第3話  戦略

山部 睦美。ピッと凛々しい感じのする女性弁護士である。さゆは、弁護士にギネのクリニックへ送られた。そして、社長から院長宛の封書を携え、受診した。

真っ先に健康診断を受診させたのは、単なる集団検診ではない。食品衛生法による赤痢菌検便検査と、調理師法や警備員法による薬物の影響がない事を証明する医師の診断書、それに加えて帯下(こしけ)や性病等のギネ(女性医学)検査である。

社長だからこそ、従業員に向かって言えるのだ!拒否しようものなら、入社を取り消すこともできる。これは吉田にはできない。

その間、弁護士は車の中で、報復の欲求に突き動かされ、さゆから渡された資料に目を通しながら、過去の凄惨なイジメによる自殺願望に悩む日々を思い出していた。

だがこの提訴、民訴にせよ刑訴にせよ、誰に原告適格があるのだろうか?さゆは被害者でもないし加害者でもない。が、最後の瞬間の唯一の目撃者である。当然、マスコミの餌食になる。そこで、当時夜討ち朝駆けで散々母をノイローゼにを繰り込んだ「月刊醜聞社」を裁判にかけ、公判のたびに当事者を裁判所の傍聴席に呼びつけて、ことあるごとに実名を連呼することや、真壁家の遺族を被害者として、提訴して貰う方法。あるいはさゆを退学させない方が、学校に対して原告適格を得ることができるのではないか。等々、かつての私が悩み苦しんだ日々を彷彿させるさゆとのめぐり逢いに、あの3バカトリオにどうやって鉄槌を下せるか、どうやって一生苦しむトラウマを植え付けるか、どうやって一家離散に追い込み、財産を毟り取って破産に追い込むか、最終的にはどうやって自殺に追い込むか・・・と、この弁護士は被害者の養護よりも、未成年者の更正する権利のためになりふり構わず邁進する「人権派のニオイ」をプンプン匂わせている擁護派プロ市民弁護士ではなく、加害者の更正は一番最後、被害者救済こそが真っ先にすべき最優先事項であることを信じて疑わない弁護士であった.

さゆが、健康診断を終えた後、弁護士は道北教育委員会事務局へ、さゆと共に高認の願書を入手した。その後、住民票が必要なので、旭川市役所凌雲支所で、住民票を2通入手して、集配郵便局で作成した後、コピーを取ってから郵送した。今日が高認の〆切日である(消印有効)。あと一ヶ月ほど過ぎると、さゆは18才、そうなると「時には娼婦のように」なろうが、ロリメイドしようが、合法になる。つまり児童ポルノ・売買春法の対象外になって、保護に値しない存在になるのだ。

ズベタのピン子ちゃんでも、蓮っ葉でも年齢にカコ付けて保護せざるを得ないわけで無くなる。バイクの免許を撮った後、18歳になったらスグ、吉田さんの下にはせ参じたい!だれを敵に回しても、構わない!養護も保護も要らない!さゆは、ハヤるココロを必死に抑え、明日の車学入学と退学手続き、それに提訴準備といそしむのであった。

その一方で、さゆの兄である一颯も、弁護士に丸投げしてはいられない。吉田さんにオトコの沽券に係る問題に気付かされたのだ。オトコとは、オンナに対し頼りにされなければならない。だとすれば、どんな立場に立とうとも、吉田さんができないことで、さゆに対して頼りになる存在にならねばならない。それができなければ、さゆを「吉田さんにくれてやる」素敵なレディにできないのではないか?

荻原家の家名がドロ塗れになる恐怖を感じた!そこで、母を説得したのである「母さん!さゆと一緒に親友を自殺に追い込んだ当時のクラスメートを裁判で告発しませんか?」それに対し母は吐き捨てるように言葉を叩きつけてきた「フン!寝ぼけたことほざくのはヤメロ!未成年の犯罪なんて加害者の更正する権利が最優先、一人の被害者がどれだけ泣かされても、複数の加害者の更正する権利の方が最も大切なこと。」

「よくも私の娘の目のまえで、自殺してくれたもんだ!そのせいで、マスコミ各社から夜討ち朝駆けの取材攻勢に追われ、さゆは登校拒否、ご近所からは娘が「人殺し」「飛び降りろ!」と陰口を叩かれ、挙句の果てに娘に殴り飛ばされ、大ケガを負わされた挙句、やっとの思いで旭川に引きずり戻したら、どこの馬の骨か解らないオトコを引き連れてきて、そのオトコに土下座される。」

母は、怒りが沸き上がった!今までの人生の中で、こんなに面子も尊厳もプライドも、一敗地に塗れたのは、初めでだった。

「チクショー!どいつもこいつもトラブルの火種になることばかり、なんで学校から頻繁に家庭訪問されるのか?なんでマスコミ各社から追い回されるのか、なんで警察から任意とはいえ、何とかPMの実績なるような供述をさせられるのか?・・・やるせない!あの時、オロしておけば、良かった!一颯だけで我慢しておけば・・・」

母からその言葉を直に聞いた一颯は、何も言わずに、母の顔に往復ビンタ、それも母がさゆに対してした、平手打ちの様な甘ったるいものではない。鼓膜が破れようが、顎が外れようがしったこっちゃない、渾身の力を込めて殴りつけ、「さゆの母は、この世に存在しないし、わたしもこんな母なんてイラナイ」と、母の鼻の穴にツバを吐き掛け、去っていった。

車に乗ろうとした矢先、さゆが帰ってきた。一颯はすぐさまさゆを呼び止めて、「もうここ(ヤサ)に来るのは辞めよう。あの女(母)をサッサと老健かプシ(精神科)に入院させて、ここを売り飛ばして、裁判の費用にしよう!」そう言い放って、一颯はさゆを車に乗せ、本社ビルに向かった。

さゆはこれで解った!何故、私の住民票が、本社ビルに移したか、そのまま一人暮らし出来るMSの一部屋があてがわれたのかが・・・。

何しろビル警付管理人室があるので、いかがわしい訪問者は入館できないし、デパートや銀行並みのセキュリティ対策なので、もし矢口のような人物を入館させようものなら、即ガンクビ出せとガードマンは迫り、SS並みの警護をこなすであろう。空手・柔道の黒帯しか採用しない、レッキとした4号警備員(身辺警護)会社を傘下に収めているのだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

弔いと報復の18か月 @takechan19

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ