第4話 飛べない僕に代わりに

 ソフィアの力が目覚めた日は誕生日という事もあり盛大に祝った。


 次の日。


「ソフィア」


「はい。お兄様」


「ソフィアが授かった力は、とても大きい力でね。これからちゃんと使えるように頑張って欲しいんだ」


「はいっ。お兄様!」


「最初は上手くいかないかも知れないけれど、日々少しずつ頑張って行こう」


「はいっ!」


「では、始めにこれから毎日やって欲しい事があるんだ。魔法を使うためには、まず自分自身の中にある『魔力』を自分に同調させる必要があるんだ」


 これがチュートリアルで教わる魔法を使う方法である。


 正直、ゲームではボタンを押すだけで発動するスキルや魔法なので、魔力を同調させるなんて行為はしたことがない。


 では何故同調するのを知っているのか。


 もしも妹が本来のチートスキルに目覚めた際に教えるために、僕が持っている『無限魔力』を感じるトレーニングを続けて来た。


 そこから何をやったら楽に魔法が覚えられるか色々試してみた。僕は魔法が覚えられないけど。


「同調……ですか?」


 首を傾げる仕草も可愛らしい。


「自分の中に、もう一人の自分がいる感覚だ。自分に声を掛ける感覚なんだ。さあ、楽に座ってみて」


「はい」


 僕の指示に従って座り込む。


「目をつぶって、自分の中に居るもう一人の自分に声を掛けるんだ」


 ソフィアから返事は返ってこないが、既に集中していて、自分の中のもう一人の自分――――『魔力』と対話を試みていると思われる。


 そんな妹を優しく見守りながら、待っているとグランくんがやってきた。


「お兄様? ソフィアさんはどうしたんですか?」


「ああ。ソフィアは現在自分の中の魔力と対話を試みているんだよ」


「魔力?」


「グランくんもやってみるといい。剣士も魔力が使える事で色んな事が出来るからね」


「はいっ! お兄様が仰るなら頑張ります!」


 グランくんもソフィアから少し距離を取って、ソフィアの真似をする。


 自分の中にあるもう一人と対話すると伝えると、グランくんもすぐに集中する。


 二人とも本当に優秀なんだな。


 僕は自分の魔力と対話出来るようになるまで、数か月も掛かったのにな……。


 暫く二人を眺めていると、グランくんの方が先に目を開けた。


「お兄様。僕の中にいる『魔力』とちゃんと対話出来ました!」


「グランくんもこれで魔力が使えるようになったんだね。おめでとう」


「はい! 全てお兄様のおかげです!」


「いやいや、これはグランくんならいずれ辿り着く境地だからね」


 ものすごく目をキラキラさせているけど、本当にただ教えただけだからな。


 優秀なグランくんなら、いずれ簡単に気づいたと思う。


 ソワソワしているグランくんに苦笑いをこぼしながら、ソフィアが目を開けるまでゆっくり待つ。


 メイドのアーリーが淹れてくれた紅茶を楽しむ。


 ソフィアの母親であるリアさんは、すっかり元気になって屋敷で働いていて、お父様の寵愛を受けた事もあり、メイド長になって屋敷を色々仕切っている。


 それがリズ夫人は面白くないみたいだけど、そこはあまり手を出してはこない。



 ソフィアが目を開けたのは、暫く後の事だった。


「お兄様。『魔力』と対話を終えましたわ」


「お疲れ様。ソフィア」


「ソフィアさん。おめでとうございます」


「あら、グランくんも来ていたの。いらっしゃい」


 何度も聞いたソフィアの声なのに、口調がゲームとあまりにも違い過ぎて違和感が…………。


「お兄様! これから魔力さんが力を貸してくれる事になったので、魔法の訓練も頑張りますわ!」


「そうだね。ソフィアなら絶対に出来るよ。ソフィアが望む魔法を想像してみて」


「私が望む魔法ですか?」


「ああ。ソフィアだけが使える魔法だよ。本とかはあまり参考にしなくていい。ソフィアが便利だと思う魔法を想像してみて」


「…………はいっ! 私、頑張ります!」


「グランくんも、これから魔力を使った訓練を一緒にやってみるといい。ただし、周りに人がいない時にね? 危ないから」


「はいっ! 僕も頑張ります! お兄様!」


 二人の頭を優しく撫でる。




 このまま二人が元気に育ってくれたら、ディエリス家とエルヘス家が潰えたとしても、問題ないだろう。


 グランくんには申し訳ないけど、妹のためにも強くなって貰いたい。


 動けない僕に代わり…………妹を守ってくれたら嬉しい。




「…………」


 ソフィアが何かを決心したように僕を見ていた事を、僕は全く気付かなかった。



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