要求されているんですけど」
要求されてついつい買って来てしまうけど、出来ればやめて貰いたい。
無視すればいい、と思うかもしれないが何と言うか、断りづらい。
自分以上に陰で頑張っている人だし、女子相手だと分かってからはなおの事、こちらから拒否はしづらい。
あれ、よく考えてみたら答え出てるじゃん。
「それは、お前らの勝手だろ?」
「全く持ってその通りです。はい」
「ま、その様子だとほんと要らん心配だったか」
「心配?」
暁先生は何やら心配をしていたらしい。
何の心配についてなのか、聞き返してみると少し苦笑いをしつつ、語り出した。
「莉桜の奴、立場的にも少し特殊だろ?」
「少しと言うより大分ですね。学生に学校のシステムを任せるとか、その時点で学校も特殊過ぎます」
「それはあれだ、アイドルや役者と同じだよ」
「アイドルや役者ですか?それって、学生でも社会に出て、働いている奴はいるって事ですか?」
「そう言う事だ。そいつらと同じで、莉桜の場合はシステム関係が得意だった、ってだけの話。そんな訳でその特殊な環境に居るアイツは、今まで友達って言える奴らが居なかったんだよ」
「何かとんでもない暴露が行われ始めたと思うんですけど!良いんですか、聞いちゃって良い類何ですかそれ⁉」
「大丈夫だ。………多分な」
「今、小さい声で、『多分』って言いましたよね!友人関係の話って繊細の事があるんですよ、特に女子関係は!」
「ま、大丈夫さ。必要以上は喋るつもりは無いからな」
「ならいいですけど……」
「それに、話されたくない事を言いかけたら、口止めしに来るさ」
「やっぱり大丈夫じゃ無さそう!」
「とにかくだ、友達がいなくてそのうちネットゲームにのめり込んでいったんだ。しかし仮想の世界でも、友人は中々出来なかったらしい。お前さんも知っているだろ?リオって言う、色んなゲームの上位ランカー」
「えぇ、アレですよね。急に現れては、瞬く間にそのゲームの上位枠に名を残すプレイヤー。自分は協力対戦のやつで会って、何か気に入られてメアドを交換しましたね」
「その交換相手が、初めての友達だった訳だ。アイツ、ゲームでも異様な強さを発揮していたからな。他の交換した奴らは、その強さを利用したい奴や挑戦状を叩き付ける様な奴らで、うんざりしていたらしい。そんな時出会ったのが、これまた変わったプレイヤーで、リオの存在を全く知らないときた」
「そのうえ、知った後も特に気に気にも留めない」
「その反応が、アイツには新鮮だったんだろうな」
「でしょうね。やたらとチャットが来たり、プレイ時に絡んで来たりと」
「まぁ、ようやく出来た友人が俺のいる学校に入学するって知って、自分もこっちに引っ越して来たんだよ。と言っても、引っ越してきてからはこの暁荘で、仕事詰めの生活を送っているけどな。そんな生活でも、ちゃんと友達が出来た訳だから、安心したって話だ」
「色々遠回りでしたけど要は、今までボッチの生活をしていたから、友達が出来るか心配だった訳ですね」
「そう言う事だ。そう言えば、お土産が如何とか言っていたな?」
「えぇ、言いましたけど?」
「あれな、飲食物以外を持っていけば解決するぞ。要は、友達から形が残る何かを貰いたがっている訳だから」
「なるほど…。そう言えば、引っ越して来たとか言っていましたけど、赤城の親は如何しているんですか?」
「親か、確かどこに行っているか分からないんだよな~。まぁ、莉桜自身は気にして無いみたいだな」
「……普通は気にしませんか?」
「そうだけど、仕送りはされているらしいし、自分でも仕事を請けて稼いでいるからな」
「あー、なんか納得です。因みに、どれ位稼いでいるんでしょう?」
「ふっふっふっ、聞いて驚け。何と仕送りを含めて、年間20……」
「こらー‼何をバラそうとしているんですか‼」
暁先生が年間額を言おうとした瞬間、食堂の扉が開かれた。
そこには赤城が立って居り、先生の顔面に向かって枕を投げようとしていた。
「ぐぉ」
違った。顔面に枕をクリーンヒットさせていた。
ヒットした相手はそのまま倒れ込んで、起き上がる気配がない。
まぁ、当たった時の音が、なんか違ったもんな~。
それは置いておいて、やっぱり今までの会話は聞いていた訳だな。
ていうか、何でこのタイミングで出て来たんだ?
「いいかい、古詠?君には判らないかも知れないけど、こう言う話が外に漏れると変な虫が寄って来るから、絶対に聞かなかった事にしてよ!」
「ん、別に構わないよ。聞いては見たけど、別に興味は無かったし」
「興味なかったんだ⁉」
俺が聞いたのにも拘らず、興味が無かった事に驚いた赤城。
少し考えるようなしぐさを見せると、恐る恐ると言った感じに話し出した。
「それじゃあちょっと聞いてみるけど、自分より収…やっぱ何でもない」
「?まぁ、そっちが納得するなら良いけど?取り敢えず帰るわ。先生が目を覚ましたら、帰ったって言っておいて」
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