第11話 薬屋

 俺は子供達に「衰弱した犬をうちで預からせてほしい」と提案してみた。

 子供達の反応は様々だったが、皆一応に驚いた表情をしている。


「え、おじさんが飼ってくれるの?」

「誰がおじさんだ! 俺の年齢設定は20歳だ! ……まあいいや。訂正しておくと、その犬を飼うわけじゃない。元気にしてから野に放つだけだ。さすがに犬を飼い続ける余裕はないからな」

「そ、そうなんですね」


 子供達はしばらく頭を寄せ合って相談した後、俺に向き直り頭を下げてきた。


「お兄さん。この子をよろしくお願いします」

「おう。任せろ。犬の様子が気になったらいつでも見に来ていいからな」

「はい! ありがとうございます!」


 こうして俺は、犬を一匹預かることになった。

 

 犬の方に歩いて行って、その顎を撫でる。

 すると、犬が顔を少しだけ動かして舌で俺の手を舐めた。

 どうやら犬も抵抗するつもりはないらしい。


 俺は犬を抱きかかえると、子供達と共に路地裏を抜け出した。




 ◇ ◇ ◇




 犬を抱えてデニスの家に戻ってくると、犬を玄関先に置いて、デニス達を起こした。

 悪いと思いつつ、犬とララの事情を話すと、最初はララを叱ったりしていたが、やがてそれが済むと犬をしばらく家に置くことを認めてくれた。


 そうして犬を藁かごに入れて、リビングの一室に置いた俺は、とりあえずログアトして、その日は就寝した。


 そして、起きてきたのは夜中の3時である。ゲーム時間では翌日の朝9時であり、俺は未だ眠い頭を動かして犬の方へと向かった。


 リビングに入ると、灰色の犬の青い目と視線が合った。元気はないが怯えているといった様子はないので一安心し、その後、犬の世話に取り掛かった。


 おむつ替わりにしていた布を取り替え、カミラさんから購入した野菜などをすりつぶしてペースト状の餌を作る。エサを与えて体を暖かい布で拭いてやると、犬は少し元気を取り戻したようであった。その様子を確認してから、俺は玄関を出る。


 外へ出て向かった先は薬屋だ。

 街の北西方面にある薬屋をデニスからあらかじめ聞いていたので、そこに向かう。

 しばらく歩いていると薬屋を発見した。緑の屋根とガラス瓶のマークがついた看板をぶら下げた店である。


 中に入ると、薬草の独特の匂いが鼻を刺激した。

 構わずカウンターへと向かって行くと、中から年老いたおばあさんが現れる。


「いらっしゃい。今日は何の用だね?」

「実は、衰弱した犬を治療できる薬をさがしているのですが……」


 そこで、俺は犬の特徴や様子などを説明していった。

 おばあさんは頷きながら話を聞き終えると、こう言った。


「その子は多分犬じゃないね。幻獣の幼体だよ」

「幻獣……?」

「おや、知らないのかい? 幻獣っていうのは動物と違って知能が高くてスキルが使えるんじゃ。会話ができる個体もいるんだよ。魔物と違って人間に懐くから飼育することもできる」

「へぇ、そうなんですか」


 そういえば、このゲームソフトのパッケージにもそんなことが書かれていたような……全く覚えてないが。


「とにかく、その幻獣の子を治す薬としては、この3つがオススメじゃ」


 そういっておばあさんは、手のひらサイズのガラス瓶に入った液体薬を3つ持ってきた。

 全て赤い色をしている。


「この薬を使えば、3日ほどで効果が出てくるはずだよ。もし3日経っても効果が出ないなら、別の原因があることが考えられる。まずはこの3つの薬を使ってみるのがオススメじゃ」

「おいくらくらいでしょうか?」

「合わせて20万リルってところじゃの」


 うっ。覚悟していたとはいえ、やはり薬は高い。しかし、手持ちの金額で払えないこともない額だ。

 俺はほとんど全財産を現金化してその場で払った。3つの薬を大切に抱えてアイテムボックスにしまう。


「それじゃ、また来ておくれよ」


 そうして薬屋を後にした。




 ◇ ◇ ◇




 帰宅すると、おばあさんから貰った、羊皮紙でできた薬の説明書を読む。

 この説明書、実は読めない文字で書かれている。しかし、手にもつと『読む』というアイコンが表示され、それをタップすることで日本語化された文字が画面に表示されるため、読むのに苦労することはない。


 説明書を読み進めて分かったのは、この薬は「朝、昼、晩の3回、スポイト一滴分を垂らした200ミリルットルの水を服用して使用する」ということだった。他にも「人、幻獣どちらにも有効」とか、「この薬とは混ぜるな」とか色々書かれているが、まあ、その辺は無視してもいいだろう。



 ちなみに、『ミリルットル』というのは、感覚的には『ミリリットル』と同じと考えてよい。


 今は昼時なので、さっそく水を汲んできて、小皿に薬を用意していく。

 犬……ではなく、幻獣の前に出すと、幻獣はゆっくりと薬を飲み始めた。

 

 独特な味でもするのか、最初は本当にゆっくりと飲んでいたが、やがて慣れたようでどんどん薬を飲んでいく。5分ほど経った頃には小皿の中は空になっていた。


「よし、それじゃしばらく待っててくれな。今エサを用意するから」


 そう告げると俺はエサを用意するために、台所へと向かった。


 こんな感じで俺はその日、一日中付きっきりで看病したのである。



 〇 〇 〇



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