第7話 その名は『天空の覇者』

「ソフィア!? い、いま……なんて!?」


「ふふっ。初めてですの! お兄様を驚かせられました!」


 嬉しそうに立ち上がるソフィアは、ずっと僕の両手を離さない。


「実はずっとこの魔法を練習していましたの。お兄様と一緒にを飛ぶために!」


「空を……飛ぶ?」


 一体ソフィアは何を言っているんだ……?


「丁度窓も開いてますわ。さあ、お兄様? 行きますわよ?」


 行く? どこに?


 目をつぶったソフィア。


 そして、彼女の口からとんでもない言葉が放たれる。




「――――創生魔法『天空の覇者』」




 直後、信じられない出来事が起きる。


 なんと、僕の身体が宙に浮いたのだ。


「ソフィア!? ぼ、僕の身体が宙に浮いたよ!?」


「ですの! 私もまだ慣れないのですけど、このまま空を飛んでみましょう! お兄様!」


「えっ!? 飛ぶ!? えええええ~!」


 ソフィアに手を引かれたまま、僕の身体が窓から外に出る。


 本当に空を飛んでいるんだ。


 広場で剣術の練習を続けていたグランくんが僕達に両手を振っていた。


「グランくんもずっと練習に付き合ってくれましたの。おかげで完成させることが出来たのですよ! お兄様!」


「そ、そっか。あとでグランくんにも感謝を言わなくちゃな」


「はい! 彼も喜びますわ!」


 ああ……。


 空を飛ぶってこんな気持ちだったのか。


 いつも高い景色には憧れを抱いていた。


 それが今は僕がそこに立っている。


 空から眺める屋敷はとても小さくて、王都もどんどん小さくなって、世界はこんなにも小さく――――広いんだなと教えてくれる。


「お兄様! これで少しは元気になりましたか?」


「…………うん! ありがとう。ソフィア」


「えへへ、それでこそお兄様ですわ! やっぱりお兄様は暗い顔より笑顔が良いですの!」


「そうだね。一人で抱えていてすまなかった。これからは一緒に頑張ろう」


「はい! 私もその方がいいですの!」


 あはは……まだ6歳児のソフィアに色々悟らされたな。


 それに、この魔法があれば、僕も少しは動けるようになるだろう。


 身体能力ならグランくんもきっと良い助けになってくれるかも知れない。


 これからみんなで力を合わせてこの危機を越えて行きたいね。




 その時。


「あっ! 魔力切れですわ!」


 ソフィアから不穏な言葉が放たれる。


 えっ?


 魔力切れ?


 ここで?


 ここ上空だよ?



 直後に、僕達を覆っていた魔法が解かれ、いわゆる自由落下を体験することになった。


 ソフィアの魔法で気づかなかったけど、空ってものすごく強い風が吹いているんだ!?


 急いでスキル『戦気』を全開にして、ソフィアを手繰り寄せる。


 魔力切れで少しうとうとしているソフィアを両手に抱きしめる。


 強風の中、温かなソフィアの体温が伝わって来る。


 って!


 そんな事考えてる場合じゃない!


 このまま墜落したら、二人してぺちゃんこになるだろう!


 考えろ!


 考えるんだ!


 何か方法はないのか!


 僕の中には無限の魔力がある。


 その魔力をソフィアに渡す事が出来れば…………。



 あ、ソフィアは力尽きている。



 どうしよう!?


 魔法……魔法…………。


 もしもだ。


 僕が魔法が使えれば、無限の魔力でまた空が飛べるはずだ。


 でも僕のチートスキル『無限魔力』は効果こそ絶大だが、現存する魔法は全て使えない。



 …………。


 …………。


 ん?


 現存する魔法は使えない。


 でも現存してない・・魔法なら使えるって事?


 たしか、ソフィアは「創生魔法『天空の覇者』」と唱えていた。


 僕は伊達に数年も『ディスティニーワールド』をやり込んでいた訳ではない。


 プレイ中に手に入れた情報は、もはや歩く辞典になるほどのはずだ。


 そこで真っ先に疑問に思うのは、『天空の覇者』という魔法は存在しないこと。


 特殊スキルにもそういうスキルは存在しないはずだ。


 つまり、これはソフィア自身が考えついた魔法のはずだ。


 つまり!


 これは現存する魔法ではない!


「創生魔法! 『天空の覇者』!」



 - 創生魔法『天空の覇者』のアクセス権限をマスターに申請します。-



 申請!?


「ん……お兄様からの…………はい。この魔法はお兄様のための魔法……許可します」


 小さい声でソフィアがつぶやく。



 - 創生魔法『天空の覇者』の許可が下りました。使用可能になります。-



 すると僕の中の魔力が何かに変化する感覚に陥る。


 落ちていた僕達の身体がふわっと起き上がり、空に浮遊するようになった。


 あはは……そうか……これがソフィアの力。


 そして、僕が『無限魔力』を持っていた意味・・だったのか。


「お兄様……?」


「ソフィア。ありがとう。おかげで、僕空を飛べるようになったよ」


「えへへへ……嬉しい……ですの…………」


 そう言い残したソフィアは力尽きて、僕の腕の中で眠ってしまった。


 初めて妹を両手に抱いた僕は、この幸せな時間をいつまでも守っていくと、誓ったのだった。



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