第8話

スマホが圏外なため警察や救急車を呼ぶこともできない。スマホのライトで照らしながら、改めて入り口周辺を見渡す。それくらいしかやれる事がない。奥に行くのは怖くて止めた。


 少しだけ落ち着いてきた頃、不自然な点がいくつか浮上してきた。


 まず、男たちの身なりだ。


 全員が粗末な服装をしている。服として使われないような薄くて汚いボロボロな服だ。


 一昔前の囚人服でももう少し服としての機能性が高い。そんなレベルの粗末さ。現代日本では逆に用意するのが手間なほどオンボロだ。そもそも男たちの顔つきも、日本人ぽくはない。


 そして身に着けているものも、バッグやスマホ、財布といったものではなく、ナイフや剣といった物騒なものばかり。完全に銃刀法違反。


 「おい、これ本物の剣だぞ。かっけぇ!」

 「遺品に気安く触れるんじゃないよ」


 それに地面に落ちていた一枚のボロ紙。見た事もない文字と凶悪な顔をした男の似顔絵が描かれていた。まるで西部劇に出てくる手配書の様な紙。


 「何だよそれ?」

 「手配書……みたいなものだろ」

 「ふーん。ん? なぁ、この手配書の男、こいつじゃねぇか?」


 田中は死体のうち一つを指さす。見比べると、確かに似ている。


 「誰かが手配中のこの男を殺した。一緒にいたこいつら、恐らく部下たちもまとめて。ってところか」


 ガサッ!


 茂みから物音。二人は反射的に物音がした方を向いて固まる。


 ガサガサッ!


 草木をかき分ける音は徐々に近づいて来ていた。


 男たちを殺した犯人か!? 二人の身体が強張る。


 ガサ―ッ!


 茂みから出てきたのは鎧を着込んだ男が二人と軽装の男女が一人づつ。いずれも剣や弓矢、盾や杖などを持ち歩いており、とても現代日本に住む格好とは思えない。顔つきも、ヨーロッパ系のそれだった。


 警戒心を剥き出しにしながら四人は力強く二人に迫る。二人はただただその威圧感に立ちすくんでしまう。


 四人が目の前までやってきた。二人の背後にある死体の山や、田中の持つ血の付いた剣、そして中田が持つ手配書らしき紙。


 『もしかして君たちがこの盗賊を?』


 四人組の内一人、金髪のイケメンがそう問いかける。が――


 「……今なんて言った?」

 「わかんねぇ……」

 「……ハロー?」


 聞いた事もない言語のため二人は全く理解できなかった。それは四人組も同じだった。


 先程の日本語での会話の内容が理解できず、警戒を示す強張った表情が一瞬、キョトンとした表情へと変わる。


 『おい、今の言語、わかる奴いるか?』

 『いや、聞いた事もない』

 『俺も』

 『私も』


 何を言っているかは分からない。だが、現状を見るに二人が手配中の盗賊を討伐したとしか思えなかった。実際は全然違うのだが。


 金髪のイケメンは『俺 ウーノ 冒険者 依頼で 来た』と、言葉を区切りながら身振り手振りで語り掛ける。


 「なんだ?」

 「おそらく自己紹介をしてるんだろう」

 「わかんのか!?」

 「おそらく。だ。自分を指さしたのは自分のことを、「俺」とか「僕」とかあたりだろう」


 中田は「俺 中田 あなた 誰?」と、同じく聞き返す。


 『通じたのか?』

 『わからん。が、少なくとも会話する気はあるようだ』


 その後も気合とボディランゲージによる対話は数十分続いた。

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