彼方は彗星の如く
佐々木 煤
三題噺 「闇」「彗星」「きわどい大学」
受験前日に39度の熱を出し、ついでに失恋をした僕はきわどいラインで大学に合格した。背伸びして入った学部は空気が合わず、ぼっち生活を余儀なくされた。
ぼっちでもそれなりに楽しく過ごすために、民族同好会に入った。各々が好きに活動しており、入部人数は部長でも不明、そもそも部長も不明な部だ。けれど、僕はせめてもサークルに入り何かしらの活動を行うという生活の目標を手に入れたかった。 部室にはいつも2年の彼方さんがいる。いつも彗星柄のパーカーを着ている小柄な女性だ。彼女は副部長で、部室に人がいるので廃部になっていないことを先生と他の部にアピールするため半ば義務的に部室にいる。けれども、今日は彼女はおらず代わりにいつも着ている彗星柄のパーカーが椅子にかけられていた。トイレにでも行ってるんだろう。気にせずに課題のレポートに取り掛かり始めた。
部室棟の光がポツポツと消え始める頃、それでも彼女は帰ってこなかった。そろそろ帰りたいのだが。もしかしたら、パーカーを忘れて帰ったのかもしれない。置いてくのもしのびないので、パーカーを片手に持ち荷物をまとめて部室を出た。大学が節電を呼び掛けてるので、部室棟の廊下はとても暗い。何かにつまづかないよう、そっと歩いていると闇の中から手が伸びてきた。
「ひぃっ」
声を出して仰け反る。手は下から伸びており肩から胴体にかけては闇に包まれて見れなかった。手は虚空を掴むようにして近づいてくる。なりふり構わず、全速力で部室棟から逃げ出した。
翌日、部室には彼方さんはいなかった。代わりに、大柄で日に焼けた男性がいた。
「やあ、君は新入部員かな?僕は部長の貝原、3年だよ。ちょっとしたフィールドワークに行っててね。不在の間は何かなかったかい?」
にこやかに話す彼に、彼方さんがパーカーを残していなくなった話をした。手が出てきた話は何だか信じてもらえなそうで出来なかった。
「彼方なんて名前の部員はいないよ。けど、僕の1個上には確か彼方って人がいたな。」
「そんなはずは…僕は入部届けも彼方さんに出しましたし毎日部室にいましたよ。」
「それは…」
貝原は顔を曇らせた。
「それはおかしい。彼方さんは大学を卒業する前に行方不明になってるんだ。原因は詳しくは知らないけど、親も友人も探したけど見つからなくて失踪届を出してるんだ。」
では、僕が見てた彼方さんは何者だ?けど、確かに昨日彼女を見てパーカーを持って帰った。確認するためにリュックを開くと、彗星柄のパーカーは血に汚れたシャツに変わっていた。
彼方は彗星の如く 佐々木 煤 @sususasa15
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