第6話 希望はすぐ傍に
「ソフィア。グランくん。大事な相談があるんだ」
二人は真剣な顔で僕を見つめる。
そんな二人にも現状起きている事を伝える。
まだ6歳なのでどこまで伝えられるかは分からないけど、もしもの時のためにも話ておく。
「お兄様。一か月以内に見つけられなかったら、私達は一緒に住めないということであってますか?」
すっかり賢くなったソフィアは、現状を理解してくれたみたい。
「そうなんだ。でもそうならないように僕が何とかするよ。だから…………グランくん」
「はい」
「もしもの時は、ソフィアを連れて王都から逃げて欲しい」
「お兄様!?」
ソフィアが声を荒げる。
「ソフィア。もしもの時だよ。必ず僕が何とかするから」
不安そうに見つめるソフィアだったが、グランくんに視線をやると決意した表情で頷いてくれた。
言葉は交わさなくても男同士の約束というものだ。
これならもし失敗してもソフィアの安全は確保される。
今のグランくんなら難なく王都から逃げる事も出来るだろうから。
二人を残し、どうしたらいいか考えるために、部屋に戻って行った。
◇
◆ソフィアとグラン◆
「グラン」
「はい。ソフィアさん」
「私は逃げないわ」
「そういう訳には……」
「だって、お兄様が私とお母様を守ってくださったように、今度は私がお兄様を守りたいわ。だから力を貸して!」
「ソフィアさん…………もちろんです! 僕もお兄様には助けられました! 元々身体が弱かった僕に訓練を教えてくださって、今はこうして健康になってます。これからもお兄様やソフィアさんと一緒に過ごしたいですから!」
「うん! それでね。私がずっと考えている
「何でも言ってください!」
「えっとね。こういう魔法で~こういう感じで~」
「それは凄いです! もしこれが完成すれば!」
「そうよ! お兄様のためにも頑張りましょう!」
「はいっ!」
カインが一人でイベントに立ち向かう中、ソフィアとグランはとある魔法を完成させるために日々を送った。
◇
一か月後。
その一番の原因は…………僕の足だ。
動かない足がなければ、今すぐにでも潜入したり、母の書斎を探す事も出来るだろうけど、このままではどれも叶わない。
アーリーにも少し相談してみたが、彼女達はただのメイドでああいう事は出来ないという。
それに僕を運んで貰うだけでも、アーリーだけでは力不足にもなってる。
リアさんに助けを求めてもいいんだけど、あまり心配はかけたくなければ、母とさらに対立する事になるだろうから、一歩違えば大きな溝を生むかも知れない。
自分の無力な足を見つめる。
僕はどうして歩けないのだろう?
神は僕に自ら歩く事すらダメだと言うのか。
前世でも歩けない事に大変な思いを沢山してきた。
なのに、せっかく自分が好きな『ディスティニーワールド』の世界に転生したにも関わらず、僕は自由に動く事が出来ない。
窓の外を羽ばたいている鳥を見かけるたびに、人ではなく羽を持った鳥に生まれ変わりたいとずっと願っていた。
ソフィアの隣で一緒に剣術の練習をしているグランくんがずっと羨ましいと思っていた。
僕は…………これからどうしたらいいのだろう。
ソフィアを守りたいのに、動かないこの足が僕に重くのしかかる。
「カイン様……少し風に当たるのはどうでしょうか……」
アーリーが心配してそう話す。
「いい」
「ですが…………」
「っ! いいんだ! 僕が何とかしなくちゃいけないのに、遊んでる暇なんてないんだ!」
「も、申し訳ございません!」
アーリーが泣き顔で部屋を後にする。
あ…………。
柄にもなく怒ってしまった。
怒りたい訳じゃなかったのに…………。
そんな彼女を追いかける事も出来ない…………。
一体僕は何をするために生まれたのだろう。
誰のために生まれたのだろう。
このまま…………グランくんがソフィアを連れて逃げてくれれば、それはそれで良いのかも知れない。
ふと、自分の頬に冷たいモノを感じる。
涙か……いつぶりの涙なのだろうか。
前世では『ディスティニーワールド』に出会うまで、何も出来ない自分に後悔して、涙を流していた。
でもそんな僕に生きる力をくれたのが、『ディスティニーワールド』…………この世界だ。
どこまでも羽ばたくソフィアと一緒に沢山の冒険に出でいた。
諦めたくない。
諦めてたまるものか!
せっかく自由この世界に生まれ直したのに、挫けていて何が変わるというのか。
足が動かないなら、手と頭を動かせ。
何か出来る事はないのか!
その時。
「お兄様」
部屋に綺麗な声が響き渡る。
何度も聞いたその声は――――ソフィアのモノだ。
急いで、自分の頬に流れた涙を拭く。
「そ、ソフィア? どうしたんだい?」
少し怒った表情のソフィアがゆっくり近づいてくる。
そんなソフィアを眺めることしか出来ず、自分の中で溢れそうな涙をこらえるに精一杯だ。
僕の前に来たソフィアは、足を崩し僕の目線より低くして、僕を見つめる。
澄んだ翡翠色の瞳が僕を見つめる。
『ディスティニーワールド』でも高級宝石として有名なエメラルドグリーンのような美しさだ。
「お兄様。私はこの先もずっとお兄様と一緒にいたいです。もしお兄様邪魔だと仰っても隣にいます」
「邪魔なんて思って…………」
邪魔なんかじゃない。
寧ろ君は僕の夢だ。
ずっと一緒に冒険に出掛けたいと思っていた存在なんだ。
そんな君を邪魔だと思うはずがないじゃないか…………。
「私、ずっと考えていました。お兄様が仰っていた『私が望む魔法』というのは何か、ずっと考えていましたの」
「魔法……?」
魔法が使えないと、諦めていた訳ではないのか……?
「私が心から最も望む魔法――――それはお兄様とずっと一緒にいる事です。お兄様と――――――
自由に世界を羽ばたきたいんです」
それは僕もだ!
でも……僕には動かない足があるから君の隣に立つ資格など…………ありはしないんだ……。
「だから、私は私なりに夢を掴むためにずっと魔法を練習しました。お兄様。私が
手を差し伸べるソフィア。
まだ幼さが残る美しいソフィアが僕の見上げる。
僕は…………どうしたらいいのだろう。
歩けない僕に、ソフィアと一緒に
「僕は…………歩けないから、君と一緒には歩けないよ」
自分の心を表すかのように、
そんな僕をソフィアは優しい笑みを浮かべて、ハンカチを取り出し僕の涙を拭いてくれる。
そして、彼女は僕が想像だにしなかった言葉を話した。
「お兄様? 歩けないのは残念ですけれど、お兄様に教わった魔法で『飛行魔法』を開発しましたの! さあ、お兄様! 一緒に空を飛びましょう!」
満面の笑顔のソフィアは、希望に満ちたその瞳で僕を見つめ、僕の両手を握りしめる。
その手から伝わる温かさは、今まで一度も感じたことがないモノだった。
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