第11話

翌朝


 窓から差し込んだ日の光で田中は目を覚ました。眠気眼をこすり、頭をかきながら大きなあくびをする。


 「ふぁ~……あぁ、やっぱり夢じゃねぇのか」


 自室ではないことを確認すると、先日の出来事が嘘でも夢でもなかった事実を突き付けられたように感じ、舌打ちが漏れる。


 部屋といえば中田の姿が見当たらない。どういう事だと不安になるも、一人では会話もできない現状、部屋の外に出ることは避けたかった。


 「どこに行きやがったんだあいつ……」


 中田が部屋に戻ってきたのは、それから一時間ほど経過してからだった。


 「お前どこ行ってたんだよ!?」

 「情報収集だ。言葉を覚えるためのな」

 「そんなもんどうやってやんだよ?」

 「街にある店を見回って看板に書かれた文字をメモして字を覚えるんだ。ついでになんて発音するのかもな。

 朝食後、ウーノたちに確認を取る。まずはそこから始める」

 「おぉ、そういえば飯がまだだった。早く食いに行こうぜ!」

 「……のんきだな」


 朝食も昨晩と同じメニューだった。おそらくずっとこれが続くのだろう。


 同じメニューに文句を言いつつも、田中は干し肉を頬張る。


 「にしたって味気ねぇなここの食いもんは。量も少ねぇし」

 「俺のも食っていいぞ」

 「マジか! お前昨日もろくに食ってねぇのにいいのか!?」 


 と言いつつも、返答も待たずに干し肉を口にする田中。


 「そんな何の肉が使われているのかもわからない食事、食べるわけないでしょ」

 「は……?」


 田中の手がピタッと止まる。


 「仕入れた情報によると、この世界には魔物とやらがいるみたいだし、そいつらを調理して食べる文化もある。

 そうでなくても家畜だって日本とは違う動物だろうし、衛生管理なんて最悪。

 そんなもの食って身体を壊したり、アレルギーなんか発症すれば最悪だ。そもそも魔物だなんだの肉なんて生理的に無理。

 野菜スープも同じ。何の植物と出汁使ってんだか。

 何も食わないわけにはいかないから、水とパンだけは仕方なく口にするが、これもどこまで安全か……。

 これで死ぬようなら、生き残るのは土台無理だったと流石にあきらめるしか……」


 中田の話を聞き、田中は急いでトイレに駆け込み、吐いた。


 「……あのトイレも最悪だったな。ウォシュレット付きの便器が恋しい……。

 あぁ~、魔物や悪党よりも先に、この環境に馴染めず死にそう」

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