第10話

イーゼの街


 街に着いた二人はさっそく質問攻めにあった。


 ウーノが利用している冒険者ギルドという機関や警備兵の詰め所をたらい回しにされ、わけもわからない言語で延々と話しかけられる。


 そんな状況に田中は辟易していた。だから対応は全て中田に丸投げだ。


 中田は真摯に対応していたが、なにせ中田にも言葉はわからない。ウーノが通訳となってくれてはいるが、それでも時間はかかる。なにせ通訳も完璧ではなく、試行錯誤でお互いに当たりをつけているのが現状。実際に全く異なる証言になってしまった回答もある。本人たちは知る由もないが。


 事情が事情なため質疑は少なめではあったが、かなりの時間がかかり、解放されたのはすっかりに夜になってからだった。


 田中もだが、特に中田とウーノはやつれるほど疲弊していた。


 『ここが 君たちの 泊まる 宿 話は つけてある』

 「ありがとう ウーノ」


 手配してもらった宿まで送ってもらい、ウーノとは別れることになった。疲れ切ったウーノの背中に、二人は感謝の念を送る。


 「ここにしばらく泊まるのか?」

 「そうだ。二人一部屋、朝食と夕食付きでとりあえず二十泊分先払いしてあるらしい」

 「ウーノが立て替えてくれたのか?」

 「違う。俺たちの金だ。手配書の男を討伐した報奨金から出してる」


 結局昼間の男たちを殺したのが誰かは分からず終い。ウーノたちの気遣いから、念のためといった形で、盗賊の討伐褒賞金の何割かを二人の分として出すことになったらしく。宿代にはそれが当てられている。


 「本当は俺らの手柄じゃないんだけどな」


 田中はどさくさに紛れて盗賊たちから拝借した剣を壁に立てかけ、ベッドに座る。


 「どけ。俺がベッドを使う」 

 「はぁ? 何でだよ!」

 「今日お前何してたよ。俺が翻訳頑張んないと何もできないでしょーが。頑張ってる奴が何もしてない奴よりいい待遇を貰えるのは当然だ」


 文句を言いたかったが、中田の言い分も正しいので押し黙る。自分一人では誰かと会話すらできない。今のところ中田に頼り切るしか方法が無いのだ。


 仕方がないので田中は床で寝ることにした。


 グウゥと腹が鳴る。そういえばこちらに来てから何も食べてない。二人はフロントへと向かった。


 フロントに中田はカードを二枚見せる。受付の女性は『かしこまりました。すぐにお持ちします』と、にこやかに言った。当然二人には受付の女性が何と言ったかは分からない。だいたい見当はついているが。


 「何だよさっきのカード」

 「ウーノが渡してくれた。これを見せれば飯を用意してくれるんだとさ。変な文字が書いてあることだし、大方『飯を準備してくれ』的なことが記されているんだろう」

 「おぉ! マジか。ありがてぇ」

 「出会ったのがウーノたちで良かった。あそこまで親切な奴は日本にもそうそういない」


 部屋に戻って数分後、食事が運ばれてきた。


 硬いパンと野菜のスープ。干した肉もあった。値段の割には豪華な方なのだが、二人は知る由もない。質素な食事にテンションが下がる。


 「贅沢を言える状況じゃないのはわかっているが……」

 「炊き出しの飯でももっと豪華だぞ」


 文句を言いながらも、空腹には勝てず、田中は料理に手を付ける


 「味付けはかなり薄いけど食えないことはないな。そこそこいける」

 「……お前よく食えるな」

 「何だよ、お前は食わねぇのか?」

 「パンだけで十分だ」

 「なら他は俺が貰う」


 こうして、初日はなんとか無事終える事ができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る