第5話 初イベント到来

 俺が8歳に、ソフィア達が6歳になった。


 ここ最近は毎日剣術や魔法の訓練を続けている。


 経過からいうと、まずグランくんが無事『超越者』になれた。


 チートスキル『切り裂く者』を獲得出来たようで、真っ先に報告に来てくれて不用心だなと笑ってしまった。


 本人には誰にも言っちゃだめだと言ったら、まさかソフィアにまで秘密にしている。


 そんな彼のチートスキル『切り裂く者』は、刃物を手で持った時だけ効果が発動し、その刃物に絶大な切れ味能力を付与するスキルだ。


 世界最強クラスの金属であるミスリル神が与えた金属で作った鎧も、刃がボロボロになったボロナイフですら切れるようになる。


 そういう事もあって、ゲーム内では永遠のナイフ持ちと比喩され、両手にナイフを持たせるだけで最強格のパーティーメンバーになるので、二次創作では両手にナイフを持ったグランくんが人気だったりする。


 そんなグランくんには力を制御する方法を主に練習させている。


 力を使い過ぎると刃物から見えない刃が伸びて、触れてなくても切れてしまうからだ。


 今は丁度剣を覆うくらいに力を抑える練習に勤しんでいる。



 次はソフィア。


 ソフィアは意外と、未だに魔法が使えない。


 ちゃんと魔法の訓練は続けているみたいだけど、僕が話した「本は参考にするな」が効いているのか、全く魔法が使えない。


 少し後悔する面もあって、魔法の本を読ませようとしたら、本人が全力で拒否した。


 珍しく拒否するソフィアに驚いて、あれ以上は勧めないようにしている。


 ソフィアは魔法も訓練しながら、剣術も続けている。


 ゲームでは元々バランスの取れたステータスだったから、何をしても上手くなれるだけあり、妹も何をやってもそつなくこなしている感じだ。



 最後に僕。


 ゲームではひん曲がった性格で詳細は知らなかったけど、この身体はチートスキル『無限魔力』があるおかげで、武器や身体に魔力を覆わせるスキル『戦気せんき』を無限に使い続ける事が出来た。


 戦気は魔力を覆わせることで、覆わせた魔力の濃さで能力値を付与するスキルで、上位者の戦いでは基本なモノとなっている。


 それを最大の濃さでずっと使えるので、動けない代わりにずっと戦気を使い続けて訓練している。


 ちなみに、この戦気はグランくんはもちろん既に使えるけど、ソフィアも使えたりする。


 ソフィアにも毎日戦気を使わせる訓練はさせているので、6歳児となった二人は相当強くなったと思う。


 これなら何らかの事情で王都から外に出ても、魔物や盗賊にやられる心配は少ないかな。




 ◇




「カイン」


「はい。お父様」


 珍しくお父様に呼ばれたので、お父様の書斎にやってきた。


 今ではすっかり身体も大きくなったので、メイド二人で運んで貰っている。


「大変な事になった」


 お父様の言葉に不安を覚える。


「リズが裏の取引をしていたことが、王国軍にバレてしまった」


「え!?」


 突然の出来事に色んな想像が頭を駆け巡る。


「どうやら、禁止されていた酒を密輸していたそうだ」


「密輸……」


 禁酒にはとても聞き覚えがある。


 僕は王都のイベントは進めたことがないので、何が起きるかは分からないが、王都で一番近場であるケアリア街で受けられるイベント――――『禁酒工場襲撃』というイベントを受けられる。


 ほぼ間違いなくその関連のイベントだろう。


 ただ一つ気になるのは、そのイベントが起きるのはもちろんゲームが始まった後だ。


 それってソフィアが15歳になって主人公として動けるようになってからだ。


 今のソフィアはまだ6歳。


 イベントまで9年以上かかるはずなのに、こういうイベントが起きたことに驚いた。


 ソフィアが15歳になっても、リズ夫人はまだ健在のはずなんだけど……。


 それにイベントの主軸であるソフィアはまだ王都にいる。


 ケアリア街には一度も行ってないはずだ。


「お父様。王国側からの捜査が入るのですか?」


「うむ。しかし、王国は我々も疑っているのだ」


「そんな…………」


「そこで王国側から一つ提示された。一か月以内にリズの裏取引の現場を我々で押さえることが出来れば、我々の容疑は晴れるという」


「つまり、一か月以内に暴けなければ、ソフィアにまで…………?」


「ああ。私もそうだが、カインやソフィアまで捕まることになるだろう」


 …………ここでソフィアを捕まえさせる訳にはいかない。


 何としてもソフィアの安泰は僕が守らなければ。


 ただここで問題になるのは、このイベントが王都のモノであることだ。


 僕はずっとソロプレイヤーを貫いていたので、ソフィアと恋人候補の最初のイベントである王都帰還イベントを体験した事がない。


 となると、ここは自力でこのイベントをクリアする必要が出てくる。


「お父様。ここは絶対に母上の犯行を暴きましょう」


「しかしだな……どうやったらいいのか……」


「そこは僕に任せてください。必ず暴きましょう」


「か、カイン……よろしく頼む! 必要なモノがあれば、なんでも言ってくれ!」


「はいっ!」




 転生して初めてのイベントは、こんな形で突如訪れたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る