第13話
翌日からというもの、田中は自身を鍛え始めた。
筋トレに精を出し、ウーノに剣術を教わった。言葉は通じないが、ひたすら見て、再現した。
――どうせ命を断つなら、せめて苦しまずに済むようにきちんとした剣で断つ。
田中なりの割り切り方だった。
その間も中田は言語の勉強に勤しんだ。何をするにも、まずは話ができなければ。
戦いを田中一人に任せている以上、生活や情報収集は俺の責任だと言わんばかりに、熱心に取り組んだ。
一匹のゴブリンを殺したことが、二人を変えた。
そして数十日が経過した。
「これで宿屋の前払い分が尽きた。手元には子どもの小遣いほどしか残っていない。この先を生きるなら今日ダンジョンに潜るしかないぞ」
「……あぁ」
田中は剣を取る。
「いけるのか?」
「その為の充電期間だ」
「……よし。行くぞ」
「おう!」
二人は再びダンジョンへと向かった。
地下一階へと降りると、前回同様ゴブリンが一匹現れた。
「ギャギャ」
「本当に大丈夫なのか?」
「あぁ」
田中は剣を構えた。ゴブリンが迫る。
「だぁ!」
「グギャ!?」
剣の軌道は前回とは雲泥の差だった。剣を振るう姿も、少し態勢はおかしいが目立ったふらつきはなく、ゴブリンを一刀両断した。
小さな魔石が、ポトリと落ちる。
「……次に行くぞ」
田中は魔石を拾い、中田の返事を待たずに奥へと進んでいった。
「お、おう。ちょっと待てよ」
「おりゃ!」
「グギュウ!」
ダンジョン地下三階。
これで十体のゴブリンを倒したことになる田中。
返り血で顔や服はべっとり、髪も乾いた血で赤黒く染まっている。全身はゴブリンからの攻撃で痣だらけとなり、腕には切り傷もある。ボロボロだった。
「そろそろ帰るか?」
そんな田中の姿を見かねて、中田はおそるおそる提案する。
「……あぁ、疲れた」
地下五階まで潜れば地上に戻る為の装置があり、一気に帰れる仕組みなのだが、素人が流石に地下五階まで潜るのは利口ではない。二人は元来た道を戻り、ダンジョンを後にした。
冒険者ギルドで魔石の換金を済ませた中田。
田中には残り少なかった有り金を渡して、ギルド内で受けられるサービスである《洗浄所》へと向かわせていた。
ギルド職員、またはギルド所属の魔術師が水魔術で身体や衣服を清めてくれるサービスだ。当然有料。特段高いわけでは無いが、二人の残り少ない有り金ではギリギリだった。毎日受けるとなると中々に厳しいものがある。
(あいつに負担かけ過ぎたかな……)
換金したお金を手にしながら、中田は少し考える。
田中一人に命のやり取りを押し付け過ぎじゃないかと。背負わせ過ぎなんじゃないかと。
「田中!」
洗浄所の扉を開ける中田。そこには――
「アハハハハハハ!」
言葉がわからないにもかかわらず、他の冒険者たちと意気投合している田中の姿があった。
「おお! 中田じゃねぇか! 金はどうなったんだよ」
「……ふざっけんな!!」
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