第3話 目覚める力
僕が7歳に、ソフィア達が5歳になった。
「ソフィア様! お水をお持ちしました!」
「偉いわ! はい、お兄様。お水をどうぞ」
水を持ってきてくれたグランくんが尻尾を振るかのようにソフィアに手渡しして、今度はそれをソフィアが僕に渡してくれる。
すっかりグランくんはソフィアの子分と化している。
ゲームではこんな感じじゃなかったんだけどな…………どちらかというと、グランくんに沢山助けられて、最初の時点でソフィアもグランくんを好いている感じのはずなのにな……。
だが、ソフィアはそう簡単には渡せん!
ソフィアを手に入れたいならこの兄に勝ってからだ!
グランくんがチートスキルを授かったら秒殺されるけどな!
「ありがとう。ソフィア、グランくん」
「うん!」「はい!」
二人は日頃からずっと僕の隣で生活するようになった。
重度のドMを遺憾なく発揮しているグランくんは、もはやうちに入り浸る生活を送っている。
エルヘス家の当主様と、うちのお父様が仲良しなので、毎日うちに来ても問題ない。
そもそも、グランくんはソフィアと婚約させるためにうちに挨拶に来させたから。
最近では貴族の嗜みや軽い剣術、魔法なども一緒に学んでいる。
本来なら僕は先に受けるべきなんだけど、お父様に話してソフィア達が受ける時でいいと伝えている。
剣術も魔法も『ディスティニーワールド』のチュートリアルで学べる内容ばかりだったけど、ソフィア達が幼いからなのか、二人は理解に苦しんでいる様子。まだ幼いからなのだろう。
この世界ではレベルでスキルを獲得するのではなく、熟練度を上げれば新たなスキルを獲得出来るシステムになっている。
たとえば、木剣でも素振りを繰り返せば、剣術の熟練度が上がって行き、一定値に届くと『剣術、二連斬』と覚えるように、続ければ続くほど、どんどん強いスキルを覚えていく。
さらに一定値の熟練度を越えると『剣術の心得』などの心得スキルを獲得する事が出来て、才能『剣術』が手に入る。
才能があれば、それに対するステータスやスキルに高い効果が付与されるので、基本的にはこの『心得』を取得するまでに繰り返すのが定石だったりする。
一所懸命に木剣を素振りしている二人を見ながら、僕も椅子に座ったまま素振りを繰り返す。
一回素振りをすると熟練度が1ずつ上がるが、次のスキルを獲得するまで1000は必要なので果てしなく遠い。
ソフィアのデータ的には物理職でも魔法職でも行けるので、剣術を極めるもよし、弓術や、槍術でもよい。
ただ、ソフィアのチートスキル的に相性が良いのは、やはり魔法使いではあるんだけど、それでも色んな職に付けたり、繰り返せばいつかは強くなれるのが『ディスティニーワールド』の面白い所だ。
ただ、それには実は裏技的なのも存在する。
「ソフィア。グランくん」
「「は~い」」
素振りをしていた二人が小走りで僕の前にやってくる。
「いいかい? これから素振りをするときは――――こうやってみて」
そう話し、彼らに
一度木剣を上から下に空を斬らせる。
本来ならそのまま上に待ちあげて、また斬るのだが、下がった木剣を逆向きにして、上を斬りながら上げる。
これは下段斬りからの上段斬りをセットにした上下斬りの応用だ。
「お兄様? それは何が違うんですか?」
グランくんは既に気付いたようだけど、ソフィアは気付かなかったみたい。
「ほら、まずは上から下を斬るでしょう。本来ならこのまま上に持ち直すけど、持ち直さずに木剣を上向きにして上に斬る! これで連続で斬る事が出来るんだ」
「本当だ! お兄様凄いわ!」
「ソフィアは基本的にこの上下を意識してみて。グランくんは上下だけでなく左右と突きも入れてみて」
「! 分かりました!」
どうやらそれが何を意味するのか、グランくんはすぐに理解したようだね。
さすがは剣術適正
二人の素振りを眺めながら、僕も木剣を両手を使い、右手、左手、上下を振り上げ下げを繰り返した。
◇
ソフィアの5歳の誕生日の日。
急に難しい表情をしたソフィアが僕の下にやってきて、足元に抱き付いた。
「ソフィア? どうかしたのかい?」
「…………お兄様。ソフィアのこと、嫌いになりませんか?」
不安そうな視線を僕に送るソフィア。
そんな妹の頭に右手を上げる。
「僕がソフィアを嫌いになるなんて、ありえないよ。どうしたんだい? なんでも相談に乗るよ?」
「はい…………実は、さっき頭の中に変な声が聞こえましたの……」
変な声?
それってもしかして……?
「どんな声が聞こえたんだい?」
「何か、スキル『そうせいまほう』? を獲得しましたーって…………」
「そうか。おめでとう。ソフィア」
おめでとうと言われてポカーンとする妹の頭を撫でながら、ゲーム同様に妹が『超越者』になった事に一安心する。
もし『超越者』じゃなかったとしても、僕の知識でなんとかソフィアには不自由しない生活をさせてあげたかった。
でも彼女はちゃんと力に目覚めたので、これからの心配はないね。
こんな感じだとグランくんも目覚める日が近いはず。
それなら二人はこんな僕なんかいなくても、きっと幸せな生活を送れると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます