第4話
閑話休題。田中がスキル《ダッシュムーブ》でボスゴブリンと距離を取ったところまで話を戻そう。
中田が《ファイアボール》を放つが、田中が取り押さえなかった事で攻撃が察知されてしまった。
《ファイアボール》は寸でで躱されてしまった。
まずいことになった。
田中はしばらくスキルが使えない。中田の魔術はあと一回、しかし詠唱に時間が掛かる。
さっきので警戒されてしまった以上、詠唱中は狙われてしまうだろうし、放っても避けられる可能性が高い。
決め手になりうる攻撃がほぼなくなってしまった。
「この大馬鹿野郎! どうやってこの後ボス倒すんだよ!」
「うるせぇ! もう燃やされるのは勘弁なんだよ!」
スキルや魔術を使用するのに必要なエネルギー。SP(スキルポイント)とMP(マジックポイント)はこの世界の大気中に漂う『マナ』を体内に蓄積し、行使する。
時間が経てば体内にマナは溜まっていくが、二人に長期戦は不利だ。
普通に剣で斬りつけて倒すには田中が後何十と斬りつけなければならず、中田には魔術以外の攻撃方法がない。
それに対してボスゴブリンは、こん棒を一発か二発、まともにヒットさせれば田中を倒す事ができ、田中を失った中田に負ける要素はない。
「なんとかしなさいよこの戦犯バカ!」
「なんとかってどうすんだよ!?」
「それを考えて実行するのがケジメでしょーが!」
ボスゴブリンの攻撃を躱しながら喧嘩中の二人。このままではやられるのも時間の問題だ。
「どうすりゃいい……どうすりゃいいんだよ!?」
「一つだけ方法がある。それもそれなりに現実的な方法がな」
「あんのか!? 教えろ!」
「……絶対に文句言うなよ?」
作戦タイム中。
「結局それかよ!?」
「誰かさんのせいでこれしか方法がないんだよ。因果応報です。早く配置についてください」
「くそぉ―っ!!」
田中はいやいやながらも仕方なくボスゴブリンを相手取る。中田の詠唱を邪魔させないためだ。
詠唱が完了すると、火球が杖の先に出来上がる。〈ファイアボール》だ。
「行くぞ田中!」
「仕方ねぇ! 来い! 中田ぁ!」
現在の位置取りはボスゴブリンを挟んで田中と中田が対角線上に位置している。
ボスゴブリンへ《ファイアボール》が放たれた。だが、警戒していたボスゴブリンには当たらず、避けられてしまう。
火球はそのまま田中へ直撃した。そして、そのままボスゴブリンへと斬りかかる。
「くらえぇー! 必殺・ファイアボール斬りぃ!!」
炎を纏った田中が繰り出す斬撃がボスゴブリンを捉える。そのまま炎が伝播し、ボスゴブリンの身体は徐々に焼けていった。
数十秒後。ボスゴブリンは靄となり、結晶と未だに燃えている田中だけがその場に残った。
「熱っ! あっつい! 熱いんすけど! あっつ!」
「なぁ、お前のネーミングセンス壊滅的だな。ダサすぎにもほどがあるだろ。何だよファイアボール斬りって。俺の中の〈声に出して読みたくない日本語〉ランキングに変動があったぞ」
「今それじゃねぇだろ!? 俺燃えてんだよ!? 絶賛炎上中なんだよ!」
「はいはい、さっさと帰るぞ。魔石を換金しなきゃ晩飯食えなくなるぞ」
「おい待てよ! せめて消すの手伝えよ!」
斯くして、二人は今日も生き延びる事ができた。
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