第3話
「さて、またボスとの戦いだな」
彼らの半年をかいつまんで話している内に、どうやらボスの間へと辿り着いたようだ。
二人の目の前には大きな扉。この先にこのダンジョンのボスが待ち構えている。
「作戦はどうすんだよ」
「いつもと同じでいい。もし対応されたらとにかく隙を作れ。俺がなんとかする」
「よっしゃ! 行くか!」
「……声が大きいんだよ」
意気込む田中。それを鬱陶しく思う中田。
中田は詠唱を開始し、いつでも魔術を放てる状態になってから扉を開けた。
「《ストーンバレット》」
開幕から部屋の中央へと魔術による石礫を放つ。
部屋の中央には体躯が二メートルほどもあるゴブリン。ボスゴブリンだ。
二人に気付くと同時に、中田の放った《ストーンバレット〉が直撃する。
気づいてから一秒の間もなく攻撃されたボスゴブリンはまともにダメージを食らった。
更に追撃が入る。
「《ダッシュムーブ》、《パワースラッシュ》!!」
田中は急速に間合いを詰め、力いっぱい剣で斬りつけた。ボスゴブリンの左肩から右の腰のあたりまでがパックリと裂けている。
ボスゴブリンは苦しみ、悶えながらもこん棒を振り回して田中に襲い掛かる。
田中は危なげながらもなんとか攻撃を捌いている。が、余裕はなく、防戦一方だ。
「おい! なんとかしろよ!」
「だから待ちなさいよ。今詠唱してるでしょーが!」
少し前にもあったやり取り。二人はいつもこうだった。
「よしできた。田中! そいつ押さえておけ」
「嫌だね! 《ダッシュムーブ》」
「あっ! バカ!」
田中は一気に間合いを詰めたり、逆に離れたりする事ができるスキル、《ダッシュムーブ》でボスゴブリンから離れた。
スキルとは、文字通り技術のことであるが、異世界物においては特殊な攻撃手段や防御手段、体質など、おおよそ人間ができる事の枠を大きく超えたモノを指すことが多い。
この世界でもそういったことをスキルと呼ぶことがある。が、チート持ちではない彼らはこのスキルを得るのにも一苦労だった。
取得するためには本当に技術を磨かなければならない。
田中が使用した《ダッシュムーブ》なら訓練や実践で間合いを詰める練習を何千と試行錯誤しなければならない。
《パワースラッシュ》ならば何千と剣を振るい、力の入れ方、抜き方、剣を振るう角度などを最適化して体に染み込ませる。
そこまでして、ふとした瞬間、コツやヒラメキといったモノを手に入れると、人間離れしたスピードでの移動や怪力を瞬間的に発揮する事ができるようになる。これがこの世界でのスキル。単純な技術だけでなく、努力の先に現れる天啓とも呼べる瞬間をつかみ取らなければならないのだ。
チート持ち主人公なら、最初から様々なスキルを駆使する事ができるかもしれないが、二人には無理な話だった。
しかも、こんな初歩的はスキルを数回使っただけで、田中にはもうスキルを使用する際に必要なエネルギー的なモノが底をついてしまっていた。そんなだから二人は未だ最弱クラスの魔物狩りを延々と行っているのだが……
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