第23話 白瀧10
辰巳さん達が出て行ってから、どれくらい経っただろうか。
先輩も少しずつ落ち着きを取り戻し、僕達は取り止めもない話をした。
何年ぶりだろうか。先輩の死を追い始めた時には、もう二度とこんな瞬間は来ないかもしれないと思っていた。
こんなにも安らぎを感じたのは久々だと思う。しかし、いつまでもこのままではいられないのは分かっていた。この先の先輩のことを考えないと。
「お待たせ致しました」
桜沢さんが部屋に戻って来た。
辰巳さんも少し遅れて部屋に入る。
戻ってきた時の桜沢さんは、なぜだか分からないけど上機嫌に見えた。
桜沢さんが話すのを辰巳さんが静止する。
「まずは私から話をさせて」
辰巳さんは先輩の方へと視線を向ける。出会った当初の凛とした表情。
彼女の中で何かが変わったような気がした。
「ごめんなさい」
辰巳さんが深々と頭を下げる。
「これは俺が始めたことだ。辰巳はただの被害者、謝る必要なんてない。それに、お前を利用して傷つけたんだ。こうなったのは当然さ」
先輩が笑う。辰巳さんに襲われた時、先輩は無抵抗だった。もしかすると、彼女に対する罪悪感をずっと抱えていたのかもしれない。
「それでも……ごめん」
辰巳さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「もう話してもよろしいでしょうか? アキラさんと真由美さん、二人を助ける方法を考えました」
桜沢さんが話し始める。その声色は低く、これから話すことが僕達の今後を大きく左右する気がした。
「ただし、これはアキラさんの罪を全員が背負うことになります。この話の詳細を聞いた時点で、貴方達に拒否権は無くなり、全て私に従って貰います。アキラさんと真由美さんが今後再会できる余地はありません。当然、私達もアキラさんに会うことは二度とありません。しかし、二人を救うことはできます。それでもこの案を聞きますか?」
先輩と二度と会えない……その言葉が僕に重くのしかかる。今までずっと求め続けて来たもの。それを手放すことになる。
先輩とお互いの顔を見る。
先輩の意思は既に決まっているようだった。先輩は真由美さんを救う為に動いてきた。しかし、そこにもう一度会いたいという思いは無かったのだろうか?
「先輩はそれでいいんですか?」
「白瀧……それでいいんだ。母さんが生きてさえいてくれれば。俺はもう……それ以上何もいらない」
先輩の内面を思うと涙が出そうになった。しかし、それを堪える。
覚悟を決めろ。
僕の目的はなんだった? 最初は先輩に再び会うことだった。でも、先輩が犯人だという話が出て、今度は先輩の無実を証明し、先輩を救いたいという願いを持った。
そして今、先輩の願いを知った僕がやるべきことは一つじゃないか。
「僕からもお願いします」
桜沢さんの瞳を見つめ、ゆっくりと答えた。
彼女は瞳を閉じる。
「みなさんの意思は確かに確認しました」
僕も含めた三人は桜沢さんの次の言葉を待った。
やがて彼女は再び瞳を開く。漆黒の瞳。覗き込んでも何も見えない漆黒。でも、吸い込まれそうな、そんな瞳。
そして、彼女は言葉を発した。
「都市伝説という言葉を聞いたことはありますか?」
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