第2話
約半年程前。二人は『突拍子もなく』、現代日本から、『いつの間にか』この魔物が蔓延り、魔術が存在する世界へと飛ばされていた。
元の世界でも知り合いの二人は、協力して何とかこの世界で半年間生き延びていた。そう、協力して……
今も最後のゴブリンを田中が剣で斬り倒したところだ。真っ二つになった身体が靄のように消え、代わりに小さな結晶がポトリと地面に落ちた。
「へへ、魔石ゲット。集まってきたな」
「そろそろボスを倒して帰るとしますか」
このうす暗い、しかしほんのりと壁に光が灯った洞窟の様な空間。ダンジョンと言われる魔物の巣窟で、二人はひたすら最弱の部類に入る魔物、ゴブリンを狩り続けていた。半年間。
一日おきにこのゴブリンしか出ないダンジョンへ潜り、ダンジョン内の魔物を倒す事で手に入る魔石をある程度回収したらボスを倒して帰還。このサイクルを半年だ。
なぜこんなことを続けているかと言うと、二人はよく転移者が授けられる規格外の力、所謂『チート』を持っていないからである。
そして持っていないなりに、いい仲間との出会いや転機があるわけもなく、半年間、田中は地道に筋力を鍛え、剣を振るい、剣術をかじり。中田は文字を読めるようになり、魔術を勉強した。
そして、ようやく確立する事ができた安定した生活サイクルが、コレなのである。
チート持ちの転移者ならば、ゴブリン退治なんぞ最初期に一回でもすればそれで終わりだ。半年もあれば可愛い女の子を侍らせ、伝説のドラゴンを屈服させ、国王とのコネクションを作り、現代の美味しい料理を流行らせ、魔王の幹部を何体か討ち、国の一つや二つ救っている頃だろう。
いや、チート持ちじゃない転移者でも、半年でゴブリンを討伐するのがせいいっぱいな者というのは、稀有だろう。
とにかく、言葉を覚え、安定して戦えるようになるまでに半年ほどかかったのだ。むしろ半年でよくここまで来た。命がかかって無ければもっとかかっていただろう。
言葉が通じなければ物は買えず、宿にも泊まれない。お金も同様だ。正にゼロからのスタートだった。
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