第12話 新たなる旅路
その日は暗くなるまで幻獣の看病を続け、夜になった時点でゲームからログアウトした。
現実の時間で午前9時頃のことである。
その後講義に出席した俺は帰ってくるなりVRマシンを起動してゲームにログイン。
幻獣の看病を続けた。
そして、幻獣の看病を続けて3日目。
ゲーム内時間で早朝に当たる時間にミカンさんがログインした。
ミカンさんはリビングに入ってくるなり、犬を抱えた俺を見て目が点になった。
「その子、どうしたんですか?」
「いやぁ、実はね……」
そして俺は幻獣を拾った経緯を説明する。
話を聞き終えたミカンさんは一つ頷いた。
「なるほど、そういう経緯ですか。でもその子、見たことない幻獣ですね?」
「そうなのか? もしかしてレアな幻獣だったりするのか?」
「かもしれないですね。最近アップデート入って幻獣も追加されているので、もしかしたらその一種かもしれません」
どうやらこの幻獣は、ただ者ではないようだ。
手を伸ばしてなでてやると、気持ちよさそうに目を細める。もうだいぶ回復して、今ではリビングの中を自由に歩くことができるまでになった。
「そっか。まぁ、俺は『獣使い』のクラスは取ってないし、あんまし関係ないな」
「私も『獣使い』は持ってないですね……ていうか、この子よくみたら可愛いですね。私飼いたかったなぁ」
「……飼うのはダメだぞ? 資金的にも厳しいし、何よりこの子の意思が大切だからな」
「そ、そうですよね。すみません」
その日は幻獣の看病と積み荷の用意をして一日が終わった。
幻獣の看病をララに任せてから、俺達はゲームからログアウトした。
◇ ◇ ◇
現実時間で翌日の18時、ゲーム時間で2日後の早朝。
俺がログインしてリビングに降りると、灰色の塊が俺に向かって飛び掛かってきた。
慌てて抱き留めると、もふもふの気持ち良い感触が肌に伝わる。
「おっと。もうこんなに元気になったのか。おーよしよし。よかったな」
そうして幻獣を撫でていると、2階からミカンさんが下りてくる。
「おはようございます! 幻獣ちゃんは元気ですか?」
「見ての通りだ。超元気だな」
一頻り幻獣を撫で終わった俺は、立ち上がると、エサの用意を始める。
「あ、手伝いますよ」
「助かる……前みたいに自分で食べるなよ?」
「食べませんよ! あの時は好奇心が勝ったから食べただけです……うう、今考えると恥ずかしい」
ゲーム時間で二日前、ミカンさんと幻獣の世話をしている時、ミカンさんはなんと幻獣用のエサを食べてしまったのである。俺が作ったエサは人にとって非常にまずかったらしく、ものすごい渋い顔をして水を大量に飲んでいた。ちなみにその時の顔写真はしっかり保存しておきました。今度からかってやろう。
そうして二人でエサを作り、幻獣に食べさせてやる。薬も合わせて与えた後、俺達はこの家を引き払うための準備を始めた。
そう、今日でこの家に滞在するのは最後になる。
これから南へ向けての旅路が始まるのだ。
◇ ◇ ◇
デニス達と別れを済ませた俺達は、馬車の預かり所にて馬車を回収した。
そのまま馬車を南門の前まで進めていく。
南門をくぐり、街の外に出ると、幻獣を馬車から下ろしてやった。
「ほら、これからは一人で頑張るんだぞ」
「達者でいてくださいね」
ミカンさんはうるうると涙をにじませながら別れを告げる。
ていうか、ミカンさんって「達者」なんて言葉使うんだ……。
そうして幻獣を見送るのだが……幻獣はなかなか離れていこうとしない。
その場にじっとしてこちらを見つめている。
「どうした? ほら、早くいきな」
そういうのだが、幻獣はその場にとどまって「くぅーん」と鳴くだけで動こうとしない。
どうしたのだろうか? と思っていると、突然視界にメッセージが表示された。
《マナガルム(幼体)がパーティーへの加入を申請しました。受諾しますか? YES/NO》
俺はそのメッセージに驚いた。まさか幻獣でもパーティーに加入できるとは。
いやしかし、そんなことよりも、これどうしたらいいのだろうか。すごく断りづらい。情けをかけて助けた相手になつかれるというのは、割と困るシチュエーションだと思う。
俺が悩んでいると、ミカンさんが言った。
「あの、トトローさん。やっぱりこの子を私達で飼いませか? お金は私が出しますから」
「うーむ」
まあ、それならいいのだろうか。ミカンさんが最終的に面倒の保障を見てくれるのならば、俺も寝覚めの悪い気分にならずに済むだろう。ミカンさんは元ガチ勢なので資金も潤沢に持っているし、定期的に狩りの時間を設ければ、収入面も問題ないだろう。
「わかった。じゃあ、この幻獣をパーティーに入れよう」
「やたっ! ありがとうございます!」
俺は画面を操作してYESのボタンを押した。
幻獣の方も仲間になったと理解したのだろう。そのまま飛び上がって俺の胸元まで飛び込んできた。
こうして、俺達の仲間が一匹増えたのだった。
〇 〇 〇
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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