第2話 キャラメイク

 翌日の昼頃。


 久々に行ったゲームショップで目的のゲームを買った俺は、家に戻ってきてVRマシンを起動した。

 このVRマシンに触れるのも久しぶりだ。普段はたまにFPS系のゲームをやったりしていたのだが、最近まで試験期間だったので、忙しくて触れていなかったのだ。


「しかし、このゲームすごいな。プレイヤー人数2000万人って、日本の人口の6分の1くらいじゃないか? 実際に稼働しているプレイヤーはもっと少ないだろうけど、とんでもない人数だな」


 『天空の城メタトロン』は、某有名ゲーム会社が満を持して発売したVRMMORPGだ。そのハイエンドすぎるグラフィックの美しさが現実そっくりであることから、新世代のMMOとして期待され、初回ロットの10万本は数日で完売したらしい。


 その後もプレイヤー達によって伝えられる世界観の壮大さと作り込まれた戦闘システム、無数の配合レシピや知能の高すぎるNPCなどが話題になり、順調に売り上げを伸ばしていった。と某百科事典に書かれている。


 「そんじゃ、いざダイブしようか」


 駿のログインを待っていてもしょうがないので、さっそくマシンにソフトを差し込み、VR空間へとダイブする。

 視界が暗転し、続いて俺の意識そのものが暗転した。




◇ ◇ ◇




 意識が回復すると、目の前に神殿があった。

 パルテノン神殿みたいなギリシア建築風の神殿である。

 頭を左右に振ってみると、どうやら宇宙空間に浮かんでいる丸くて白い台座の上に自分が立っているということが分かった。

 

 そうして景色を眺めていると、カツ、カツという足音が神殿の方から聞こえてくる。

 神殿の方へと向き直ると、ちょうど神殿から一人の女性が現れたところであった。


 「ようこそ、メタトロンへ。私はこの世界の女神の補佐を務めています。メイザと申します」


 女性はそういってほほ笑んだ。


 俺は目を凝らしてその女性を見てみる。装飾の施された白い修道服を着た美しい女性だ。だが重要なのはそこではない。彼女の顔をよく見てみると、髪の毛一本一本に至るまで視認することができるのだ。さらに、服に反射した光の具合や肌の質感にいたっては、現実に存在しているようにしか見えない。その描写のリアルさに俺は舌を巻いた。


 俺がやっているFPS系のゲームも凝ったCGだが、このゲームはそれ以上だ。これなら、風景描写の方にも期待できる。俺の目的である傷心旅行の気分も味わえるかもしれない。

 

「あ、あの……? どうかされましたか?」

「あ、いえ、何でもありません」

「そうですか。では、探索者となったあなたには、この世界の説明をするように、と主審様から言いつけられています。この世界の説明を聞きますか?」

「じゃあ、お願いします」


 そして、俺は1分程、この世界の説明を聞いた。


 この世界(大陸)には元々国などはなく、村を作って平和に暮らしていたらしい。しかし、大陸中央に突如として現れた白亜の巨塔と大陸各地に現れた7つの迷宮によって状況が変わった。その迷宮から魔物があふれ出て、近隣に多大な被害が出たらしい。そこで、周辺の村が一致団結して迷宮を攻略したそうだ。


 そして、攻略隊のリーダーは最深部に安置されていた『予言書』というアイテムを手に入れる。この予言書は、ざっくりいうと、未来に関する情報が神から与えられるというアイテムだ。この力を使ってリーダーたちは王となって国を興したらしい。


 その後、この予言書に「最初に白亜の巨塔『天空城』を攻略した者に神の力を与える」という記述が現れたため、各国の王は神の力を求めて天空城に挑むようになったそうだ。しかし天空城には強力な魔物が多く居たため、強力な武器や防具、数多くの戦士とそれを養う食糧を整える必要があった。そこで、各国は自国の国力を高め、互いの国力を削り合うために、日々争い合っているらしい。


 そんな中に送り込まれるのが俺達『探索者』。神の祝福を受けた戦士という設定で、各国に所属して天空城の攻略を助ける存在らしい。もちろん攻略すれば探索者も神の力を手に入れられる。プレイヤーにとってはこの神の力を手に入れるために天空城攻略を目指すことがメインストーリーとなるようだ。


ざっくりいうと、こんな世界観である。


「この世界の説明は以上になります。何か質問などはありますか?」

「特にないです」

 

 まあ、壮大な世界観の設定があるようだが、俺には関係ないことだ。俺は美しい風景を見て心癒されに来ただけだし、本編のストーリーとは離れた所で細々とプレイするつもりだからね。

 

「それでは、名前を設定してください」


 名前は……そうだな。寿司が好きだから、『ト〇丸』と『スシ〇ー』をかけて、『トトロー』でいくか。


「トトローさんですね。それでは、容姿を設定してください」


 女性が言うと、目の前に平均的な西洋人男性のマネキン姿とたくさんの画面が表示される。画面を操作することでマネキンの容姿を変更できるみたいだ。

 

 俺はいくつかの画面を操作すると、きわめて平凡な茶髪の男を作成する。というか、モデルとして用意されている組み合わせを少しいじっただけの手抜きの容姿だ。優男っぽい顔だが、まあ、観光するのに強面やイケメンにして目立つのは逆に面倒ごとに巻き込まれてよくないだろう。


「容姿が決まりましたら、次はクラスを選んでください」


 先ほど同様に現れた画面を操作して、クラスの確認をする。


 ……クラスは全部で18種類あるようだ。戦闘系と非戦闘系に分かれていて、それぞれ9種類ずつ用意されている。

 

「うーん。普段なら迷わず戦闘系を選ぶんだけど、たまには違うものもいいかな」


 今回の目的は観光だ。戦いなどのストレスのかかる展開はできるだけ避けたい。非戦闘系ならば、戦わなくても路銀を稼ぐことができるだろう。特に、生産系が狙い目だ。

 

 その生産系のクラスには6つの種類がある。



・鍛冶師:武器・防具や金属主体のアイテムを作れる。金属を扱う職業。

・錬金術師:回復薬やアクセサリー、素材系アイテムなど、様々なアイテムを作れる。主に非金属を扱う職業。

・裁縫師:服飾アイテムを作れる。

・調理師:料理アイテムを作れる。

・建築師:建築スキルを使用できる。建物を効率よく作れるほか、インテリア系のアイテムも作れる。

・釣り師:釣りスキルを使用できる。



 俺はその中から錬金術師を選んだ。理由は特にないんだけど、一番手広く生産ができるみたいだし、応用が利きそうかなと思ったのが一番の理由だ。


「錬金術師ですね。それでは装備を付与します」


 女性がそういうと、俺の体の周りに装備が出現する。ごわごわとした手触りのくすんだ色をしたシャツにズボン、革製のスニーカーのような靴を履いているようだ。腰には革製のベルトがついていて、脇差のあたりに一本のナイフが収納されている。


「最後に所属国をお選びください」


 再び現れる画面には7つの国が表示されている。

 表示されている国はこの7つだ。



・ガルファング帝国:大陸の東に位置する帝国。『いくさの予言書』を持っており、好戦的。

・ファーデルランド魔導国:大陸の北に位置する技術立国。『術の預言書』を持っており、実力主義の国柄。

・エルティア王国:大陸の南に位置する王国。『人の予言書』を持っており、穏やかな国柄。

・ロートルハイム共和国:大陸の南西に位置する商業立国。『富の予言書』を持っており、明るい国柄。

・レーゼンシャフト公国:大陸の北西に位置する公国。『民の預言書』を持っており、質実剛健な国柄。

・ソレド国:大陸の北西に位置する島国。民族国家で亜人種が多く住む。『わざわいの予言書』を持っており、排他的な国柄。

・パトラ教皇領:大陸の中央に位置する国。パトラ教というこの大陸で広く信仰されている宗教の総本山でもある。『すくいの予言書』を持っている。



 『〇の予言書』というのは、〇に入る文字に関する予言が得られるという意味らしい。それと、『ソレド国』と『パトラ教皇領』は文字が灰色になっていて選択できなかった。


 そうなると、観光目的の俺に最も適している国は……おそらくエルティア王国だろう。というわけでエルティア王国を選択する。


「エルティア王国ですね。それでは、以上の設定でメタトロンの世界に転移しますが、よろしいですか?」

「お願いします」


 俺がそういうと、女神は目を瞑る。


「それではトトローさんをメタトロンに転移させます」


 その言葉を最後に俺の全身が光に包まれる。

 その後、空中に放り出されたような感覚に襲われた。

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