第1話
うす暗い洞窟のような空間。
岩肌に囲まれたその空間はひんやりと、しかし不穏な空気が漂っていた。
どこからともなく聞こえる異様な声。金属や石がぶつかり合う音。
そんな音の発生源は、うす暗いこの空間に灯った暖かな光の周辺だった。
「ギャギャッ!」
鼻と耳の尖った緑色の皮膚の生命体。所謂ゴブリンと言われる魔物だ。
体躯は人間の子供ほどと小さく、しかしこん棒や短剣、弓矢などの殺傷能力が確かに有る暴力的な得物を携え、複数人でとある人間に襲い掛かっていた。
「痛っ! いだだだっ! おい! 詠唱まだなのかよ!」
「うるさいな、今やってる最中でしょーが!」
ゴブリンたちに絶賛組み付かれているのは、革の胸当てとグローブにブーツを身に着け、首からは赤い宝石のネックレスを下げ、両手には小型の盾と剣を持った男性。田中である。
「はいできましたせーのっ!」
「おい! また俺ごとかよ!」
「《ファイアボール》」
「ぎゃーっ!」
田中はゴブリンもろとも、ある男の
田中とゴブリンを燃やしたこの男の名は中田。
フード付きのローブを身に纏い、杖を携えている。田中に比べれば随分と軽装であった。
田中に纏わりついていたゴブリンは先程の魔術で全て倒され、小さな結晶が辺りに散らばった。
田中はと言うと、身体を炎に包まれたにもかかわらず、以外と平気そうだった。
「お前またこれかよ!?」
「これが一番安全で手っ取り早んだからしょーがないでしょーが」
「しょうがないじゃないんだよ! 俺毎回火だるまなんだぞ!?」
「そのネックレスのおかげで大してダメージないんだから構わんでしょ。それ首から下げとけば服も髪も燃えないわけだし」
「ダメージは大したことなくても、仲間に攻撃されるっていうのはこう……惨めな気持ちになるんだよ!」
「ほらそんなのはいいから、あいつ倒してきなさいよ」
中田は物陰に隠れながら弓を構えていたゴブリンを指さす。
居場所がバレた事で動揺したゴブリンの矢は、あらぬ方向へと飛んで行った。
「まだ居やがったのか! うぉおおお!」
この二人がこの物語の主人公。田中と中田である。
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