第9話 商店街にて情報収集

 大通りを北に進み、しばらくして脇道に入っていくと、そこにデニスの家がある。

 街の北西方面にある住宅街に位置しているようだ。


 家は石を組んで作られた一軒家で、屋根は濃い紫色をしている。

 デニスが木製のドアを開くと明るいはきはきとした返事が返ってきた。


「おかえりなさい!」

「ただいま。帰って来たよ」

「あら、お客さん?」

「ああ、こちらはトトローさんにミカンさん。実は壊れた馬車を治してくれたんだ」

「まぁ、そうだったのね! 私はカミラです。ぜひ上がっていってください」


 家に上がると暖かい雰囲気の木製のリビングに続いていた。大きなテーブルに暖炉、キッチンなどが置いていあるようだ。

 

 テーブルに案内されてしばらく待っていると、カミラが用意したお茶を持ってくる。

 デニスとの詳しい事情などを話していると、リビングにある木製の扉から一人の女の子が現れた。10歳に満たないような小柄の少女で、若干不安そうな目でこちらを見ている。


「……だれ?」

「ララ、こちらお客さんのトトロ―さんとミカンさんよ。お父さんの馬車を治してくれたの。ほら、挨拶して」

「……ララです」

「トトローです。よろしくね」

「ミカンです。よろしくね、ララちゃん」


 話によると、この家にはデニス、カミラ、ララの3人が住んでいるらしく、当然家族の関係にあるようだ。ララは挨拶をすませると、そのまま部屋に戻っていってしまった。


 一家の稼ぎ頭はデニスで、穀物などを運びながら行商をして稼いでいるらしい。ただ、運の悪いことに普段見かけない大型の魔物に襲われて商隊が壊滅したらしく、積み荷の大半を失って大赤字になってしまったようだ。


 可哀そうな話だが、デニスは「まぁこんな事はうちの業界じゃよくあることですよ。また稼げばいいんです」と言っており、あまり悩んだ様子はうかがえなかったのでおそらく大丈夫なのだろう。


 しかし、俺も普段見かけない大型の魔物に出現したし、この辺で何か異変でも起こっているのだろうか。気になるので、後で調べてみることにしよう。


「ところで、お二人は夫婦なんですか?」

「ブフッ!」

「な⁉ いえ、違いますよ! 絶対違います!」


 突然のカミラの質問に俺はお茶を少し吹き出しそうになった。

 しかしミカンさん。そんなに必死に否定しなくてもいいんじゃないの?   まあフラグの一つも立っていない人と夫婦に見られるのなんて嫌だろうけどさ。


「そうなのですか。てっきり仲が良いので夫婦かと思っていました」

「どこをどう見たらそうなるのか分かりませんが、俺達はただ旅行先が同じなので一緒に旅をしている仲ですよ」

「そうですよ! そりゃ趣味の傾向は似ていますけど、まだ出会って2日しか経っていないですからね?」

「そうですか……残念です」


 何が残念なのかわからないが、カミラさんはそう言ってほほ笑んでから、お茶を一口含んだ。


 少し微妙な空気になった俺達だったが、そこにララが現れて「お腹空いた……」と空腹を訴えたことで昼ご飯を頂くことになった。


 俺はララちゃんにちょっとだけ感謝した。




 ◇ ◇ ◇




 デニス一家と昼飯を食べた後、俺達は観光のために街へと繰り出していた。

 時間はゲーム内時間で13時前後。場所は街の中央を南北に通る目抜き通り。この通りは商店街になっていて、結構な人数の人が行きかっている。道行く人は少しおしゃれな服装に身を包み、買い物袋をもってあちこちの露店を覗いているため、通り全体に活気を感じられる。


「結構栄えていますね。こんなににぎやかな場所だとは思いませんでしたよ」

「え、初めてなのか?」

「この辺って、あんまり来たことないんです。この街って、戦闘系プレイヤーにとっては王都への中継地点でしかない街なので、大体こういう戦闘に関係ない場所はすどおりするんですよ」

「もったいない話だな」


 二人で街を歩きつつ、適当な屋台を見つけて串焼きを数本購入する。甘ダレがかかっており、割と美味しい。ミカンさんが美味しそうに串焼きをほおばっているのを見るとさらに美味しく感じる気がする。


「ところで、この後は何か予定があるんですか?」

「この目抜き通りを寄り道しながら、馬車の預かり所へと向かうつもり。野菜を業者に卸さないといけないからね。その後は新しい積み荷を積まないといけないから、何を積むか決めてから目的の積み荷を手に入れるって流れかな」

「じゃあ、今は食べ歩きを楽しむ時間ってことですね!」

「それもあるけど、情報収集もお願いしたい」

「了解しました! 報酬は串焼き1本でいいですよ!」

「へいへい」


 そうして商店街をふらふらしつつ、色々な店で情報を集める。国政レベルの情報ならばネットの掲示板とかで情報のやり取りが行われているのだが、ローカルな情報となると現地のNPCに聞いた方が確実性が高い、とハバネロ農家さんから教わったのだ。


 というわけで、適当な店に入っては色々情報を聞いてみるが、皆意外と親切で気前よくこの辺の市場情報を教えてくれる。その話をまとめると大体このような内容であった。


 ・北方の辺境地域は今鉄不足で困ってるらしいぞ。なんでも北の辺境を治める伯爵様が今年の予算で軍事費を増強したらしい。本格的に北のゴールデンボール金鉱山を攻め落とすんじゃないかって噂もあるから、その影響かもしれんな。

 ・東の帝国は今危ないから近づかないほうがいいよ。なんでも近々戦争するんじゃないかって話だ。ゴールデンボール金鉱山を狙っているって噂もあるけど、そうするとエルティア王国やファーデルランド魔導国も戦争に参加することになるのか?

 ・今年も熱くなってきたから、そろそろ南のビーチの方も活気づいてくる頃だろうね。私の知り合いの菓子職人も南の方へと向かったよ。

 ・ここから西にある王都の方はかなり賑わっているようだね。なんでも貴族様たちは社交を始める時期らしいから、高級品が良く売れるんだよ。その影響で鍛冶職人は西に向かっている人も多いみたいだ。


 他にも色々情報はあったものの、同じような内容であったり有益な情報ではなかったり

 したので省略している。


 これらの情報を総合するに、北方では鉄、南では食料や衣服といった観光地で売れそうなもの、東は危険、西では貴金属などの高級品が売れそうって感じか。


 そうすると、どこに向かうのが最も良い手段だろうか?

 悩んでいると、ミカンさんが両手にお菓子を持ちながら話しかけてきた。このお菓子は情報料として俺が購入したものの、消費しきれなかったお菓子たちである。


「えっと、素人感覚ですが、私のおすすめとしては北か南です」

「何か理由があるのか?」

「はい。北についてなのですが、実は北西に行くと鉱山が結構あるので、うまくいけばそこで鉄や貴金属を手に入れることができるんです。そのまま西に行って貴金属を売るもよし、北に行って鉄を売るもよしなので、状況に応じて2つのルートを確保できてオススメです。南では貴重な魚介類が手に入るので、南に食糧を運んでから魚介類に積み替えて、それを活気のある西の王都へと運んでいくのもいい方法だと思います」

「なるほどな……」

「私個人のオススメとしては南なのですが……判断はトトローさんに任せます」


 ミカンさんのオススメはともかく、北も南も魅力的な市場なのには変わりない。

 ここから北西に行くとしても南に行くとしても、目的地までは大体4日ほどなので、距離的にはあまり変わらない。そう考えると、ミカンさんの希望もあるし、南がいいだろうか? それに、鉱山よりは海の方が観光のしがいはある。


「南に行ってみようか」

「ほんとですかっ⁉ やたっ!」

「じゃあ、目的も決まったし、積み荷の方に行こうか」

「はい!」


 こうして俺達の新しい目的地が定まった。


「じゃあ、報酬の串焼きいただきまーす!」

「あ、まって! それは……」

「ん~美味しい! あれ、どうしたんですか?」

「それ、俺の食べかけの串焼きなんだけど……」

「えっ」


 ミカンさんは俺が食べかけていた串焼きを奪って食べてしまった。

 事故とはいえ間接キスになってしまったことで、お互い黙りこくってしまう。

 最初にショックから復活したのはミカンさんだった。


「ま、まぁこれから一緒に旅する仲ですし? これくらいはスキンシップのうちですよ! ハハハハ!」


 俺も居心地が悪かったので、ミカンさんに合わせて会話をつなげる。


「そ、そうだな。うん。別に気にすることないよな」

「そうですよ! ハハハ」

「あはは」


 微妙な空気を抱えてしまったが、なんとかごまかしつつ、俺達は再び馬車の預かり屋を目指して歩き出した。

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