第6話

田中は玄関のドアを開けた……はずだったが、何故か目の前の光景は見慣れない場所だった。


 「あ?」

 訝しむ田中。キョロキョロと辺りを見渡すが、何も無い。前方は青空が広がるパノラマ。振り向くと、さっきまで手に握っていたドアノブも、そのドアノブがついていた扉さえもなくなっていた。


 鬱陶しいほど強い風と、さほど暑くない太陽の日差しだけが目に映る。


 足元は白く、何かの模様が描かれた地面が円形に広がっている。


 端まで行き、下を覗くと、広大な森林が広がっていた。


 「おい! 何だよここ!? どうなってんだよ!?」


 突然の事態にわけもわからず、ウロウロ辺りを行ったり来たりしながら叫ぶ田中。


 そうやってワタワタしていると、自分以外に倒れている人の姿を見つけた。


 さっきは居なかったのにいつの間に……そう思いながらもおそるおそる近づく田中。顔がはっきり視認できる距離まで接近すると、田中はぎょっとして、思わず駆けだした。見覚えのある顔だった。


 「おい! 中田! しっかりしろ!」


 倒れていたのは中田。田中とはクラスメイトである。


 必死に肩を揺すっていると、実に不愉快そうに中田が目を覚ます。


 「……」

 「無事か!?」

 「……何でお前がいるんだよ……」

 「そんなの俺が聞きてぇよ。何で俺はこんなとこに居んだよ!? ここ何処だよ!? お前何か知ってんのか!?」

 「うるさいよ……訊いてるのはこっちで……」


 寝起きの頭が少しずつ回ってきた中田。ここが自室でないことがわかると、キョロキョロと辺りを見渡す。


 「何だよここ……」

 「だから俺が知りてーんだよ!」

 「うるさいよ少し黙ってなさい」


 混乱している頭を何とか動かし、考えを巡らせる。


 「俺は自分の部屋で仮眠を取っていたはず……」

 「おう、俺も宅配便の荷物を受け取ろうと玄関を開けたはずだ」

 「お前のは聞いてない」

 「あ?」

 「だがこれで謎は解けた」

 「おぉ! 本当か!?」

 「あぁ、仮眠を取り、目が覚めると見知らぬ場所、そして見知ったバカ。ここから導き出される答えは……」


 田中はゴクリと唾を飲み込み、中田の言葉に神経を集中させる。


 高ぶる緊張感。


 中田が導き出した結論は――


 「……これは夢だな。おやすみ」

 「おう、おやすみ。って! そんなわけあるかっ! 俺は起きてんだよ! 夢なんか見るわけねぇだろ!」

 「うるさいよ! 俺の夢なんだからお前が寝てなくても不思議じゃねぇんだよ!」

 「じゃあ俺のこの状況はどう説明すんだよ! 後、さっき俺のことバカって言ったろ!」

 「ツッコミが遅いんだよ」


 この後、二人はひとしきりギャーギャーと激しく騒いでいた。

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